ルナシスーースカンクピエロ
現在、街の中央にある冒険者ギルドに来ていた。イザベルも一緒だ。
ルーズィは店番だからと店に残った。
詐欺に引っ掛かり冒険者となった俺は、冒険者ギルドで詳しい話を聞いていた。
目の前では、受付カウンターのお姉さんが冒険者ギルドについて説明している。
説明の内容は要約するとこんな感じだ。
1、命の保証はしません。自己責任。
2、クエストを受注したい時は、この羊皮紙の上記にクエスト名を記入。
複数同時に受注する事も可能。
3、お金の支払いは先払い。
金だけ受け取り逃げた場合は処罰の対象になる。
4、クエストの難易度は羊皮紙の右上に記載されている☆の数で判断。
☆は1~10であり、多ければ多いほど難易度は上がる。
5、討伐隊の編成はギルド側が決める。
先払いだと金銭だけ受け取って逃げられる可能性があるじゃないか、と指摘したら、
その心配には及びません。サインをして頂ければ記入者の現在地が明確に分かる仕様になっていますので、と答えられた。
ヒズルは受付のお姉さんに詐欺に引っ掛かってこの様な状況になったと説明する。
そして改善を要求した。すると受付のお姉さんは、
「この街では頻繁に起こっていることなのです。
そもそもそういった大事な書類にサインする際などは普通契約書などに目を通しますよね?」
とすまし顔で応えた。ヒズルは、厚化粧の性悪女が、と心の中で叫んだ。
後から聞いた話だが、冒険者は危険な職業な為、なりたがる人が少ないそうだ。
だから俺のような詐欺にハマった連中を無理やり冒険者に仕立てるこのシステムは都合がよいみたいだ。
漫画やアニメと違ってまったく夢のない職業なんだなと思った。
今回ヒズルが受けるクエストはサンドマンタの討伐だ。
サンドマンタは、砂漠地帯に生息しているようで、行商人などを襲撃するようだ。
近頃はルナシスの東方面にある砂漠地帯にもサンドマンタが出現して行商人が困ってるとの事。
で、先日一人の冒険者がサンドマンタの住処と思しき場所を発見したとのこと。
なので、その住処に向かいサンドマンタを討伐しなくてはならない。
サンドマンタの難易度は☆四つ。
中級冒険者が受注する難易度なのだ。
一通りの説明を受けたヒズルは、ギルドのお姉さんからギルドカードを受け取り、外へ出た。
ギルドカードには、九条ヒズル。職業 ?。ギルドランク 1。と書かれている。
「『職業 ?』ってなってんだけど」
ヒズルはギルドカードを矯めつ眇めつしている。
「ああ、まずは職業鑑定所で適性検査を受けないとな。
その検査で自分に適性のある職業が選択できるようになる」
そしてイザベルに連れられて職業鑑定所に辿り着く。
店内には、如何にも怪しいグルグル眼鏡を掛けたオジさんがいた。
オジさんは背も低く、頭部はタコの様にツルツルとしている。
「ふぉっふぉっふぉ。いらっしゃい。おや、イザベルじゃないか。どうした」
ツルツル爺はイザベルと認識があるようだ。
「コイツに適性検査を受けさせてほしい」
「ふぉっふぉっふぉ。なるほど。新しい冒険者ということじゃな。どれどれ」
ツルツル爺は、ヒズルを促し椅子に座らせた。
そしてヒズルの手の甲にキスをした。
「なにすんだ。禿げタコ」
「ふぉっふぉっふぉ。ワシ流の挨拶じゃ」
「すまない。こうゆう爺さんなんだ。許してやってくれ」
ツルツル爺は、表面に手形の窪みがある石板を持ってくると、右手を手形に重ねるんじゃ、と指示した。
ヒズルは言われた通りに右手を重ねると、右手の上にプロジェクターで映したような画面が現れた。
そこには、【適正職業 スカンクピエロ】と表示されていた。
「なんだよ、これ。もっのすごく外れな予感がするんだけど」
ヒズルは独りごちる。
ツルツル爺とイザベルは無言でその職業を見つめていた。
やがて口を開いたのはツルツル爺。
「ま、まさか、これは伝説のーー」
「ああ、スカンクピエロだ」
何やらとても驚いている二人だが、ヒズルには全く分からない。
「おい、二人だけで納得すんな! どんな職業なんだよこれ!」
爺は画面から目を離すとヒズルに向き直る。
そして語り出した。
「スカンクピエロとは、今は亡き伝説の職業とされている最恐クラスの職業じゃ。
大昔の話じゃ、この世界にはバルドベルブと呼ばれる邪神が存在していたのじゃ。
そやつは人間を玩具とみなし、沢山の人々を蟻同然に殺していたそうじゃ。
人類は滅亡寸前だった。もう誰もがお終いだと諦めかけた時、その者は現れたのじゃ。
名はスカンクマン吉田。その者は異世界なる場所から助けに来たと皆にいったそうじゃ。
そして誰もが見たこともない奇抜な技を駆使し、バルドベルブを倒したのじゃ。
その時のスカンクマン吉田の職業が、スカンクピエロだったそうな」
ヒズルはその話をピンッときた。
異世界から来たーー恐らく俺と同じ地球からだ。
自分以外にもこの世界に送られてきた奴が本当にいたってことか。
大昔ってことはもう既に亡くなってるのかな。もしかしたらソイツ以外にも、地球人がいるかもしれない。
それにしてもスカンクマン吉田ってなんだよ。もう少しまともな名前はなかったのか。
「おぬし、名は何と申す?」
「九条ヒズルだけど」
「九条君よ。君は将来、ワシの想像もつかない冒険者になるじゃろう。
困った事があったらワシに頼るといい。全力でサポートしてやるわい。
そしてイザベルよ、この子が一流の冒険者になるまでしっかり面倒を見てやるんじゃぞ」
ツルツル爺の話にイザベルは、コクリっと頷いた。
なんだなんだ。本人の意思を無視して話が進んでるぞ。
一級の冒険者になるつもりはないんだよなぁ~。
ま、情報収集に冒険者は適してるかも知れないし、当面は頑張るか。




