オーク城からの脱出
「何しにきたのよ」
ダークエルフは、ヒズルの姿を見るや刺々しい態度を取る。
ヒズルはダークエルフを観察する。
うむむ。エロいな。でも流石にリアルだと気が引けるな。
日焼けした小麦色の肌に成熟した魅力的な体。加えて、鼻っ柱の強そうな切れ長の眼つき。
赤裸々な身体を両腕で隠しているダークエルフだが、その行為は逆に蠱惑的だ。
舐め回すような視線を送っていたヒズルに嫌悪感を倍増させるダークエルフ。
しまった。つい欲に負けて見惚れてしまった。我慢しないと。煩悩退散煩悩退散。
「勘違いしないでほしい。俺は君の敵じゃない。むしろ助けにきたんだ。とりあえずこれを」
城内を探索していた際に発見した服を取り出す。
取り出す時、ポケットのような収納スペースがなかったので、腰に巻いている布と尻の隙間に挟んで持参した。
その服をダークエルフに渡すべく、柵の隙間から投げ入れる。
ダークエルフは投げ入れた服を注視した。
そして視線をヒズルに向ける。
「あんたさ、これどこから出した?」
「ここだよ?」
ヒズルは自分の臀部付近を指さす。
ダークエルフに青筋が浮かび上がるのが分かったヒズルは、大丈夫。少し前に風呂入ったから、とフォローした。
だがその答えに納得しなかったようで、少しの間無言で睨まれるヒズル。
ダークエルフは、全裸でいるよりはマシだと判断したのか、渡された服を嫌そうに着た。
おお。似合うな。 渡した服を着用したダークエルフに、ヒズルは興奮した。
黒を基調とした娼婦のように露出度の高い服である。 当然ヒズルの趣味である。
さて。どうするか。 ヒズルは今後の方針について考える。
恐らくだが俺は覇者オークの世界に来てしまった。
なぜ来たかも分からない。もちろん帰り方もだ。
以前ネット掲示板で、煩悩だらけの人間は異世界に飛ばされるという情報を目にした事がある。
飛ばされる対象は、主に、覇者オークのような穢れたゲームをしているような連中だと。
純真無垢な神様が俺に天誅を下したのかも知れない。
確か帰る方法も記載されていた。そう。そうだ。贖罪だ。
だとすると俺も贖罪をしなければいけないのか。
飛ばされたタイミングを考えれば、贖罪を捧げるべきはこのダークエルフ。
よし、決まった。
「ここから出してやる。一緒に逃げるぞ」
「なぜ? 貴方の行動は矛盾してる。信用できないわ」
「ここに残っても廃人になるだけだぞ。それでもいいのか」
「ここを脱出したら理由を話して頂戴」
「分かった。ところで名前は?」
「ルーズィ。あなたは?」
「変な名前だな。俺は九条ヒズル」
「あなたの名前も大概ね」
話がまとまったので、ルーズィの囚われている柵を力ずくでこじ開ける。
「恐るべき怪力ね」
「俺自身も驚きだ」
地下牢を抜ける。
一階に着くと通路には数体のオークが警邏していた。
「どうすんのよ」
「俺に考えがある」
その場に待機するように、と促されるルーズィ。
ヒズルは堂々と警邏中のオークに声を掛ける。
「御頭こんな夜中にどうしたんですか」
「大事な話がある。少し二人で話そう」
「こんな夜中にですか? でもオデ警邏中なので」
「そうか。残念だ。秘蔵のえっちぃ本を入手したんだが......」
「えっちぃ本!? お、御頭。おで、丁度今から休憩でした。大丈夫です」
ヒズルが寝返っているなどとは露とも思っていない様子のオークは、まぬけ面を晒しながら部屋へと消えてゆく。
ーーぐへへ。御頭。エロ本はどこですか。ぎゃあああああ。
その後何事もなかったかのようにヒズルが扉から出てくる。
他のオークも同様、それで気絶させていた。
「恐ろしい男ね」
ルーズィは独りごちた。