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オタクドラゴン電光石火  作者: 古川ムウ
6/10

〈第六章:予期せぬ出来事〉

 「それはつまり、大張正己氏が描いたドラグナーをバリグナーと呼ぶような感じか」

 特注の『電人ザボーガー』Tシャツを来た浅尾が、村西に言う。

 「その例えは的外れだな。というか浅尾、お前はただ単にバリグナーって言いたかっただけだろ」

 「バレたか。だけど村西、お前だって派手なものを見たら、やたらと『板野サーカスのように派手だ』って言うじゃないか」

 浅尾と村西は、中身の薄い会話を任世館で繰り広げていた。

 村西はVマックスが営業時間であるにも関わらず、仕事を副店長の大鳥に任せっきりにしたまま、昼食休憩と称して三十分以上も任世館で長居している。


 「こんなに暑い日が続くと、やる気が起きないよなあ」

 と村西は言うが、店内はクーラーが効いているので釈明としては無理がある。

 だが、村西が仕事をサボるのは日頃から良くあることだ。

 大鳥も慣れたもので、店長が不在でも、何の問題も無く業務をこなしている。

 それをいいことに、ますます村西のサボり癖は治らない。

 浅尾も、それを注意することは無い。

 どうせ無駄だと分かっているからだ。


 最初の内、浅尾と村西は、熱くなれるアニメ主題歌について語り合っていた。『装甲騎兵ボトムズ』の「炎のさだめ」だとか、『北斗の拳』の「愛をとりもどせ!」だとか、幾つかのタイトルを言い合って盛り上がっていた。

