少女と反転の砂時計
「また今日も寝坊して! これで目覚ましを買ってきなさい」
少女が昼過ぎに起きてリビングに行くと、母親からいきなりそんなことを言われ、お金を渡された。
「はーい。わかりました」
少女は気の抜けたような返事をし、答えると外に出る準備をした。
こんな寒くて眠い日の朝に聞こえるのはうるさい目覚ましなんてひどいよね。
「ぐっすり寝れて、気づいたら朝になってればいいのに」
少女はあてもなく街を歩いて、そんなことを口にしていた。
「お嬢さん、いい商品がありますよ」
彼女が振り向くと、若い男性が見せの前で声をかけてきた。
どうやら雑貨屋らしい、店の窓などからさまざまな小物や変わった照明などの商品が見えた。
「ここのお店って、目覚まし時計っておいてます?」
「ええ、取り扱ってますよ。お客様の希望をかなえる大体の品は」
そうして二人は店の中に入っていった。
「お客様は、目覚まし時計といってもいろいろなものがありますがどんなものがご希望ですか?」
青年店員は、少女に問いかける。
「あんまりうるさくないのがいいです。私はぐっすりと眠りたいので」
店員はそれを聞くと店の奥のほうに行ってなにやら小物を取ってくる。
「では、こちらなどいかがでしょう? 枕元におけば気分のいい朝を迎えられますよ」
店員は机の上に砂時計を置いた。
「確かにこれはうるさくないでしょうけれど……」
少女は困惑した顔を浮かべる。
無理もない、砂時計を目覚ましにすればうるさくは無いだろうが、決まった時間に起きれないだろう。
それでは、そもそも目覚まし時計にならない。
「まあ、そんな顔しないでください。これは魔法の砂時計です」
店員はそう言うと、コップから手元のきれいなガラスの灰皿に氷をコロンとひとつ出す。
そして、砂時計を逆さにして砂を落とし始める。
すると、氷はまるで映像を早送りしているかのように溶けていき、最後には湯気が立ちのぼった。
「そして、砂時計を同じ場所で逆にすると元に戻ります」
「これ、いくらぐらいしますか?」
店員が砂時計を逆にしようとすると少女がそんなことを口にした。
「値段はそうですね。あなたの払える金額で大丈夫ですよ」
少女は、母親から渡された分のお金を支払うと家に帰っていった。
「うーん、どうしようかなぁ」
少女は、自室の机の上で、砂時計を見ながら考える。
どうやら何か思いついたようだ、少女はジュースが入っているコップの近くに砂時計を置くと、様子を見る。
そして、しばらく時間が経ち、ジュースを飲もうをする。
「うっ、すっぱい!」
少女は口を尖らせている。
どうやら思うようにはならなかったらしい。
「そう、ならこれなら!」
少女は机の引き出しから、なにやら紙を取り出すとその上に砂時計を置く。
くしゃくしゃになったその紙はどうやらテストのようで、明らかに正解よりも不正解の量が多そうだ。
そして、砂時計の砂が落ちきった。
「よし、さすが私、いい点数!」
どうやら少女の隠蔽工作は成功したらしい。
テストはかなりの高得点に変化していた。
「今日はいい夢見れそう!」
夜も更けた寝るにはいい時間に少女は布団に入ると、枕元に砂時計を置きひっくり返す。
そして、少女は目を閉じて、今日が終わった。
数分後
「早く起きなさい。目覚まし買ってきたんでしょ」
ドアの向こうでは、母親の声が聞こえる。
体も疲労は感じない。まるで一晩寝たかのような快適さだ。
「やっぱり夢を見てゆっくり寝たいな」
少女は砂時計をひっくり返した。