ルナシスーー検問で再び
ヒズルは街に着くと早々に溜息を吐いた。
街の入り口には検問の為、蟻の行列の如く人が並んでいたからだ。
ヒズルは、遠目から見るとまるで黒蛇だな、と心の中で呟いた。
ヒズル達は最後尾に並び順番を待っていた。
すると前方から見覚えのある男性が手を振りながら近寄ってきた。
例の掘られ兵士だった。しかし前回の時と違って鎧を装着しておらず軽装だった。
恐らく非番なのだろう。軽装の為、筋肉質の身体が一際目立っていた。
その筋肉でもオークに抗えなかったのか、とヒズルは掘られ兵士を憐れんだ。
「よう兄弟! ん!? その格好はどうした。まさかまた......」
ヒズルの胸中などてんで気付いていない様子の掘られ兵士は威勢よく挨拶してきた。
そしてボロボロになったヒズルの姿をみて、何やら勘違いをしているようだった。
「違います違います! 決してそうゆうわけじゃないんです!」
これ以上勝手に悲惨キャラにされて堪るか!
掘られ兵士の想像しているよからぬ妄想を全力で否定した。
「兄弟? 九条、お前の兄貴なのか?」
横に並んでいたイザベルが、兄弟という単語に引っ掛かったようだ。
兵士とヒズルを交互に見比べている。
「いや違うから! なんていうか説明しづらいんだけどーー」
検問抜ける為に、ルーズィが嘯いたとは言えないし。
かと言ってあの話をして誤解を生みたくもない。
困ったヒズルは腕を組みながら夕暮れの空を仰いだ。
「姉ちゃんよ。俺らは血の繋がった兄弟ってわけじゃないんだ。
非常に説明しづらい間柄なんだよ!」
掘られ兵士も直接的な発言は控えたいようで婉曲的に伝えようと頑張っていた。
イザベルは益々分からないという風に首を傾げている。
「それにしても姉ちゃんも酷い恰好だな。何があったんだ」
露骨に話題を変えようとした掘られ兵士にヒズルは便乗した。
そして並ぶ間の退屈しのぎにもなる為、冒険者になった経緯から詳細に説明した。
すると、兵士は暫し沈黙した。
そして驚くべき発言をしたのだ。
「そのフィーレアという少女には心当たりがあるぞ」
まさに降って湧いたような話だった。
思いがけない話に、ヒズルは掴みかからんばかりの勢いで食いついた。
「本当ですか!? 詳しく教えてください!」
ヒズルは興奮するあまり、掘られ兵士の両肩をガッチリ掴み激しく揺さぶっていた。
「ほ、本当だ。そ、そう激しくするなよ」
掘られ兵士は、どことなく嬉しそうに顔を赤らめている。
そのやり取りを隣で見ているイザベルが、「兄弟って、こいつ等まさか......」と変に勘ぐっている様子だった。
しかしヒズルは、そんな事に突っ込んでいる余裕はない、と心の中で独りごち、無視をした。
「なんでもいいんで知っている情報を教えてください」
ヒズルの剣幕に気圧された兵士は、「お、教えるから少し落ち着いて」と宥めた。
それから冷静になったヒズルは、「少し興奮し過ぎました」、と謝罪した。
ヒズルが落ち着いたのを確認した兵士は、「よし。じゃあ話すよ」と語り始めた。
話の序盤では真顔だったヒズルだが、中盤になると顔に青筋が浮かび上がり、終盤になると阿修羅の様な形相になっていた。
「あの野郎......」
ヒズルは呪詛を唱えるような低いうなり声を出す。
そして湧き上がる怒りを外に放出する為、ふーふーと浅い呼吸をした。
持ち物検査を一通り終えると、ヒズルは餓えた猛獣が放つ殺気を全身に纏いながら、自宅(わくわく魔道具店)へと帰宅した。