 やがて『新造人間キャシャーン』の「たたかえ!キャシャーン」が挙がったところで、実写版映画のキャシャーンについて話が脱線した。

 すると村西が、

 「あれはタイトルを変更すべきだ、キャシャーンとは呼べない」

 と言い出した。それに対して浅尾が、

 「それはつまり、大張正己氏が~」

 と返したのだ。



 さらに話を続けようとした二人だが、そこへ来訪者が現れた。

 信郎である。

 「おお信郎君、キミは実写版のキャシャーンについて、どう思う?」

 信郎の姿を確認した村西は、挨拶も抜きに、いきなり質問した。

 「ガッシャーン?何のことだ?」

 唐突な問い掛けに、信郎は怪訝な表情を返した。

 「いや、ガッシャーンじゃないよ。それだと、まるでアラレちゃんと仲良しみたいじゃないか」

 「それはガッちゃんだろ」

 浅尾がクールなツッコミを入れた。


 「じゃあ、パトカーから変形する伝説の勇者ロボか」

 「それはダ・ガーンだ。って、もはや原型を留めてないじゃないか。せめて超神ビビューンの仲間とか、何かあるだろ」

 「それはバシャーンだろ。それだと特撮になるから言いたくなかったんだよ。アニメで統一したかったんだ」

 「変なことで意地を張るなよ」

 「意地じゃない、こだわりだ」

 「大して変わらないじゃないか」

 「全く違うぞ。『ジャングル大帝』と『ライオン・キング』ぐらい違う」

 「何だよ、その微妙な例えは」


 「あのなあオッサンども、ゴチャゴチャ言ってる場合じゃねえんだよ」

 浅尾と村西のやり取りを聞いていた信郎が、声を荒げた。

 「どうした信郎君、何かあったのか」

 「オッサン、覚えてるか。二日前の、亜里とエミさんが来た時のことを」

 「もちろん覚えてるさ。室輪さんの積極性には参ったよ。携帯番号とメールアドレスを交換したのはいいけど、こっちから連絡すべきなのかな。どうしたらいいと思う?」

 浅尾は真面目な顔で尋ねた。

 「自分で考えろよ、それぐらい」

 突き放すように信郎は答えた。


 「そんなことより、これを見てくれよ」

 そう言って彼は、浅尾の眼前に箱を差し出した。

 それは、帆足が亜里に押し付けた箱だ。

 「これは、あの時のプレゼントだね。だけどリボンが外れている」

 「ああ、俺が外した」

 「つまり、中を見たんだね」

 「亜里は見るのも嫌がっていたが、俺は帆足に返す前に中身が確認したくなったんだ」

 「別に責めているわけじゃないさ」


 「それ、何だよ?」

 村西が、好奇の目で箱を見た。

 「まあまあ、詳しい話は後でな」

 いなすように浅尾が言う。

 「それより信郎君、その箱が、どうかしたのか」

 「これだよ」

 信郎は箱を開けた。

 浅尾が覗き込むと、そこに入っていたのは指輪だった。

 「おっ、それって、もしかしてダイヤじゃないのか」

 村西が驚きの声を上げた。

 そう、それは大粒のダイヤモンドが付いた指輪だった。


 「本物かな?」

 「俺も気になったから、知り合いの質屋に鑑定してもらった。どうやら、本物らしい。それも、かなり高額だとさ。ウン百万はするそうだ」

 「なるほど」

 浅尾は、しげしげとダイヤを眺めた。

 「どう思うよ、オッサン」

 信郎が問い掛ける。

 「ちょっと引っ掛かるね」

 「引っ掛かるって?」

 「信郎君には、帆足という男が金持ちに見えたかい?」

 「いや、全く」

 「そんな男が、それほど高価な指輪をどうやって手に入れたかが問題だ。いや、そうじゃないな」

 浅尾は言った直後、自身の言葉を打ち消した。

 「問題は、もっと別にある」

 彼は腕組みで何かを考え始めた。


 「それにしても、こんな大きなダイヤは初めて見たよ。すごいな、どこで売ってるんだろう」

 村西が呑気に言った。

 「なあ信郎君、亜里ちゃんは今、どこにいるんだろう?」

 浅尾が口を開いた。

 「亜里がどこにいるかって?」

 「ああ、そうだ。念のために警戒した方がいいかもしれない」

 「だけどオッサン、アンタは確か、帆足が亜里を傷付けることは無いと、そう言ってなかったか」

 「その考えについては、今も変わっていない。ただ、状況が以前とは変化している可能性がある」

 「もっと分かりやすく説明しろよ」

 「まだ推測の段階だから、はっきりとは言えない。ただ、ひょっとすると、帆足以外の人間が亜里ちゃんを傷付けようとする可能性はある」

 「何だと」

 信郎の顔が険しくなる。


 「念のために、用心した方がいいかもしれない」

 「煮え切らない言い方だな。とにかく分かった、亜里には用心するように俺が伝える。どうせ今から会う予定だからな」

 「それじゃあ任せよう。それと信郎君、お願いがあるんだが」

 「お願い?」

 しばらくの間、その指輪を貸してもらえないか」

 「指輪を?」

 「それを使って、ちょっと調べてみたいことがあるんだ。僕の推測が当たっているのかどうか」

 「別に貸すぐらいは構わないが」

 信郎は指輪を箱に戻し、浅尾に手渡した。


 「お前ら、俺を仲間外れにしたままで、意味ありげな会話を続けるなよ」

 村西が、いじけたように言った。

 「俺だって、一枚噛ませてくれてもいいじゃないか」

 「だったら村西、お前も仲間になってくれるか」

 浅尾が持ち掛けた。

 「んっ、どういうことだ」

 「頼みがあるんだ。お前にしか頼めない仕事だよ」

 真剣な表情で、浅尾が重々しく告げる。

 「なんだ、言ってみろよ」

 すると浅尾は一転、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 「しばらくの間、この任世館の店番をしていてくれないか。僕は、ちょっと出掛けたい所が出来たんだ」

 「へっ?ここの店番をしろってか」

 村西が、口をあんぐりと開いた。


 「お前、言ってることの意味が分かってるか。俺は自分の店を大鳥に任せて来たんだぞ。それで他人の店の留守番をするって、どう考えても変だろ」

 「確かに変だな。だが、変だろ、お前という人間は」

 「うっ、そう言われると、全面的に否定は出来ないけど」

 「だったら頼むよ。引き受けてくれたら、お前が欲しがっていた超合金ゴールドライタンをプレゼントしよう」

 「それは復刻版じゃなくて、オリジナル版の方か」

 「もちろん」

 「おお、我が友よ」

 村西は満面の笑顔に変わり、大仰な身振りで喜びを表現した。

 「よし、どこへでも行って来い。店のことは全て任せておけ」

 村西は自分の胸をポンと叩いた。


 「じゃあ、頼んだぞ」

 浅尾はそう言うと、信郎と村西に背中を向け、入り口の扉へ向かった。

 「あっ、おい、どこへ行くんだよ。行き先ぐらい教えてから行けよ」

 信郎は慌てて質問を投げ掛けた。

 「後で教えるよ」

 浅尾は振り返らずに短く返答し、そのまま店外へと去った。


 「何だよ、勝手な奴だな」

 不貞腐れたように信郎が言う。

 「浅尾の奴が、あんな態度を取るということは……」

 村西は付き合いの長い浅尾の心中を推理し、つぶやいた。

 「どうやら、かなりヤバいことになっている可能性が高そうだな」


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