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かぼちゃ男ーー3


 ベッドで静かに寝息を立てているフィーレアの脇に座りながら、ヒズルはフィーレアとの激闘で負傷した右腕を眺めていた。

 しかし腕に擦り傷はなく戦闘前の綺麗な腕に戻っていた。

 どんな代謝速度してんだよ。ヒズルは改めて己の回復力に驚嘆した。


 「それにしても散々だったな」


 タメ息を吐きつつ天井を仰ぐ。

 悪趣味な漆を塗ったように黒く光沢のある天井が視界に入った。

 二人はルーズィの家にいた。

 ルーズィの部屋に運ぼうと考えたが後々うるさく言われるのも嫌だったので自分の部屋に運んだ。

 ヒズルの身体に変身が解ける前の前兆が身体を駆け巡る。

 それを体感して、ああ。まっすぐ戻ってきて正解だったなと安堵すると、フィーレアを担いで運び込むまでのことを思い出していた。

  

 フィーレアを担いで街に戻るはスムーズだったのだが、相変わらずの検問に否応なしに待たされた。しかもまったく融通が利かないのだ。担いでいる女性が怪我をしているので通してほしいと伝えると、気持ちは分かるがどんな状況でも例外は認められない。順番は守ってもらおうと、けんもほろろに突っぱねられた。


 長いこと変身していたのでそろそろ解けてしまうのでは、と肝を冷や冷やさせつつ待っていた。

しかもフィーレアを担いでいたせいか、めちゃくちゃ視線を集めていた。

 どうやら異世界といえども綺麗な少女を肩に担ぎあげる行為は好奇の目を集めるようだ。

 あのタイミングで変身が解けていたのならこの街での人生は終わっていただろう。

 

 検問を終えて街に入るとこれまた厄介なことに、「よう兄弟」と背後から呼ばれたので振り向こうとした。すると掘られ兵士が、「ここの調子はどうだい」と人の尻を叩いて前に回り込んできたのだった。


 不意の出来事にビクッと飛び跳ねたのだが、何を勘違いしたのか、「まだ心の傷が癒えていないようだな」としたり顔で意味不明なことを言ってきたのだ。


 面倒臭い気持ちと疲労困憊だったのもあり、「はあ」と生返事をすると、「俺も克服するのには時間が掛かった。触られるとあの日の出来事がフラッシュバックするんだろ。自然とケツも痛むんだよな」と語られた。

 続けて、「安心しろ。その手のトラウマを克服する治療法は既に確立している。時間がある時に俺の家に来な。俺がお前に奉仕ーーじゃなく治してやるから」と言ってきたので丁重に断った。


 話は終わりだろうと思い掘られ兵士の横を通り抜けようとしたら、「え? どうしてだ兄弟。断る理由なんてないだろう? だって俺達は兄弟なんだから」と身体を大の字にして道を塞いできたのだ。


 ひとしきり粘られたがヒズルは意見を一貫していた。しかし、「やだやだ。来て来て」とキャラ崩壊を厭わない執念までも発揮され折れてしまい、結局時間のある時に行く約束をしてしまったのだ。


 きっと先に掘られた先輩として後輩をいち早く治したかったのだろうが、少々強引な人だなと思った。それ以前に俺は掘られてはいない。


 その後ギルドへの報告はフィーレアを家で休ませてからだな、とルーズィの家に戻ろうとしたのだが、途中でパンプキンの被り物を被ったような人物とぶつかり舌打ちをされ、不快な気分のまま帰宅した。そして今に至る。


