第11話
この時、映画は、第1部が終わった。
何しろ、田坂具隆監督が、凝りに凝った結果、全編通すと約4時間ものの大作映画になってしまったのだ。
さすがに、映画館で公開するには、長すぎるという批判が出て、2部構成とし、第1部が約2時間半、第2部が約1時間半という作品に、「台湾で亡くなられた宮様」は編集された。
第1部が終わったことで、帰宅する者が、それなりに出だした。
その一部は、エキストラ出演していた海兵隊員やその家族、知人だった。
映画館も、それを当てにして専用席を設けていた。
実際、殺陣等の戦闘シーンがあるのは、基本的に第1部のみであり、第2部になると、戦闘シーンはナレーションのみになることが、事前に公表されていた。
第2部では、海兵隊を始めとする日本軍は、基本的に出てこない。
第2部は、日本領となった台湾が、徐々に発展への胎動を始める話であり、小松宮殿下は、それに心を配る話である。
そのため、阪東妻三郎や嵐寛寿郎らの殺陣を見に来た観客や、エキストラとなった海兵隊員を見に来た観客は帰ってしまうのだ。
村山幸恵の耳にも、帰っていく観客の声が入ってきた。
「あのシーンで、父さんが少し映っていた」
「あの背格好、どう見ても、知り合いのあいつだな。本当に出ていた」
「それにしても、本職がやると迫力が違うな。実戦さながらの殺陣だ」
観客の中には、多数の元軍人がいる、彼らの目も満足させる殺陣を、映画は展開していた。
(その代り、絵になるというよりも、泥臭い殺陣になっているのでは、と幸恵には思えたが。)
村山幸恵は、長谷川一夫のファンだったので、続いて、第2部まで見たが、実際問題として、第2部は、第1部より劣ると思わざるを得なかった。
第2部の冒頭で、捕虜収容所から釈放された彼氏と、ヒロインは再会する。
本当は、劉永福将軍に共に決起するように促す等、割合、台湾民主国独立運動に際して、中核に近い位置に彼氏はいたのだが、自分は使い走りの兵に過ぎなかった、と主張して、早期の釈放を勝ち取ったのだ。
最も捕虜となった者は、大抵の者が、生き延びて、早期に釈放されるためにそう主張したので、そう非難されるようなことではないことが、ナレーターに明かされる。
彼氏は、捕虜収容所で手厚い看護を受け、走ることはそうできなくなっていたが、日常生活に支障のない体で帰還してきていた。
ヒロインに対し、
「台湾が独立をしていないが、結婚してほしい」
と彼氏は、あらためて求婚し、ヒロインは、それを受け入れ、二人は新生活を始める。
その一方で、日本の統治が、台湾では進められていった。
台湾に止まり、日本国籍を取るか、台湾を去って、清国籍を取るか、二者択一を台湾の住民は迫られる。
新生活を始めたヒロイン達は、止むを得ず、日本国籍を取得する羽目になる。
ヒロイン達は、新生活の一環として、雑貨屋を表でやる一方、日本国籍を持つ以上、日本語を学べ、と日本語教育を学校で始めた日本へのささやかな抵抗として、近所の子へ台湾語の私塾を始める。
だが、その行為は、警察から台湾独立運動の隠れ蓑ではないか、と目を付けられ、ヒロイン達は、私塾の閉鎖を余儀なくされる。
ヒロインは、私塾閉鎖の直前の授業で、教え子の子どもたちに、台湾語で訴える。
「これが、この私塾での最後の授業になります。でも、授業が終わり、私塾が無くなっても、台湾語が、私達の言語であることは変わりません。どうか、教科書を大事にしてください。そして、台湾語を守り抜いてください」
そして、泣き出した教え子達を見て、ヒロインはあらためて自覚する。
私の祖国は、清ではなく、今や台湾になったのだ。
台湾の地を、いつか独立させたい。
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