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ルナシスーー新メンバー

 

 冒険者ギルドに赴き、ルーズィとフィーレアのギルドカードを発行させた。

 二人は晴れて冒険者だ。しかしルーズィとフィーレアは、項垂れていたのだが。

 まあ自業自得である。


 それにしても冒険者ギルドの適当さ加減には驚かされた。

 まさかギルドカードを所持していないこの二人のクエスト受注書に対して確認することもなく、前金を渡していたとは。

 当然受付のお姉さんに言及したのだが、「サインさえあれば問題ありません!」と明るく突っぱねられたのだ。

 ここまで来るとあまりの清々しさに、「よく機能してるな」と素直に感嘆したのだった。


 その後、二人の適性職業を調べるべく職業鑑定所に足を運んだ。


 「ふぉっふぉっふぉ。これまた随分と賑やかじゃのう」


 腰掛け椅子に座りながら読んでいた本を机に置き、視線を此方に向けてくるツルツル爺。

 

 「この二人の適正職業を調べたいんだ」


 ツルツル爺は、「承知した」と言うとフィーレアを指差し、自らの元へ来るように促した。

 そして自分の手前に置いてある椅子に座るよう指示をする。フィーレアが座ると、ツルツル爺はフィーレアの手を掴み、手の甲にキスをした。

 

 「ヒィッ」


 フィーレアは身の毛がよだったのか、悲鳴を上げていた。

 

 「すまない。こうゆう爺さんなんだ。許してやってくれ」


 イザベルは、前回の俺に投げかけた言葉と全く同じ台詞を吐いていた。


 「ふぉっふぉっふぉ。では、適性職業を調べるとしよう」


 「少しドキドキしますわ。プリーストのような、私にピッタリの職業だといいのですが」


 フィーレアは両手を自分の胸に当てた。

 コレから判明する職業に対して、色々な感情の波が押し寄せて来て、それらを押しとどめているように見える。その姿にヒズルは、一挙手一投足が可憐だ、と思った。

 しかしその所作は可愛く見せる為の演技なのではーーとも考えていた。


 「大丈夫よ、フィーレア。貴女は私ほどじゃないけど、心の清らかなか弱き乙女だもの! 可能性は十分にあるわ」


 いや絶対ねえだろ。っていうか、ルーズィ、お前は真っ黒だろーーとヒズルは心の中で突っ込んだ。


 「ルーズィ様......」


 フィーレアは、ルーズィの言葉の何に感動したのか、嬉し涙を流している。

 何一つとして理解できないヒズルは、「やっぱりこの人は危ない人なんだな」とひとりで納得して、ウンウンと頷いていた。

 

 ツルツル爺は、ヒズルの適正職業を調べた時と同様、石板を取り出し、手跡部分にフィーレアの手を重ねさせた。

 するとフィーレアの適正職業が表示された。画面には職業が列挙されている。



 1、狂戦士バーサーカー


 2、蛮族(バーバリアン)



 結果画面を覗いていたヒズルは、

 「やっぱり本質的には野蛮な奴だったか」と自分の考えが正しかったことに満足していた。


 「......この石板、壊れてますわね」


 現実から目を背けたいのか、フィーレアは色を失った瞳で石板を見下ろしている。


 「ふぉっふぉっふぉ。安心せい。どこも壊れてはおらぬ。正常じゃぞ! よかったのう!」


 他人の気持ちを汲み取る能力が弱いようで、憚ることなく現実を突きつけるツルツル爺。


 「なんで私が、こんな血の気の多い職業なんですか! 野蛮じゃありませんの!」


 「駄々を捏ねるな。仕方ないだろ。そういう結果なんだから。素直に現実を受け入れろ」


 「ふん。流石、血も涙もない男ですわね」


 ヒズルに蔑みの目線を向けながらフィーレアは立ち上がり、そしてルーズィに席を譲った。

 俺、何一つとして悪いこと言ってないと思うんだけど......。


 「ふふん。次は私ね。っとその前に、手の甲にキスをするんだったわね。

 はい、どうぞ。私の綺麗な手にキスしたくて堪らないのね? 分かるわよ、その気持ち!

 私も同じ立場ならするもの! こんなに綺麗で可ーー」


 「ーーいや、結構じゃ。長年の勘が告げとる。馬鹿がうつるからやめとけって」


 「えっ」


 「ツルツル爺! その勘は正しいぞ!」


 ヒズルは同意せずにはいられなかった。


 「し、失礼ね。わ、私、そんな馬鹿じゃないわよ! ちょっとフィーレアも何かいってやって頂戴!」


 ルーズィに助け舟を求められたフィーレアだが、どうやら先ほどの結果に落胆しているようで、

体育座りをしながら、「狂戦士......私が? 狂戦士......私が?」と繰り言を呟いていた。

 

 そしてルーズィの適性職業が表示される。


 1、ダークプリースト

 

 2、ネクロマンサー


 3、フォーチュンテラー


 4、ヒーラー



 「ふふん。私にピッタリそうな職業ばかりじゃないの」


 得意気な顔をしているルーズィ。

 なんだろう。この手放しで喜べない気持ちは。

 イザベルは、感心したような顔を浮かべている。

 フィーレアは未だ病んでいる様子だ。


 「ふぉっふぉっふぉ。四つも表示されるとは驚きじゃ。流石はダークエルフじゃ」


 「当然よ! 私を誰だと思ってるの。そこらへんの下等種とは違うのよ。

 ところでヒズル、アンタの職業って何なのよ」


 「ス、スカンクピエロ」


 「きゃははは。なにその貧相な職業は。 え? もしかしてそれだけなの?

