第9話
だが、そんな志願兵が集まったから、と言って、どうとなるものでもない、ことは、軍事には素人である村山幸恵にも分かる話だった。
実際、ヒロイン自身も参加した台湾民主国軍は、兵の数こそ一時は増えたものの、女性や20歳に満たない若者が増えただけで、劉永福将軍が、本当に欲しいと願っている熟練した兵は、相次ぐ日本軍との戦闘により、画面上では減る一方だった。
その一方で、乃木希典将軍が率いる日本陸軍から成る増援部隊が、戦況の打開のために、新たに台湾に送られてくる等、日本軍は質量共に、台湾民主国軍を圧倒せんばかりの兵力を持つようになっていった。
(とはいえ、増援部隊も、台湾にたどり着いて、早々に脚気等に苦しむのが、映画上でも分かるのだが。)
そして、それを日本軍は、大いに生かして、台湾民主国軍に対して攻勢を取る。
ヒロインが参加する台湾民主国軍は、この攻勢に対して敗走を重ねる。
このことは、お互いの軍幹部の会議の場で、哀切を込めて映画上で語られた。
まず、台湾民主国軍幹部の会議である。
劉将軍
「台湾民主国軍に志願してくる女性や少年を、精鋭から成る日本軍が待ち受ける戦場に送り込むのは、わしの心がうずくことで、本当に耐え難い。女性や若者は、将来の為に生き残らせるべきなのに」
幕僚の一人
「あのような兵を、戦場に送り込むのは、私も自分の良心が許せません。彼らを帰宅させましょう」
別の幕僚の一人
「ですが、彼らは、私たちの帰宅命令を拒むでしょう。彼らは、台湾独立の為に、復讐の為に戦っているのですから」
劉将軍
「彼らを、ここまで追い詰めたのは、新竹で敗北した私に全責任がある。彼らが、何とか生き延びられるよう、精一杯の手を尽くそう」
幕僚たちは、皆、無言で肯くばかりだった。
次に、日本軍幹部の会議の場である。
小松宮殿下
「台湾の住民が、ここまで独立を追い求めるとはな。兵の質量共に劣る中、抗戦を止めようとしない」
乃木将軍
「台湾の住民の独立闘争には、少年や女性まで参加しており、鬼神をも哭かしめる戦いぶりです」
林忠崇大佐
「台湾の住民の死闘は、後世に語り伝えられるのに値するものです。言ってはならないことなのは、重々承知しておりますが、台湾は独立すべきではないでしょうか」
小松宮殿下
「では、独立した場合、台湾はそのまま独立できるか」
乃木将軍や林大佐は、無言のまま、下を向いてしまう。
ナレーターは、二人の内心を代弁する。
今のまま、台湾が独立した場合、日本が自国領にしなければ、他の国の領土になるだけだろう。
それは、日本の国益にならないし、台湾の住民の利益にもならないだろう。
だから、我々は、台湾独立阻止のため、戦わねばならない。
ナレーションが終わると、小松宮殿下は、ためらいを断ち切るように発言する。
「親の心、子知らず、という。台湾にとって、我々、日本は新たな親なのだ。子は、もう自立できる、と言って、独立を追い求めている。だが、それは、まだ早いのだ。過保護極まりない親だ、と子が考えようとも、我々は、親として、子の台湾独立は認められない」
その言葉を聞いた乃木将軍や林大佐は、無言のままで肯き、会議の場を去る。
だが、その一方で、小松宮殿下は、二人を見送りながら、独白する。
「自分は、本当に正しいのだろうか。台湾は、本当は独立してもいいのではないか」
幸恵は思った。
時を戻すことはできない。
だが、この映画に見入る程、この時に、台湾を日本領にしたことは正しかったのか、と疑念が浮かぶ。
幸恵の周囲の観客も似たようなことを想うのだろう。
ここまでしなければならなかったのか、と呟く声がかすかに聞こえ、それに肯く複数の観客の姿が、幸恵の目に入った。
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