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第1話

 拙作の「サムライー日本海兵隊史」の外伝等の一つです。


 作中にもありますが、第二次世界大戦が終わった後の1940年代後半が舞台で、台湾独立を巡り、台湾を領有している日本政府の思惑、蒋介石率いる中国国民党政府の思惑に加え、台湾独立を望む多くの台湾住民の思惑も加わり、それぞれが自分の考えに従った宣伝戦を裏で繰り広げています。

 横須賀の料亭、「北白川」の若女将、村山幸恵は、実は長谷川一夫の大ファンである。

 そして、長谷川一夫が出る映画を鑑賞するのが、幸恵の趣味だった。

 長谷川一夫が主演出演した映画は、当然、幸恵は全て見ており、中には数回、映画鑑賞に行った作品が、幾つもあるくらいだ。


 はっきり言って、この趣味については、幸恵の周囲全員が、匙を投げている。

 幸恵の母の「北白川」の大女将が、幸恵の夫の「北白川」の立板が、更に10歳になった幸恵の長女、全員が、

「あの趣味を、(幸恵に)止めさせるのは絶対に無理」

 と口をそろえる有様だった。


 だから、「台湾で亡くなられた宮様」という映画が、長谷川一夫主演と聞いた瞬間、幸恵は、横須賀での封切り初日を、指折り数えて待つ有様だった。

 とはいえ、それ以外のことでも、この映画は、様々な点で話題となっていた。


 台湾の帰属、独立問題は、第二次世界大戦終結直後の現在、極東アジアの大問題になっていた。

 日清戦争の結果、台湾は、日本の植民地となっていたが、台湾を元々、中国領と考える中国国民党政府は、台湾を中国に返還するように、長年にわたって求めていた。

 その一方、台湾の住民の多くが、独立を悲願としているという現実があった。

 そして、日本の国民の多くが、日清戦争の果実として得た台湾を手放すことに感情的な反発を覚えていた。


 こうした中、日本の文部省の後援で、修身にも使える映画作品ということで、「台湾で亡くなられた宮様」という映画が作られることになったのである。

 中国国民党政府は、早速、政治的な意図を感じる、と抗議したくらいだった。

 そして、その内容は、というと。


 幸恵は、自身が小学校で受けた修身教育を思い起こしていた。

「台湾で亡くなられた宮様」

 日清戦争の後、台湾の人達を教化し、台湾を発展させるために、小松宮殿下が、軍の総司令官として派遣されました。

 そして、小松宮殿下は、台湾で抵抗している悪い人達をやっつけ、台湾の人達を教化し、台湾を発展させる道筋を作ったのです。

 悪い人達は中々、抵抗を止めなかったので、小松宮殿下は、東京と台湾を何度も往復しなければならず、最後には疲れ果て、病にかかり、台湾の地で亡くなられました。

 そして、神様となって、台湾の人々を護っているのです。


 この内容、決して嘘は書いていない、と幸恵は、よく知っていた。

 幸恵の実父ではないか、という全くの根拠のない噂のある北白川宮(成久王)提督から、幸恵自身が、このことについて、ある時、細かく教えてもらっていたからである。

(北白川宮提督は、小松宮殿下の甥で、皇族として直接の面識もある上、親しく交わられた仲だった。

 更に異母弟が、小松宮殿下の養子となり、小松宮家を相続したという所縁もあった。)


 小松宮殿下は、日清戦争の後、台湾の住民が、台湾民主国を建国して独立運動を起こした際に、陸軍大将であり、台湾派遣軍の総司令官として派遣された。

 そして、台湾民主国の独立運動を、小松宮殿下は容赦なく武力で粉砕し、台湾を日本領にした。

 とはいえ、台湾の住民の武装抵抗は、中々収まらなかった。

 小松宮殿下は、台湾独立運動を鎮圧した後、日本に帰国したが、台湾のことが気掛かりだったので、台湾の開発に気を配るように運動し、自身も何回か、都合をつけ台湾を訪問した。

 そして、台湾を訪問していた際、マラリアに罹り、台湾で薨去されたのである。

 更に、台湾で日本の神社が作られる際に、台湾の祭神の1柱になったのである。


 修身の教科書は、ある意味、日本の修身教育に、都合のいいように抜粋して、小松宮殿下の生涯を記載しているのである。

 幸恵は、このことを知った際に、びっくりしたのを覚えていた。

 実は、村山幸恵は、元祖ミーハーの一人だったということで。


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