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パートナー


 城内を抜け出した二人。城の外は森林に囲まれていた。

 鬱蒼とした森で、月明かりも殆ど射さない。

 道も整備されていない獣道なので悪路である。


 「真っ暗で道がほとんど見えないな」


 ヒズルは、ぶつからないようにと右手を前方に突き出しながら進む。


 突然、ルーズィが指をパチンッと鳴らす。すると、霊魂のような火の玉が現れた。


 「おお。すげえ。何それ」


 「ふふん。魔法よ。ダークエルフは魔法に長けているの」


 ルーズィは誇らしげな顔を浮かべた。

 

 それから数時間ほど歩いたのだ。



 「だいぶ歩いたな。少し休もう」


 ヒズルは近くの大樹に腰を掛ける。

 ルーズィは向かい側に座った。


 「で? なんで私を助けたの?」


 ルーズィは澄み切った瞳でヒズルを直視した。

 

 「先に言っておくけど恐らく信じられないと思う」


 ヒズルは自分の指をコネコネと弄る。

 

 「話して」


 ヒズルは此処に至るまでの経緯を全て説明した。

 自分は別の世界から来たこと。

 この世界が、元々はゲームという嗜好の産物によって生み出されたこと。

 自分達の世界でルーズィはオ○ネタの女神として敬われ、少子高齢化に拍車を掛けていたこと。

 そして自分自身もその一人であったこと。最後に贖罪をすれば帰れる可能性があることも話した。


 説明を終えたルーズィの感想は、

 

 「屑だわ。ド屑ね。正真正銘の屑。ド・ク・ズ」であった。


 「やっぱり? なんか話してるコッチが恥ずかしくなってきたわ」


 ヒズルは赤面して頭をポリポリと搔く。


 「それにしても、なんだか胡散臭いわね」


 「でも事実だ」


 「ま、嘘を吐くにしてももう少しマシな事を言うでしょうからね。

 きっと本当なんでしょうね」

 

 「というわけで許してくれ。つーか城から助けてやっただろ。許せ」


 ルーズィを救い出した王子様気分のヒズルは調子に乗った。

 その態度が癪に障ったのか、ルーズィは眉をピクリと動かす。

 そして妙案を思い付いたと言わんばかりにポンッと手を叩く。


 「私が許さないと貴方帰れないのよね?」


 ルーズィは、いじめっ子が新しい玩具を発見した時に見せるような笑いを浮かべた。


 「そ、そうだけど」


 「そう。じゃあ許さない」


 ルーズィは喜色満面で応えた。


 ヒズルは一度耳を穿る(ほじくる)

 

 「えーと。ごめん。もう一度言ってくれ」


 聞き間違いだと思ったヒズルは再度訊ねる。


 「許さない。もう一度言いましょうか。許さない。ゆ・る・さ・な・い」


 ......。......。......。え?


 ヒズルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。



 「ぷっ。きゃははははははは。面白い顔。きゃははははは」


 何が面白いのか、ルーズィはゲラゲラと笑い焦げている。

 それはもう腹が捩れんばかりの抱腹絶倒。


 「決めたわ。貴方は私の奴隷よ。身を粉にして尽くしなさい。

 高貴で麗しい私の役に立てるのだからむしろご褒美よね」


 ルーズィは立場的に優位だと踏んだようで傲岸不遜になる。

 

 「............」


 「きゃははは。許せですって? オーク如きが何様よって感じね。

 清純な私を卑しい気持ちで見たんですもの。簡単に許すわけなーーってあれ? どこにいくのよ」


 何も言わずヒズルは立ち上がる。

 

 「帰る。城に戻る」


 ルーズィに背を向けると真っ暗な森に進もうとする。


 「え? え? 待ってよ。嘘でしょ? 嘘だよね?」


 ルーズィは先程とは打って変わり慌てふためく。


 「うっかり戻った俺は、色々喋っちゃうかも知れないなぁ」


 ルーズィは顔が青ざめる。


 「そ、そんなことしたら、ゆ、ゆるして、あ、あげないよ?

 か、かえれなく、な、なっちゃうよ?」


 ルーズィは相当動揺しているようで、発する言葉がたどたどしい。

 それを無視してその場を立ち去ろうとする。

 すると、泣きながら腰に縋り付いてきた。


 「冗談。冗談よ。ゆ、許して。こんな不気味な森に一人置いてかないでよぉ」


 「"オーク如き"が高貴なダークエルフ様の役に立つなんて御膳上等なことは出来ないと思うので。では」


 「待って!! その、よくよく見ると貴方ってとっても魅力的。

 えーと。そう。その頭部の角なんて特に。雄々しく感じるわ。

 それにその腰に巻いてる薄汚い布も。汚いけど何かいい。うん。その何かいいのよ。本当に」


 「馬鹿にしてるだろ?」


 「してないしてない」


 ルーズィは両手を振る。どうやら本気のようだ。

 もしかしたらこの子はアホなのかも知れない。

 ヒズルは割と本心から思った。 そして元いた位置に坐り直す。


 「でもその許して欲しいってもの正直よく分からないのよ」


 ヒズルは質問の意図がよく分からず首を傾げる。


 「だって私、別に怒ってないもの」


 「え? そうなの?」


 「そうよ。そもそも貴方とはほぼ初対面でしょ。許すも何もないのよ。

 だから恐らくだけど、私の意志は関係なくて、この世界に貴方を送った奴が、貴方の行動を見てどう判断するかってことじゃないの?」


 その発言はヒズルにとって青天の霹靂だった。

 まじかよ。神様が判定を下すのなら、そりゃもう神の気まぐれってことになる。

 どれだけ此方が贖罪を果たしても、神様が駄目と太鼓判を押せばそれまでだ。

 明確な基準がないのは厳しすぎる。

 ルーズィに許してもらうことが条件なら、コイツの機嫌取りに徹すれば良いだけの話だから簡単なんだが。 直接かかわりのない客観的立場の奴が判断するなら難易度は跳ね上がるな。

 

 「なんだか疲れたわ」


 身体に重しが乗ったような気分になったヒズルは、深いため息を吐いた。  


 「ま、助けてくれたお礼として私も協力してあげるわよ。感謝しなさい」


 「ありがとう」


 かくしてヒズルは、信頼出来るパートナーを手に入れたのだ。

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