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ルナシスーー1


 現在ヒズル達はルナシスの門前に集合していた。

 皆一様に真剣な面持ちをしている。それも仕方ないことだ。なぜならサンドマンタ討伐を本日中に達成しなければならないのだから。


 皆、この日の為、レベルアップに励んでいた。その甲斐あって少し前とは比べ物にならないほど強くなっていた。 


 「じゃあリベンジ戦と行くか」


 ヒズルの掛け声に皆が頷く。

 フィーレアとルーズィには口うるさいほどサンボマンタの脅威を説明していた。

 万が一にも後れをとることはないだろう。

 それに武器、防具も前回とは違い、周到な用意をしてきている。

 気に掛かることと云えば、イザベルが装着している髑髏の仮面をルーズィ、フィーレアも付けていることだ。

 仮面の色は、ルーズィが青、フィーレアが黄色だった。それに加えマントを羽織っている。マントの下には、それなりの装備を着ているみたいなので羽織る必要はないのでは、と思うのだが、「だって恰好いいじゃない」と返されたので特にうるさく言わないことにした。

 若かりし頃のヒズルにも、そういった黒歴史を楽しんでいた時期がある分、強くは言えなかった。

 あんたも私達に合わせなさいよとルーズィに言われたが、断固として拒否した。


 しかし断ったことで、ラフな格好に、メリケンサックだけを装備しているヒズルの方が逆に際立ってみえてしまうようで、すれ違う人々に、「なにあれ。怪しい集団だわ」、「え。一人だけ普通の恰好してるけどあの人が教祖かしら」など、勝手な憶測が聞くともなしに聞こえてきたのが少しだけ辛かった。

 



 前回と同様で洞窟に到着すると、イザベルが夜目が利くようにと補助魔法を掛けてくれた。

 道中、イザベルが話し掛けてきた。


 「ヒズル。ここまで来れば誰にも見られることはない。

 変身を解いて万全な状態で臨むんだ」


 イザベルに促されるままヒズルは変身を解いた。

 そうなのだ。変身していたまま闘っていると本来の力が出せないことが修行期間中に分かったのだ。

 ヒズル的には身軽で俊敏になったつもりだったのだが、総合的な強さは桁違いに落ちていたのだ。

 そのことが判明してからは、狩りの際には誰にも見られていない条件下のみで変身を解除して戦闘することに決めていた。


 元の姿に戻るとルーズィが、「相変わらず元の姿はキモいわね」と屈託なく笑った。


 「余計なお世話だ」


 「でもわたくしは全然許容範囲ですわ」


 フィーレアが右腕に絡みついてきた。

 寝食を共にするようになってからフィーレアの肉体的な接触が増え、最初は必死に抵抗していたのだが、今ではもう慣れてしまっていた為、右腕に絡みつく程度の触れ合いなら許容するようになっていた。慣れって怖い。


 ようやく目的の場所に辿りついた。

 目の前には忌々しい穴がある。 穴を降りれば、あの規格外のモンスターがいるのだ。

 攻撃を視認することすら出来なかった記憶が想起すると、わずかに心臓が引き攣る気がした。

 緊張のため、呼吸を止めていることに気付いた。



 ポンッ。


 ふいに肩に何かが触れた。

 みてみるとイザベルの手だった。


 「大丈夫だ。私がいる。

 それに今回は頼もしい仲間が二人もついているし、お前も強くなった。

 憂うことなんてないさ」


 気付けばみんながヒズルをみていた。

 その様子に心の底から勇気が湧いてくるのを感じたーーと思えるほど単純でもないのだが、場の空気を壊さないように、「みんな、ありがとう」と言っておいた。

 これぞ日本人の美徳である。今はオークだけど。


 「あんたって単純よね」


 空気の読めないルーズィは両手をあげ、やれやれと首を振った。

 空気を読んだんだよ、ボケが。


 業腹だが、このやりとりのおかげで幾分か緊張が和らいでいた。

 ヒズルは気持ちを切り替える。

 もう先ほどの恐怖もない。万全だ。


 「じゃあ、行くか」 


 ヒズルの声に皆が頷くと、一斉に大穴へと飛び込んだ。

 いざ決戦へ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 その頃、ルナシス付近の丘陵地には大勢のオーク達が群をなしていた。


