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第5話

 映画の場面は、更に進んで、日本軍の南進が始まった後になっていた。


 台湾民主国軍総司令官に就任した劉永福将軍の呼びかけに従い、台南市民を始めとする台湾の住民が、相次いで、台湾民主国の旗の下に、馳せ参じる場面になっていた。

 台湾民主国の旗、それは、藍地に黄色の虎が描かれた旗である。

 この旗は、色々と因縁のある旗だった。


 台湾民主国は、日本軍の攻勢の前に、最終的に崩壊してしまい、台湾は、下関条約通りに、日本の領土になってしまう。

 だが、台湾の住民の一部は、あくまでも台湾の独立を求め続け、武装抵抗を行った。

 その際に、彼らが、自らの拠り所として、掲げたのが、台湾民主国の旗だった。


 そのため、台湾民主国の旗は、台湾の住民が所持することさえ、第一次世界大戦が始まる頃までは、日本政府には、事実上は認められない禁断の旗になってしまう。

 家宅捜索の際等に、台湾民主国の旗が警察に見つかっただけで、内乱罪の証拠品に、刑事裁判の際にはされてしまい、持ち主は死刑判決を受けるのが、常だった。


 さすがに、台湾が、日本領になってから、20年余りが経つ第一次世界大戦の頃になると、表立った台湾独立の武装抵抗は収まった。

 その頃になると、台湾民主国の旗は、台湾の住民が、秘かに隠し持つ限りは、問題にならなくなった。

 だが、まだこの頃は、台湾民主国の旗が、台湾内で表立って掲げることは、内乱を煽るものだ、として日本政府には許されなかった。


 その次の転機が、第二次世界大戦だった。

 第二次世界大戦勃発に伴い、国民総動員を行わねばならなくなった米内光政首相は、台湾の住民からも志願兵を募ることとし、その代償として、台湾民主国の旗を、台湾の住民が掲げることを是認したのだ。

 このことが、台湾独立を煽るのは明らかだったが、第二次世界大戦という非常事態である以上、背に腹は代えられないとして、日本本国内でも、このことに反対する声は小さかった。


 そして、今や、台湾独立運動の象徴に、この台湾民主国の旗はなっている。

 台湾独立運動集会が行われる台湾の広場の一角に、この旗は、大抵、掲げられる。

 日本政府は、平和裏に終わる限り、こういった集会を是認する姿勢を崩してはいなかったが、中国国民党政府は、このような集会は、中国を分裂させるものであるとして、不快感を示すのが常になっていた。


 だが、幸恵が涙をこぼしたのは、別の理由だった。


 画面上では、李香蘭演じるヒロインが、台湾人の彼と、別れを惜しんでいる。

「台湾独立を果たしたら、あの旗の下で、結婚式を挙げよう。台湾独立を共に祝って」

「黒旗軍に本当に入るの」

「ここは、僕の故郷、祖国なんだ。祖国を護らないと」

「分かったわ」


 この約束は、未だに果たされてはいない筈だ。

 何故なら、台湾は、日本の領土なのだから。

 それに、多分、彼は。

 ヒロインと彼が、恐らく迎える運命を想うと、幸恵は、日本人なのに、涙がこぼれた。


 黒旗軍を中核とする台湾民主国軍は、台南を中心とする台湾南部の住民が中心となって、主力部隊が編成された。

 更に、最高司令官である劉永福将軍自身が、主力部隊を率いて、日本軍が上陸した台北へと向かうことになった。

 速やかに、日本軍を迎撃するために、台湾民主国軍の主力部隊は北上したが、どうしても時間が掛かる。

 その間にも、日本軍は南進を始めていた。


 台湾民主国軍主力部隊と、日本軍が、最初にぶつかったのは、新竹だった。

 新竹に、日本軍がたどり着くまでにも、台湾民主国に共鳴した台湾の住民は、自発的に武装して、日本軍を襲撃していた。

 それを見た幸恵は考えざるを得なかった。

 こんなに、当時の台湾の住民が、台湾独立を追い求めていたとは知らなかった。 

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