ぬいぐるみ勇者サマは逃亡劇を企てる
さて、オレことユウキ・イサミは異世界に突然勇者として召喚され、魔王を倒した。そして何故か召喚した国の王女であるクリスティーナ様の婚約者になりかけている。
うん、そこまでは良いんだ。いや良くないけど。はたから見たらどこぞの英雄劇……もとい冒険譚……いや、ラノベ……?まあとにかくオレは世界を救ったという事になっている。
召喚の際の手違いで外見がクマのぬいぐるみになって、相手の王女様がわずか8歳で、更に魔王が外見も精神も10歳のコドモでさえなければな!!!
◆◇◆◇◆◇◆
「勇者様〜〜?どこですか〜〜?」
勇者を探す愛らしい声が廊下に響き渡る。だがすまん、王女様よ。オレには絶対にキミと結婚出来ないワケがある……!
「勇者ー!!どこ行ったー!?とっとと出て来てオレ様と再戦しろーーー!!!………ぎゃあああぁぁぁぁ!?」
……ああ……中庭では【元】魔王君がオレとの再戦を叫んでは拘束呪印による雷撃を喰らってる………。
……え?魔王は倒したんじゃないかって?
まあ世間一般的には倒した事になっているな。……そもそも10歳前後のガキをマジで倒す訳ないだろ。魔王軍って言っても周囲の馬鹿な魔族が魔王の血族のガキを担ぎ上げた集団だったからな。ハリセンで叩いて降伏させたんだよ。何か文句あるか。
幹部とか言っていた魔族は日本刀で相手をしたぞ?最後には泣きながら命乞いしてきたから生かして犯罪者労働に回させたけど。
ちなみに魔王君には王女様の国で預かってもらっている。まだ子供だし、ちゃんとして常識植え付ければ大丈夫だと説得してな。……胡散臭いとか言うなよ。オレだって苦労したんだ。聞けばこの世界では魔族は徐々に数を減らしていて、あと数百年で絶滅する危機に陥っているらしいからな。本当に種が途絶えたら流石に目覚めが悪いんだよ。
あー、魔王君の拘束呪印?まあアレも所謂躾の一種だな。目を離すとすぐに人間は敵だとか叫ぶし、無闇矢鱈に攻撃呪文放とうとするしで危険なんだよ。自然発火装置かあいつは。
他にも悪しき情操教育の所為で大人の美女を侍らそうとしやがる、とんでもないマセガキだったからな。ちょっとキツめに修正しないと色々やらかしそうで怖えんだよ。
おっと。余所見なんてしてる暇なかった!早いとここの城から脱出しないと……そしてこの姿から晴れて人間の姿に戻らねば!!
は?オレを呼び出した召喚士に戻してもらえ?
………バカ言っちゃいけねぇ。そもそも元の姿を見られたくないから逃亡の計画立てたんだよ………。悪いかよ。必死なんだコレでも。
「おや勇者サマ。どちらに向かうおつもりで?クリスティーナ殿下が探しておられましたよ?」
「ああ?その王女様から逃げてるに決まってんだろ何言わすんだ……って……はぁ!?」
真横から届いた聞き慣れた声に普通に返事をして……びびった。何でこの男に気付かれる、オレ!?
「ダメですよ、勇者サマ?こんな所でかくれんぼなんて……そんな年でもないでしょう?……多分」
「どうして最後に多分が付くのかはっきり言えやコラ。ぬいぐるみ姿だと年齢なんか分かんねぇだろ。っつうかここがどこだと思ってんだ。その宙にプカプカ浮いてる箒をテメェごと吹っ飛ばすぞ」
「城の城壁ですね。貴方に壁に引っ付く趣味があったなんて知りませんでした。その認識阻害の魔術を解いて差し上げましょう。きっと王女様がお喜びになられます」
にっこりと笑って悪夢の提案を寄越す天才魔術師に背筋が冷える。コイツ、目が笑ってねぇ………!
「へえ?んじゃオレはオマエのコートに掛かってる補助魔法を片っ端から解いてやろう。アルビノにこの直射日光はツライだろ?」
城壁にロッククライミングの要領で張り付いたまま器用に片手で魔術を展開する。
この世界には魔術とか魔法が存在する。オレは勇者として召喚された影響なのか、国の連中曰くかなりの高度な魔術の使い手なんだとか。
そしてこの腹黒魔術師ことクラウド・フィオールは白髪赤眼のアルビノだ。
この世界でもアルビノと呼ばれる人間は存在する。しかもオレの世界とそう変わらないらしく、日中は分厚いコートが欠かせない。その上アルビノとして産まれる連中は総じて魔力が高いときた。それ故にどの国の魔術師も高名なヤツ程アルビノ率が増え、そしてアルビノ故に真昼は姿を現さず、夜に活動する、所謂〈実力が高い=夜型〉方程式が出来上がっていた。だがオレの世界のアルビノに関する情報を経て補助魔法で身体を覆うという方法に行き着いて以来、最近ではクラウドみたく太陽が照りつける中でも補助魔法とフード付きコートで元気に歩き回るヤツも見掛ける様になった。
「脅しとは……貴方らしくありませんね。そんなに王女殿下との婚約がお嫌ですか?」
「…………。嫌とかの問題じゃねぇんだよ」
「ではご年齢に差があり過ぎるとか……」
「安心しろ、精々8歳差だ。でも問題はそこじゃねぇ」
「では何が不満なのですか……。貴方程の男性であれば王女殿下との婚姻に口を挟む者もおりません。それとも元の世界に恋人でもいらっしゃるのですか?」
「…………………好きなヤツはいねぇよ。恋人もな。残念ながら」
真剣に王女様との縁談を考えてるんだろうな、コイツは。確かに召喚されてからこの外見のお陰かどうかは知らねぇけど、王女様には大分懐かれてるし、オレも随分可愛がった。だから忘れてたんだよ。オレの言動と外見が、どんな誤解を与えるかを。
悪いな、クラウド……。だがこれもあの子の夢を壊さない為だ……!
