第15話
日本政府の思惑が明かされます。
「台湾で亡くなられた宮様」の映画の上映が始まってから、3か月余りが経ち、基本的に日本国内の映画館での上映が終わった頃のことだった。
「どうだ。あの映画に対する日本国内の反応は」
「予想通りの反応ですな。日本国内で、台湾で実施される住民投票により、台湾独立が支持されるなら、それを認めよう、という意見が増えています」
立憲民政党党首の片山首相と小泉立憲民政党幹事長は、お互いに笑みを浮かべながら、首相官邸で会話していた。
「私の地元、横須賀に帰ったら、支持者たちに言われましたよ。台湾が、あのような経緯で日本領になったとは知らなかった。台湾の住民が、独立を求めるなら、認めるべきではないか、とね」
小泉幹事長は、笑いながら言った。
「全く映画の宣伝効果は絶大だな。首相官邸に届く、台湾独立に関する意見を書いた手紙や葉書も、台湾の住民が独立を求めるなら、独立を認めるべきという意見が圧倒的だ」
片山首相も笑いながら言った。
「重光外相の報告によると、諸外国の反応も、蒋介石率いる中国政府以外は、好意的な反応で固まりつつあるらしい。この際、台湾での住民投票を断行して、その結果による台湾独立を認めたい、と考えるが、党内のとりまとめは、何とかなりそうか」
片山首相は、少し声を潜めながら言った。
「ご安心を。今なら、何とかなるでしょう。それよりも、野党の立憲政友会の反応は、どうなのです」
小泉幹事長も、声を潜めながら尋ねた。
「立憲政友会の吉田総裁は、外交官出身だよ。あの映画の効果で、諸外国に台湾独立を認めるべき、という意見が広まっている中で、台湾独立反対、という意見を高唱しては、諸外国政府の感情を損ねるのが分かっている。いや、あの狸、内心で苦笑いしながら、台湾独立を認めるつもりではないかな」
第二次世界大戦後の衆議院総選挙で、立憲民政党による政権奪還を果たし、2年以上の長期安定政権を維持している片山首相は、そのように辛辣に吉田総裁を批判した。
ちなみに、第二次世界大戦で日本を率いた米内光政前首相は、第二次世界大戦後の衆議院総選挙で立憲政友会が大敗した責任を取って、立憲政友会総裁を辞任し、政界引退に追い込まれている。
米内総裁の後を引き継いで、立憲政友会総裁に就任した吉田総裁は、立憲政友会の党勢立て直しに奮闘せざるを得ない状況であり、台湾独立という党内意見とりまとめに苦労する話題については、世論の成り行きに、ある程度は任せる、という風見鶏に徹さざるを得なかった。
「それにしても、あのような映画を作って良かったのですか。それなりにお金がかかったとも聞きますが」
小泉幹事長は、片山首相に問いかけた。
「実際に、台湾独立戦争を台湾の住民に起こされるより、遥かにマシさ。そっちの方が、映画製作費より、遥かにお金がかかるからな」
片山首相は、渋い顔をして言った。
「確かに卓見ですな」
小泉幹事長は頷きながら言った。
「鈴木財閥のトップの高畑と、先日、面談した際に言われたよ。植民地経営は、企業経営と似ています。将来、赤字になるのが分かっているものは、黒字の内に清算するべきですとな」
「確かに当たっていますな。このまま、台湾を日本領にしていては、台湾の住民の反日感情を煽り、最悪の結果を招くでしょう」
「今なら、台湾が独立したとしても、中国との関係があるから、台湾は、日本との友好関係を維持するしかない。台湾の日本軍基地は維持できるし、最高のタイミングではないかね」
「台湾の住民も歓迎するでしょうし、中国以外の諸外国政府も、台湾独立に反対しない。確かに、今が台湾独立を認める最高のタイミングでしょうな」
片山首相と小泉幹事長は語り合った。
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