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ようこそ!! 覇者オークへ


 「可愛い女の子がオークに襲われるってのは最高だな」


 今年で成人を迎える九条ヒズルは、真っ暗な部屋で、パソコンの画面を見るのに没頭していた。

 モニターには、オークに犯されまいと抵抗しているダークエルフの映像が流れている。

 

 「きたきた。お約束のご褒美展開!!」


 ヒズルが現在プレイしているのは覇者オークというゲームである。

 題名は酷く、内容も表題に負けじと拙劣だ。

 獣耳っ娘、ダークエルフのような種族が、次々とオークに慰みにされるといった趣旨のゲームなのだ。

 しかし、世の中は広い。このゲームを支持する熱烈なファンが存在するのもまた事実。

 ヒズルもそのファンの一人である。

 ヒズルは変態なのだ。言葉通りのHENTAIであり、性的倒錯者だ。

 女性が汚い者に穢されることに最高の喜びを覚えるヒズルにとって、このゲームは至高の物だった。

 

 「はやく!! はやくはやく!! オークいけいけ!! じれったいな、もう」

 

 オークは乱暴にダークエルフの服を引き千切る。

 オークの怪力に為す術もなくダークエルフは抵抗を諦めたようだ。


 「いつ見てもこのシーンは素晴らしい。 あ、あれ、なんだろう。急に眩暈が」


 ヒズルは意識を失った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「あ、あれ? ここって」


 気付くと城の庭と思しき場所にいた。 既視感を覚える。

 ありえない。動揺しながら周囲を見渡す。

 視界には、悪鬼羅刹のオークが所せましと佇んでいた。


 「おいおい、嘘だろ!! ええええええ。覇者オークの世界じゃん!!

 ど、どうなってんのおおおおお」


 目まぐるしい光景にヒズルは、あひあひあひひあひ、と意味不明な言葉を叫んだ。

 しかし何も変わらなかった。

 

 「お、犯すなら早く犯しなさいよ。はやく終わらせて」

 

 鈴を鳴らしたような声が聞こえると、ヒズルは少しだけ冷静さを取り戻した。

 どこだ、どこだ、とキョロキョロ見渡すヒズル。


 「くっ。馬鹿にしているのね」


 え? 真下?

 ヒズルは自分の足元に目を向ける。

 足下には、あられもない姿で縛り付けられているダークエルフがいた。

 ダークエルフは、ヒズルが親の仇だと言わんばかりに睨み付けている。 


 「えっと......」

 

 どうしたもんか。

 ヒズルは頬をポリポリと搔く。

 

 「お頭どうしたんで? 様子が変ですぜ」

 

 近くにいるオークが声を掛けてきた。

 ヒズルは、お頭って俺のことか、と質問した。

 すると、何をいまさら、とオークは呆れた様子で硬質そうな頭部を擦る。


 何がどうなってんだか。 ヒズルは途方にくれた。

 先程のやり取りで分かったけど俺は頭領なんだろう。

 藪をつついて蛇を出すのは避けないとな。ヒズルは思考を切り替える。


 「このダークエルフは牢に閉じ込めておけ」


 この流れで開放するのは不自然だからな。

 

 「え? 本気ですか、頭?」


 困惑するオーク達。

 何体かのオークがヒズルに不審げな目を向けているのが分かる。

 気にすることはない。

 同じことを二度言わせるな、と伝えると唯唯諾諾に従った。


 この対応は流石に予期していなかったのか、ダークエルフも双眸を見開いていた。

 

 ヒズルは近場にいたオークに、自室をどこだっけ、と訊ねる。

 お頭さっきから少し変ですぜ。こっちです、と城の中へと案内される。

 

 城内は想像以上に広く、童話に出てくるお城みたいだ。

 天井には虹色の光を放つシャンデリアが吊るされている。

 通路には、サラリーマンが一生涯掛けても購入出来ないのでは思わせるほど高価な調度品が沢山置かれている。

 

 まさにファンタジーだな。まあきっと夢でも見てるんだろうな。

 ヒズルは逃避した。

 

 「ここがお頭の部屋ですぜ。では」

 オークはヒズルに会釈すると元来た道へ引き返していった。


 自室に入るやいなや、ヒズルは卒倒しそうになる。

 なんだよこれ。 部屋中のありとあらゆる物質が金色で輝いている。

 全部金で出来ているのか。オークにしては贅沢すぎだろ。


 貧棒な家育ちのヒズルは、高価すぎる雑貨で囲まれているこの部屋では気が休まらなかった。

 落ち着けない。何かないかな。

 周囲を見渡すと視界に姿見が映り込む。

 

 そういえば俺の姿ってどうなってんだ。

 オーク共は俺を見て御頭とか言ってたよな。まさか......。

 確認してみるか。

 

 心臓が早鐘を打つのを感じる。

 恐る恐る姿見に近寄る。 そしてヒズルは絶望した。

 鏡には、先程嫌悪していたオークと同じ姿が映し出されていた。

 身長は人間の大男の一回りも二回りも大きく、顔は言わずもがな、薄汚い豚フェイス。

 格好は他のオーク同様上半身裸に、薄い布きれを腰に巻き付けているだけ。

 他のオークと違う点は、頭部に捻じれた角が付いていることだ。


 「勘弁してくれよぉ~。さっきプレイしてたゲームのオーク頭領じゃねえかよ」 


 ヒズルはヘタヘタと床に崩れ落ちる。

 

 疲れてんだな。つーかきっとこれは夢だ。寝るか。


 ヒズルは黄金のベッドに横向けになると眠りについた。

 その日の深夜、ヒズルの絶叫が城中に木霊するのであった。

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