「……ま、真相なんて知らねぇ方が良いって時もあるのさ『夜ノ幻』」
「なっ……!」
声が途切れる。
局地的な『夜』が王都を覆い、静寂が城を包み込む。灯りも音も消失した空間で、側にいた相手の動揺を振り払う様に発動した転移魔法でオレはこの国から逃亡を開始した。
◇◇◇
「ふう……晴れて自由の身……じゃねぇな」
あともう一つの厄介ごと。
そう、今のぬいぐるみ姿だ。
とは言えオレとて何も持たずに城を脱出した訳ではない。あらゆる伝手と賄賂を使い、召喚魔法の陣を手に入れた。これを漸く昨日解読して元に戻る算段を付けたのだが……オレは召喚士じゃねぇしそういった専門の魔導学も習ってねぇ。
だが自力で元に戻る為に必死に魔術言語を覚え、オレを喚んだ召喚陣を元にした新しい魔法陣を用意した。………コレでダメならもうどうとでもなれ!!
「よし……いくぞ……!」
震える手(テディベアなのが哀しいトコロだ)で魔法陣と、結界魔術を発動する。
「『人体情報書き換え術』発動、及び『眠りの揺籠』」
光が視界を覆う。これも予定調和だ。ただ結界魔術で眠りに入る直前に脳を叩く様な激痛が一瞬だけ身体を過って。
そこで一度、オレは完全に意識を失った。
◆◆◆◆◆
「——い———!——ろ!」
うー……なに、まだねむい……。
「—い——!—きろ—」
部屋の灯り…じゃねぇな、何かまぶしい。っつーか誰だ、ウルサイ。
「おい!起きろって!お嬢ちゃん!」
……………んん??
「ぅわ!?」
突然目を開けて上体を起こしたオレに仰け反るおっさん。はっきり言おう。見た事無いヤツだ。だがさっきコイツは聞き捨てならない一言を言った。
「おいテメェ……さっき、お嬢ちゃんって言ったか?」
「へ、え?あ、あぁ、言った…い、言いました……」
オレの口調に逃げ腰になりながらも答えるおっさんに礼を言って魔術を使った水鏡を創る。おっさんの目が丸くなったのはこの際無視だ。
水鏡に写ったのは、白いワンピースに特注のブーツを着た清楚な美少女だった。
うん、間違ってない。半年ぶりの、オレの身体だ。
あー、うん。改めまして、オレの向こうでの名前は伊佐見優姫。
ぶっちゃけ生物学上は、女である。
うん。女なんだ、オレは。
昔っからガキ大将さながらの活躍を見せ、小学校時代はそれとなく男装をしようとした時期もあった。だが如何せん、とてつもなく似合わなかった。
長時間掛けて日焼けをしても翌日には元通りになる白い肌。
ワックスで固めようがパーマを当てようが数時間でサラサラストレートになる艶やかな黒い髪。
どれだけ凄んでも迫力が出ないややタレ目でおっとりとした印象の顔。
仕方なくオレは外見を性格に合わせる事を諦め、思い通りに生きた。
お陰で高校に上がる頃には全身詐欺という不本意極まるアダ名を付けられ、歩く偽看板という暴言を放った地域の不良達をシバいて何故か姐御と呼ばれるようになっていた。
そんな中で起こった召喚事件。
家で愛用の日本刀、『月華』を手入れしていた時に突然向こう……いや、こっちに喚ばれた。
ん?何で日本刀を持っていたのかって?
あー……実家が長くから続く古い家系でな。最近じゃ祖父も親父も居合い斬りの達人として有名になってオレも免許を持ってるんだ。
勿論ケンカの中で刃物を持ち出す事はねぇぞ?オレは平等な中での実力主義だ。
まあそんな感じで異世界に来た訳だが……オレの身体がぬいぐるみになった事とこの言動が災いした。
気付いた時にはすっかり男という認識が周囲に広まって、訂正出来ない状態になっていたんだ。
おまけに王女様との婚約まで外堀を埋められ………オレは逃げる決意をした。
◆◇◆◇◆◇◆
こうして召喚先の国から逃げ出したオレだが、隣国のギルドで冒険者として活動している内に〈天使の皮を被った修羅〉なんつー通り名が蔓延して、あの腹黒魔術師に笑顔で求婚され、悲鳴を上げて再び逃げる事になるなんて、考えもつかなかった。
小説家になろう初投稿です。ここまで読んでくれた皆様、有難うございます。
誤字脱字あれば教えて下さい。
続きは…書くとしたら別視点でしょうか。