 「さて、と」とヒズルは立ち上がろうとした時、突如変身が解けた。

 ヒズルはオークの姿に戻ったーー直後、「ねえ」と呼びかけられた。

 驚きのあまり、「うわあ」と叫んでしまう。


 声の方に目をやるとフィーレアがベッドから半身を起こしてこちらを見上げていた。


 やばい。見られた、この姿を。どうするどうする。頭の中が混乱する。

 しかしフィーレアの方は至っていつも通りだった。慌てふためく気配はない。

 まるで最初から正体を知っていたかのような振る舞いだ。


 「驚く必要はありませんわ。ルーズィ様から話は伺っていましたので。それに」


 綺麗で白い指先がヒズルの手に触れた。


 「身勝手なわたくしを見捨てることもできたでしょうに。なのに救っていただき、あまつさえ此方まで運んでいただいたこと本当に感謝しています」


 え? 誰これ? フィーレアに幽霊かそれに類する何かが憑依してしまったんじゃないのか、とヒズルは戸惑っている。


 「私はオークなんて身勝手で自分の欲望にだけ忠実な盛りのついた雄程度だと考えておりましたが、その認識を改めさせていただくことにします。そしてこれまでのご無礼本当に申し訳ございませんでした」


 フィーレアは深々と頭を下げた。

 声音からは真剣さが伺える。

 ヒズルはこの時初めてフィーレアの謝罪をきいたのだった。


 「ああ、謝ってくれたのならいいよ。こっちも色々と悪かった。ごめん。あとオークの認識は改める必要はないと思うよ。たぶん俺が特殊なんだとおもう」


 「優しいんですね、ヒズル様は。それより......腕の怪我の方は大丈夫なのでしょうか」


 様付け! なんだかとても新鮮だ。


 「大丈夫大丈夫。腕もこの通り、傷一つないから」


 逞しすぎるほどの上腕を見せつける。するとフィーレアは指先でヒズルの腕を撫でながら、「本当ですわ。凄い回復力ですこと」と驚いている。


 ヒズルもフィーレアの極端なまでの変化に驚き、そして妙な興奮を覚え始めていた。


 「俺を襲ってる時の記憶はあるんだな」


 「ええ。意思はあったのですが身体がまったくいうことをきかなかったんですの」


 「なるほどな。それよりそっちこそ身体の方は平気なの?」


 「はい。所々痛みますがすぐに治ると思います」


 「ならよかった」


 チョロいことに定評のあるヒズルは心の底から安堵した。


 「ヒズル様は元々人間だったと伺っていますが本当でしょうか」


 「本当だよ。少し前まで別の世界に居たんだけど気付いたらこっちの世界に来ていてオークになってたんだよね。それよりさ、記憶があるってことはもしかしてーー」


 「ーーええ。わたくしの胸を触ったこともしっかりと記憶に焼き付いております。でもヒズル様でしたらいいのです。お好きなだけ揉んでくださって結構です」


 恍惚な表情を浮かべるフィーレアの眼差しにヒズルは胸が高鳴る。

 あれ? キスのことだと思ったんだけどーーそこは覚えてないのか?

 なら黙っていよう。

 てか、やばいぞ。本気でドキドキしてきた。 てか、チョロインすぎるだろ!


 「あっ。その前に」とヒズルは人間の姿に再び変身した。

 オークの姿のまま破廉恥なことを行うとケダモノが少女に襲い掛かっている絵面になる為、非常に興奮するシチュエーションではあるが健全ではないと思ったからだ。


 「そ、それじゃあ」と掛け声をあげるとフィーレアは目を瞑り受け身の姿勢になる。

 ヒズルは興奮するあまり呼吸が乱れ始める。


 やばいぞ、このシチュエーションすごくいい。前の世界では絶対にありえない急展開!

 のそりとフィーレアの胸に向かって手を伸ばす。


 相手が自分を受け入れてくれるということはその後の展開もありなのだろう。

 想像を膨らませたヒズルの手は震え出すも的確にフィーレアの胸をキャッチした。


 「あっ」と艶やかな声で喘ぐフィーレア。

 その声に理性のたがが外れたヒズルはフィーレアを強引にベッドの上に押し倒した。


 顔を真っ赤に染めたフィーレアは、「まだそんな......心の準備が」と小さく呟いた。


 その時だった。出し抜けに部屋の扉が開いたのだ。


 「なによあんたたち。戻ってたなら私達のクエスト手伝いなさいよ。大変なのよ急に子供が......って、え?」


 扉に目を向けるとルーズィが呆気にとられて此方を見ていた。

 しばし沈黙が部屋を支配する。そしてルーズィが口を開いた。


 「ヒズル、その子男の子よ」

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