ルナシスーー3
三人を担いでの移動だが、それほど苦にはならなかった。
ヒズルは全力疾走で街へと駆け巡る。
遠目だが街の輪郭を捉えた。そろそろだ。
でもその前に、と内心で呟きつつ首飾りを掛けて変身した。
ん? なんだ。
街へ近づくにつれ、奇妙な違和感を覚える。
街の上空に異常なほどの黒煙があがっているのだ。
なんだか嫌な予感がする。
勘弁してくれよ。これ以上のトラベルは御免だぞ。
街の正門に着く頃には、その予感は確信に変わっていた。
「なんだよ......これ」
思わず声が漏れた。
正門には着ぐるみを剥がされた男達が横たわっており、また街を包囲していた壁は虫に食われた葉の如く穴だらけだ。
なにがどうなってんだよ。少し前までは平和だったじゃねえか。
救いを求めるようにヒズルは瀕死の三人を担いだまま街内へと入る。
だが縋れるような希望は何一つなかった。
正門を潜って待ち受けていた光景は地獄絵図。
灰燼に帰した家屋、ひび割れた舗装路、所々に残る男性の下着。
視界に映る光景の全てが絶望に色を染めていた。
そんな時、見覚えのある男性が道端に倒れていた。
全裸だが下半身の上には葉っぱ一枚が乗っており、良心的な倒れた方だと称賛を送った。
「大丈夫ですか」
声を掛けると男は頬に涙を垂らした。
「また穢されちまったよ、オークに」
そう、道端に倒れていたのは掘られ兵士だったのだ。
「オーク!? オークが攻めてきたんですか、この街に!?」
「ああ......そうだ。突然大勢で押しかけてきたんだ。
必死に応戦したんだが、まるで歯が立たなかったよ。グアッ」
「おっさん!?」
掘られ兵士の尻は、水門から水が放たれたような横溢で出血している。
「俺はもう駄目みたいだ。痔は.........免れないだろうな」
「そんな......あんまりだ」
恐らくオークは俺を探しに来たんだ、俺のせいだ、と思うと悔しさで涙が溢れた。
「兄弟よ、そう悲しそうな顔をするな。
痔になったからといって、お前を受け入れられないわけじゃないんだ」
「なにをいってるのかさっぱり分からないよ......」
掘られ兵士は微笑んでいるが、辛そうだ。
きっとお尻が痛むのだろう。
「それより、この街で回復魔法を使用できる方を知りませんか?
こいつらが瀕死なんで一刻を争うんです」
「なんてこった。仕方ない。コレを使え。んほ」
掘られ兵士のおっさんはホラ貝のような形状の小さな笛をケツから取り出した。
「コイツだけはオークに奪われちゃならねえと思って隠しといたんだ」
「そんな......ケツに隠さなくても......」
「ソイツを吹けば数メートルいないの仲間は治癒される。但し吹いた本人は対象外だ。頼む」
掘られ兵士の真摯な眼差しがヒズルを差している。
まじだ。どうやら避けては通れないようだ。
そもそも、この状況に陥っているのも全て自分の責任なのだ。
ヒズルは決断した、吹くことを。
意を決し笛を鳴らすと、ヒズルを除いた皆の身体が光った。
笛は音を鳴らしたと同時に砕けてしまった。
皆に目をやると、傷が癒えているのが分かる。
「傷は完璧に治っているはずだ。
それよりも早く此処から避難しよう。
オークがまだうろついているはずだからな」
「わかりました。でもどこに?」
「俺の家は壊されてしまったからな。君の家は?」
「どうでしょう。でも辺鄙な場所にあるので見つかっていない可能性もあります」
「それに賭けよう」
掘られ兵士と共にヒズルは我が家へと向かう。