 「ゾディオス殿。間違いないですよ。

 御頭の臭いがこの道に染み付いてますぜ。

 でも臭いが途中から消えているんです」


 下っ端オークは犬のように鼻面を地面に付けている。

 オークの中でも一際嗅覚の鋭いオークだ。

 そのオークが顔を歪めてゾディオスを見上げる。


 「なんだと。どうゆうことだ」


 ゾディオスの問いに対して下っ端オークは、分かりません、と地面に視線を落とした。

 嗅覚の鋭い別のオークも一様に同じ反応を示した。

 どうゆうことだ。臭いが途中で消えただと。

 そしてある一つの答えが頭に浮かんだ。

 

 「ダークエルフの仕業か」


 ゾディオスは一人ごちる。

 その言葉を拾った下っ端オークは、「え?」と不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

 ゾディオスは物わかりの悪い下っ端に砕いて説明した。


 「恐らくダークエルフの魔法だろう。

 臭いが消えたってことは魔法で自らを包み込んだんだ」


 「魔法で自らを包み込む? なんのためにですか?」


 「考えてもみろ。俺らオークは世界の嫌われ者なんだぜ。

 そんな奴が平然と独りで出歩いてみろ。

 真っ先に狩りの対象になるのは火を見るより明らかだ。

 御頭は姿を変えたんだ」


 「なるほど! でもそれじゃあ追跡の仕様がないですぜ」


 そうなのだ。痕跡がなければ追いようがないのだ。

 ゾディオスは困り果て、それを見上げた。

 その時だった。


 「うふふふ。困っているようね、オークさん」


 声の主に目を向ける。

 そこには目深くフードを被った怪しげな人間がいた。

 声質からして女だ。


 「誰だ手前は」


 ゾディアスは威嚇するように低い唸り声を出した。


 「そう敵意を剥き出しにしないで頂戴。

 私は貴方たちに有益な情報を提供しにきてあげたのよ」


 女は薄気味悪く笑っている。


 「有益な情報だと?」


 女は勿体ぶるようにクスクスと笑い、そして言った。


 「貴方の探しているオークとダークエルフについてよ」


 「なんで手前がそんなこと知ってやがるんだ」


 「知ったのは偶然よ。たまたま通り掛かったのをみていたのよ。

 珍しい組み合わせだったんで鮮明に覚えているわ。

 確かオークの方は角が生えていたわね」


 間違いない。

 角の生えているオークは御頭しかいない。

 ゾディオスは確信すると、「分かった。話せ」と女を促した。

 しかし女は右手の人差し指を立てると、「一つ条件があるわ」と発した。

 するとゾディオスを取り囲むオーク達が、「下等生物風情が偉そうな口を聞いてんじゃねえぞ。

 条件だ? 犯すぞ、コラ」と罵詈を浴びせる。


 ゾディオスは仲間たちのその行為を手で制すると、「分かった。条件を言え」と両腕を組む。

 女は遠方にみえる街を指さした。


 「あそこに街が見えるでしょ? ルナシス街っていうの。

 あの街を壊滅させてほしいの。お願いできるかしら?」


 女は淡々と告げた。

 まるで自分の武器を磨いておいてくれ、と頼むように簡単に云ったのだ。

 ゾディオスは眉間に皺を寄せるようにして、女を見据えた。


 「街を壊滅? 随分と物騒な望みじゃねえか。理由は? 何か街に怨みでもあるのか?」


 「怨みなんてないわ。理由なんて単純よ。あの街がなければ、更に遠くの景色を眺められるじゃない。それだけよ」


 ゾディオスは呆気にとられた。その言葉の意味を理解するのに時間を要したからだ。

 狂気的な動機を理解するにつれて、腹の底から笑い声が込み上げてくるのを感じる。込み上げてきた感情は、声帯を通り、声に変わった。


 「はっはっはっは。いかれてやがる。俺らも大概だが、お前は更にその上をいくらしいな。気に入ったぜ。お安い御用だ。元々その予定だったしな」

 

 ゾディオスの返答を聞くと女は満足気な声音で、「うふふふ。じゃあ交渉成立ね」と言い、

それから二人の情報を仔細に教えてくれた。

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