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かぼちゃ男ーー5

 

 大分時間が経過したが一向に現れる気配がない。

 そう上手くはいかないかと諦めかけた時、遠くの方で顔全体をオレンジ色に染め上げた魔物が現れた。かぼちゃ男である。

 

 ヒズルはかぼちゃ男をじっくりと観察する。

 顔以外の作りは人間とそっくりである。

 どう見ても安物の被り物を被ってるようにしか思えない。


 かぼちゃ男は周囲をキョロキョロと警戒しながら野菜の山に近づいてくる。

 野菜の山に近づくと肩の高さまで両手を持ち上げ、そして指をクネクネと動かし始めた。

 指の動きはまるで高速でPCを打ちつけているように速い。

 傍から見ていると何とも滑稽に映る。というより不審人物そのものだ。

 

 指の動きが速くなるにつれ野菜の山に変化が生じた。

 野菜一つ一つに文字が刻み込まれているのだ。

 

 ヒズルはありったけの力を目に込めて凝視した。

 

 ーーかぼちゃ男参上(笑い)


 なんて地味な嫌がらせだ、とヒズルは空いてる片手で額を抑えた。

 このまま見過ごせば農作物は全てかぼちゃ男の餌食になるだろう。

 だが、ここで姿を表すわけにはいかない。かぼちゃ男の棲家を見つけるまでは。


 ひとしりき指をクネクネ動かしたかぼちゃ男は満足したのか、その場を離れようとする。

 野菜の山は、「かぼちゃ男参上(笑い)」と刻まれており、その文字は暗闇の中で飴色に光輝していた。

 すまんな。農家のお爺さん。


 かぼちゃ男は腰に手を当てながら軽快にスキップをして畦道を移動している。

 しかしその動きが妙に不自然に思えた。

 一見普通のようだが、注視すると身体全体のリズムが噛み合っていないようにも思える。

 なんというか生命を感じさせない動きだ。 気のせいかな。

 多少違和感を覚えたが気にせず尾行を開始した。


 かぼちゃ男は街の西側奥地に次々と進んでいく。

 点在していた人家も徐々に少なくなり、それに反比例するように闇は濃度を増していく。

 ふと違和感を覚える。まるで監視されているような不自然な視線を感じる気がする。

 振り返り周囲を確認するが何もない。 気のせいか。

 そもそも今の俺たちは透明になっていて他人に見えるはずがない。

 きっと暗闇に対して不安を抱いているのだろう。情けない限りだ。


 更に奥に進むかぼちゃ男は、暗闇に同化している雑木林の中に入っていった。

 ヒズル達一行はイザベルに夜目が効く補助魔法を掛けてもらい、引き続き追いかける。 

 すると円形に切り開かれた広場のような場所に出た。

 地面には不自然なほどの落葉が落ちており、地を覆っていた。


 ようやく足を止めたと思いきや、かぼちゃ男は途端に地面の落葉をかき分け始めた。

 すると落葉の下から大きな木板が現れた。 それを躊躇なく引き剥がす。

 

 引き剥がすと勾配の緩やかな地底に進むだろう坂が現れた。

 驚いたな。まさかこんなところに道があるなんて。

 落ち葉が一面に落ちているのはこの道を隠す為か。ここが棲家なのだろうか。

 かぼちゃ男はその坂を迷いなく降っていく。


 ヒズル達も斜坑の奥へと進んだ。

 通路には濃紫色の光を放った灯火が等間隔に吊るされており幻想的な空間を思わせた。

 

