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第6話

 映画上で、新竹にたどり着くまでに、日本陸軍は、かなり消耗してしまっていた。

 脚気を発症し、他にもマラリアが蔓延し、という悪夢のような事態が起こったのだ。

 そういえば、脚気は、夏の季語だったな、と村山幸恵は思い起こした。

 台湾で脚気が蔓延するのは当然か、あそこは暑い土地だから。


 母の勧めで、若女将として、一通りの教養を、幸恵は身に付けさせられた。

 料亭のお客に、あそこの料亭の女将は物を知らない、と思われてはいけない、ということで、幸恵は、学ばされたのだ。


 ちなみに、その際の最初の師匠役は、大抵、母で、より詳しい知識が必要になると、専門の師匠に幸恵は教えられた。

 幸恵が、師匠たちから聞いた話だと、母は、幸恵を妊娠する以前、横須賀では、かなり将来を期待された芸者だったらしく、一通りの教養を身に着けていた。

 幸恵を妊娠したことから、母は芸者を引退したらしいが、かなりの大物、海軍提督クラスまでが、母の引退を惜しんだとか。

 幸恵は、自分の出生を、何となく察しており、周囲が大変な迷惑を被ったのも察してはいるが、母がそこまで惚れ込み、今でも実父への恨み言を母から聞いたことがない実父を、果報者だと思っていた。


 ともかく、映画上では、日本陸軍は、えらい有様だった。

 小松宮殿下をはじめ、半数近い人員が罹病する有様に陥っていた。

 少しでも元気な兵を選んで、小松宮殿下を畚に載せて、運ぶ状況である。

 ちゃんと勝つのは分かっているが、新竹攻防戦を前に、幸恵をはじめ、観客は不安に駆られた。


 一方、海兵隊は、意気軒高な有様だった。

「麦飯がまずいです」

「それよりも、キニーネが苦くてかなわん」

 と、阪東妻三郎の長男と、ミフナとかいう名の新人俳優が演じる、若き日の土方勇志伯爵と、岸三郎提督が、半ば掛け合い漫才をしつつ、海兵隊は、新竹を目指した。

 麦飯を始めとする脚気対策に加え、キニーネ服用によるマラリア予防対策等々で、海兵隊は元気そのものだった。

 この海兵隊員のドヤ顔が、観客の不安を癒した。


 新竹に先にたどり着いたのは、日本軍だった。

 臨時に新竹にいる日本軍の総指揮を執ることになった海兵隊の林忠崇大佐(当時)は、陸軍を前線に配置し、海兵隊を予備部隊として、北上してくる台湾民主国軍主力部隊を迎撃することにした。


 一方、劉永福将軍率いる台湾民主国軍主力部隊も、祖国独立の意気に燃え、士気は天を衝く勢いだった。

 新竹を包囲し、砲撃を日本軍に浴びせ、その援護下、台湾民主国の兵は、日本軍の陣地に突撃を掛けてくる。

 窮地に陥った日本陸軍の兵士を、林大佐以下の海兵隊員は救援に駆けつけ、台湾民主国の兵を撃退するという死闘が画面上では演じられるようになった。


 それにしても、芸の細かい演出だった。

 白兵戦の画面で、実際に日本刀を振り回すのは、西南戦争において抜刀隊の経歴を持つ林大佐と、斎藤一少佐の2人だけだった。

 それ以外の日本兵は、陸軍も海兵隊も装備が銃剣で統一され、台湾民主国の兵と戦っている。

 一方、台湾民主国の兵の装備は、バラバラで、銃剣で戦う兵もいれば、柳葉刀を振り回す兵もおり、中には竹槍で武装している兵までいた。

 ちなみに、ヒロインの彼氏も画面上に出ているが、竹槍を振り回していた。


 岸総司が、本音を言えば祖父の岸三郎達には、日本刀を振り回して欲しかったけど、実際にそうだったから、仕方ない、と自分にこぼしたのを、幸恵は思い出した。

 阪東妻三郎演じる林大佐と、嵐寛寿郎演じる斎藤少佐は、台湾民主国の兵が振り回す銃剣や柳葉刀、竹槍を相手に、華麗な殺陣を画面上で示していた。

 さすが、名優と周囲から声が上がり、幸恵もそれには同感で、華麗な殺陣に見惚れてしまった。  

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