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かぼちゃ男ーー4


 ルーズィとイザベルと合流したヒズルは死んだ魚の目をしながら街を徘徊していた。

 原因は言わずもがな。フィーレアが男の娘であったからだ。

 俺は潜在的にホモなのか。いや絶対にそれはない筈だ。


 「まったくあんたも人を揶揄いすぎよ」


 「申し訳ございません。でもヒズル様に対する気持ちは本物ですわ」


 今となっては全然嬉しくないな。

 

 改めてフィーレアを矯めつ眇めつ眺める。

 やはりどこからどう見ても女だ。

 それに俺は胸を揉んだんだ。あの胸の感触は間違いなく本物の胸だ。

 まあ女性の胸を揉んだ経験は皆無だけどな。


 ヒズルの視線はフィーレアの胸に一点集中している。

 それを察したのかフィーレアが、「ごめんなさい。これ魔法で加工したパッドなんです。装着すると本物の胸のようにみえる女性に大人気商品なんです」と答えた。


 詐欺じゃねえか。ていうかお前は男なんだろ?

 魔法ってのは便利な反面、こういったリスクも増すのか。

 ヒズルは改めて魔法の汎用性故の怖さを知った。

 

 仮にだ、胸の大きさに惚れた男性がいたとして、

 付き合った後にそれが実はパッドでしたなんて悲惨な事が起きたらどうするんだ。

 惚れた要因が嘘なんて告訴もんだぞ、まじで。


 「ねえ、本当にかぼちゃ男を見かけたのよね?」


 ルーズィが怪訝な顔をして訊ねてきた。

 

 「かぼちゃ男かどうかは分からないけど、かぼちゃの頭をした奴なら街の入り口で見かけたぞ。

 それは間違いない」


 ルーズィ達から事の経緯を聞いたヒズル達は一緒になってかぼちゃ男を捜索していた。

 なんでもそのモンスターが子供を誘拐したとのことで、

 その話を聞いた時にかぼちゃ頭の奴なら見かけたなと思い出したので伝えたのだ。

 なので今、ヒズル達一行は街の入り口付近を捜していたのだが一行に見当たらない。


 「結構時間が経ってるからもうこの辺にはいないかもな」


 「それもそうね。もうやみくもに探すしか手はなさそうね」


 「それじゃ非効率だろ」


 「じゃあどうすんのよ」


 「夜に爺さんがかぼちゃ男を呼び出す為の手配をしてんだろ?

 そこで捕まえて吐かせればいいんだよ」


 「でも来るか分からないわよ」


 「来なけりゃそん時は別の手段を講じよう」


 皆の意見が一致する。

 夜まで少し時間があったのでフィーレアと共にギルドにクエストの報告に行き、少額の報酬をもらった。

 ついでにレベルも上がったのかなと確認すると上がっていた、フィーレアだけ。

 振り返ってみるとヒズルはモンスターを一匹も倒していないのだ。

 隣で申し訳なさそうに上目遣いで覗いてくるフィーレアに男だと分かっていてもドキッとしてしまうヒズルは、「次行くときはしっかり頼むな」とフォローした。



 街全体に夜の帳が落ちる。賑やかだった町は徐々に静かになる。

 ヒズル達一行は街の西側にいる。

 辺りには宙に吹いた提灯のような物が等間隔で並んでいる。

 街灯みたいなもんか。なんだかとても懐かしい気分になるな。

 ヒズルは少し郷愁の念に駆られていたがルーズィが、「見て見て」と不気味なスキルを唱え始めていた。

 

 ルーズィの足元の地面から右腕が突き上げた形で現れた。

 そして徐々にその主の正体が露わになる。


 「うわっ。なんだこれ。ゾンビじゃねえかよ」


 所々が腐敗した人だ。身体全体が濃紫色だ。

 片目が飛び出している。口からは発光したライトグリーンの唾液が垂れていた。

 夜のためか、少しだけ綺麗に見えるぞ。不思議だ。


 「私の新スキルよ。好きなように操れるのよ。ほれほれ」


 ゾンビは壊れかけのロボットの様に腕をギクシャクと動かしている。


 「まあ、流石お姉さまですわ」


 フィーレアは祈るように手を重ねると、

 「私もこんなことができるようになりましたわ」と右腕を振り下ろして鉤爪を披露した。

 ルーズィは興味深げにフィーレアの鉤爪を撫で始めた。

 そしてルーズィが不敵に笑うと、「ヒズルは何かできるの?」と小馬鹿にしたように問いかけてきた。


 「まあな」


 「どんな能力?」


 「自分のステータス状態を相手にコピーする」


 「へー。じゃあこの私の下僕(ゾンビ)に使ってみてよ。

 この下僕(ゾンビ)の状態は"死"って状態異常なのよ。どうなるのか試してみたいの」


 「やだね。それにゾンビなんだからその状態は普通じゃないのか?」


 「なんでよケチ。やってよ」


 ルーズィを相手にすると疲れるので適当に受け流そうとしたヒズルだったがーー


 「もしかしてわたくしを治してくれたのもそのスキルでなんですか? わたくしも見てみたいです」


 フィーレアがルーズィ側に加勢してしまった。


 そしてヒズルは思い出した。自分のファーストキスの相手が男だったことを。

 しかも舌まで入れてしまった悲劇を。

 込み上げてくる吐き気と後悔を飲み込むと、「まあそうなんだが」と答える。

 そして救いを求めるように先ほどからずーっと黙っていたイザベルに視線を送った。

 イザベルはひたすら周囲の警戒を怠っておらずベテラン冒険者の貫禄を出していた。


 ヒズルの視線に込めた思いを察してくれたようで、イザベルは助け舟を出してくれた。


 「そのへんにしといてやれ。

 スキルを使うのにも魔力を消費する。ヒズルはルーズィと違って人間なんだ。

 これからかぼちゃ男との戦闘に備えて少しでも魔力を温存しておこうって魂胆なんだろうさ」


 「もちろんその通りだ」


 助かった。流石はイザベル。相手の意図を察する能力も一流だ。

 

 納得した様子のルーズィだが、「マジックポイントを気にするなんて。ぷぷぷのぷ」と意味不明な煽りをかましてきたので、下僕のゾンビを地面に叩きつけるようにして殴っておいた。

 ゾンビは地面にバウンドして再び地に落ちる。 まるでこと切れた人形だ。

 あー。スッキリした。


 目的の場所に到着するとルーズィのいったとおり、積み上げた野菜の山がこんもりとできていた


 「よし、ここで待機しよう。お前たち私に触れろ」


 そういってイザベルは両手を開いた。


 「それはどこでも触っていいぞってこと?」


 「ヒズル。それは本気で殴っていいことだな?」


 「ごめんさない」


 全員でイザベルに触れると、「インヴィジブル」と唱える。

 以前一度体験していたのでそれほどの感動は湧き上がってこなかったが、他二人は違ったようだ。

 触れているイザベルの身体が定期的に揺さぶれている感覚が此方にまで振動として伝わってくる。

 どちらか、いや二人とも興奮して飛び跳ねているようだった。


 そしてヒズル達一行はターゲットであるかぼちゃ男が現れるのをひたすら待ち続けた。

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