 追跡していると広いドーム状の空間に突き当たった。

 そして、その空間の中央には攫われたであろう少女が横たわっていた。

 もう姿を隠す必要がないと判断したのか、イザベルは透明化を解除した。

 消えていたヒズル達一行は姿を現す。


 「この子よ。この子で間違いないわ!」


 出し抜けにルーズィが指さして叫んだ。 声はドーム状に木霊した。

 その声に反応してだろうか、背中を向けていたかぼちゃ男はピタッと停止した。

 そして、つと此方を振り向くと、ケラケラと嘲笑を込めた笑みを浮かべる。

 続いて頭部から閃光が放たれた。 ヒズルは眩しさのあまり咄嗟に右腕で目を覆った。

 くそ。不意打ちか、と警戒したヒズルだが、かぼちゃ男に目を向けるとどうもそうではないようだった。  

 かぼちゃ男は顔だけを残し、身体は粒子となって霧散していた。


 頭を支えていた身体が消えたことにより、自然の法則に従って顔はドスンと地面に落下した。


 「どうゆうことだ」


 ヒズルは地面に鎮座しているかぼちゃに恐る恐る近づくと、慎重に触れた。


 「ただのかぼちゃだぞ、これ」


 かぼちゃを持ち上げ矯めつ眇めつ確認した。

 どこからどう見ても普通のかぼちゃだ。


 「ねえ。あなた大丈夫?」


 ルーズィは倒れている少女を揺すっている。

 少女は、「ん。あれ、ここは?」と身を起こすとルーズィの顔をみた途端に、「あっ。ゲボのお姉さん」とはにかんだ。


 「ゲ、ゲボは余計よ。それより怪我とかしてない?」


 「大丈夫だよ。お姉さんの方こそゲボ大丈夫なの?」


 ゲボ大丈夫? アイツ気分でも悪くなって吐いてたのか?

 それにしても良かった。少女の様子を見ると平気そうだな。

 

 その時だった。背後から、ドカドカと足音が響いてくる。

 音は先ほどヒズル達が通って来た道の方角から聞こえてくる。


 「え? なになに」


 ルーズィは慌ただしく周囲を見渡している。

 フィーレアは口元に指を咥えて不安顔だ。

 イザベルはヒズルに視線を向けて、コクッと頷いた。

 警戒を怠るなってことだろう。ヒズルは慎重に身構えた。


 「ヒヒヒ。馬鹿な冒険者たちだ。まさか本当に小娘一人助ける為に俺の縄張りに足を踏み入れるとはな」


 かぼちゃ男が現れた。先ほどの機械じみた動きではない。

 生きた動きだ。正真正銘、本物のかぼちゃ男だ。

 身体は全身黒タイツのように真っ黒で、容貌はハロウィンの時に登場するカボチャまんまだ。

 そんなかぼちゃ男の背後から、「ケラケラ」と甲高く無数のモンスターが鳴いている。

 それらはかぼちゃ男を二回りほど小さくした感じだ。

 数にして百匹以上だ。 ミニかぼちゃ男とでも命名しておこう。


 「滑稽だったぜ。お前たちが俺の作りだした分身を必死に追いかける姿はな」


 「馬鹿な。インヴィジブルで姿を消していたはずだぞ」


 イザベルの返答を聞くと満足そうに、ヒヒヒと笑うかぼちゃ男。


 「ヒヒヒ。俺はネタ晴らしをするほど寛容じゃないんでな」


 そうか。あの時感じた視線の正体はコイツか。

 透明化に対して信頼を置き過ぎていたのが失敗だった。

 くそ。くそくそ。

 

 こちらの思惑を読み取ったのか、かぼちゃ男は小馬鹿にするようにニヤニヤしている。

 それから流れるように指笛を鳴らし始めた。

 

 指笛が鳴ると同時に、ミニかぼちゃ男達はヒズル達を中心に円陣を組む。


 「ヒヒヒ。お前たちの身体に、『かぼちゃ男LOVE』って刻印を刻んでやるぜ」


 「クッ。なんて卑劣なことを思いつくんだ」


 イザベルは大鎌を手品師のように出して身構える。


 「最低ですわ。ケダモノ。ゴミ。カス」


 フィーレアはかぼちゃ男を面罵する。


 「そうよそうよ。そもそも胴体と顔の組み合わせが絶妙にダサいのよ、あんたは」


 ルーズィも加勢する。


 「あっ。それ私も思うかな。デザインが手抜きって感じ」


 少女は両腕を組みながら首を振る。

 

 「きいいいいい! 好き勝手いいやがって」


 沸騰しそうなほど顔を真っ赤に染めたかぼちゃ男は地団駄を踏む。


 「悪戯するだけで許してやろうと思ったが、やめだ!

 土下座させて俺の足裏を舐めさせてやる。ついでに脇もな。

 言っておくけど俺は只のかぼちゃ男じゃないからな。

 そもそもお前ら冒険者が今まで倒してきたのは、俺が作り出した偽物なんだぜ。

 敢えて偽物を倒させることで、冒険者ギルドにかぼちゃ男は弱いと認識させる。

 そうすりゃその偽物に見合った冒険者がホイホイと俺を狩りに来るって寸法さ。

 お前たちはまんまと俺の手中に嵌ったんだよ。ヒヒヒヒヒ。間抜けな冒険者様だぜ。

 さてお喋りも終わりだ。多勢に無勢だ。いけ、お前たち!」


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