 そりゃ無様に敗走してくるわーーイタッ。なにすんのよ!」


 ヒズルの拳骨を喰らったルーズィは、片手で頭を撫でている。


 「やかましいわ! そもそも誰のせいだと思ってんだ」


 「嫉妬は見苦しいわよ! ま、存分に期待してなさいよ。私の活躍を!」


 「で、お嬢ちゃん達。どの職業を選択するのじゃ」


 「ネクロマンサーってのがいいわね。名前的になんかカッコいいし!」


 ルーズィは溌剌と答えた。あんまり深く考えていないように見える。

 ネクロマンサーって確か、俺の記憶が正しければ、死霊、屍を操ったりして戦う職業じゃなかったか?

 コイツそれわかってんのかな。


 「私は......狂戦士......ですわ」 


 フィーレアは、よほどショックだったようで、死んだ魚の目をしている。

 ヒズルは、「なんか可哀想だな。頑張れ」、と心の中でエールを送った。


 「ふぉっふぉっふぉ。登録が完了じゃ」


 ツルツル爺にお礼を告げ、ヒズル達一行はその場を後にした。


 「さて、今後の方針だが、今受けているクエストは一旦保留にしようと思う」


 腕を組んだイザベルは、そう提案した。その意見には賛成だった。

 なんてったってイザベル以外は全員初心者なのだ。

 多少なりとも順を追い、まずは個々の能力を高めるのが先決だ。

 つまり初級クエストをこなすのだ!


 「え? なんでよ。受注したクエストって確か期限があるんでしょ。

 達成できないで金貨を返却なんてことになるのは絶対嫌だから。

 そもそも返す金貨だってもうないしね」


 舗装された道の隙間から生い茂る草を指でこねくり回しながらルーズィは反駁した。

 

 「そん時は、お前の家を売却するからな」


 「何言ってるのよ! そんなの絶対に嫌!」


 「本を正せば全部お前のせいだろ。諦めろ」

 

 辛辣な言葉を発するヒズルに、ルーズィは食ってかかる。

 ヒズルはその策を、最終手段として割と本気で考えていた。


 「ルーズィ様。こんな冷徹漢の言うことを真に受ける必要はありませんわ。

 その時は、この男の臓器を全て売り払ってしまえばいいのです」


 こいつ真顔でなんて恐ろしいことをいうんだよ。

 俺にだって人権はあるんだぞ。


 「おい! お前たちいい加減にしないか。喧嘩してる場合じゃないだろ。

 それに期限には、まだ余裕があるから大丈夫だ。

 期限が一番近いクエストで、サンドマンタ討伐だが、これもまだ二週間の猶予がある。

 その間に少しでも力を付けてもらいたい」


 真剣な顔付きをするイザベルに対し、流石のルーズィもフィーレアも押し黙った。

 意見がまとまると、弱いモンスターを狩る為、再度ギルドに赴き、クエストを受注した。

 しかし冒険者ギルドから、こんな弱いモンスターに四人で赴くのは人員の無駄、と苦言を呈された為、二組ずつ分かれることになった。

 ヒズルとフィーレア。イザベルとルーズィと何とも微妙な組み合わせになった。

 フィーレアは、「こんなケダモノと一緒なんて」と頭を抱えていた。



 ヒズル達の討伐対象は、ヘロヘロ。

 なんでも、狩りにきた冒険者たちを何人も廃人に追い込んだちょっぴり危険なモンスターらしい。

 冒険者を廃人に追い込むモンスターなんだからちょっぴり程度には思えないんだが、中級の化け物を物差しに考えると納得できるかもーーとヒズルは思った。

 

 ルーズィ達の討伐対象は、腐ったカボチャ男。

 なんでも、腐らせたカボチャの怨念が集まって誕生するモンスターで、

 風のように現れては農作物に、腐ったカボチャの落書きを残していく迷惑極まりない奴だそうだ。


 「ルーズィ様。気を付けてくださいね」


 祈るような手をしたフィーレアは、ルーズィの身を心の底から案じているようだ。

 その優しさを少しでも俺に分けてくれないかなーーとヒズルは妬いた。


 「余裕よ、余裕。腐ったカボチャ男なんてチョチョイのチョイよ。

 悪いけど今回、イザベルの活躍する場はないと思うわ」


 フィーレアとは対照的に、余裕綽々のルーズィ。


 「ああ、期待している。では、いってくる」


 イザベルとルーズィは此方に手を振り、狩りへと旅立った。

 

 「俺達も行くか」


 「ええ。そうですわね。あと半径二メートル以内には近寄らないでくださる」


 「............」


 軋轢が生じたまま、二人はルナシス街の西側へと向かった。


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