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08 修道院への階段

 

 ■システィーナの視点



 はあ、ふう、はあ、ふう……



 見上げる岩山には、幾度も折れ曲がって登る階段が続いている。

 いわゆる九十九折(つづらおり)の階段……はわぁ、まだまだ続いているわ……アラルフィほど高くも長くもないけれど……ある意味大変。ミシェリア修道院は、聖魔法でも治らない病療修道院だから患者を運びやすいように階段が緩やかで……緩やかだからこそ、階段一歩一歩が低くて段数が多い……



 ああ、階段には樹木が生い茂っていて……木陰が涼しいわ~。

 九十九折の折り返し地点は少し広くなっていて、ちょっと一休み……と、下を見ると……おお~……ゴミゴミした町並みが岩山のふもとに広がっていて……不規則な高さと形で並ぶ家々の屋根、わずかに見える道を埋め尽くす巡礼者の姿……はわあ~、遠浅の海が水平線の彼方まで広がっていて……ふぅ~



「シス?」



 ああ、階段の先を歩くコックリが振り返って……

 同時に、コックリの前を行く女性兵士も振り返った。そう、私たちはモン・サン・ミシェリア島を守る兵士さんに案内されて、修道院へと向かっているの。



 ふもとの町で市井の様子を観察して、おかしなところが何もないことを確認したコックリと私は、修道院へ向かうことにしたの……修道院へはこの大きな階段でしか行けなくって……



 修道院へつながる唯一のこの階段はふもとに門があったのだけれど、もう厳重に封鎖されていて……複数の女性兵士がもうピリピリピリピリしながら警備していたわ……



 コックリが門に近づいただけで、兵士皆が槍を一斉にコックリに向けたっけ……



 オーガーと間違えたのかしら?

 それとも……もしかして……

 のっぴきならない『 何か 』が起きていて……?



 階段を登って行くと、岩山の下からそびえたつ城壁のような建屋が……大きい! まるで切り立つ崖のように、そそり立って……凄い迫力! 大きな四角い石を一段一段丹念に積み上げていって……ええ~、この城壁を作るだけでも、何年かかったのかしら……!?



 階段はやがて、その大きな城壁の中に向かっていて……

 わあ……お城の城壁の中へ入って行くみたいで……アーチ状の大きな門の中に、大階段が続いていってる! 門の中はトンネルのように先に続いていて薄暗くって……ああ、先の方で階段がカーブしてる……



 すると、門の手前で兵士さんが振り返った。



「神殿騎士様、システィーナ様。暗くなっておりますのでお気をつけて」



 ありがとうございます。コックリも私も、夜目がきくから大丈夫ですよ。

 城壁の中に入ると……おお~……コックリと兵士さんの鉄靴の音がカツンッ、カツンッ、と城壁内に響いて……階段トンネルが上へ上へと続いている。



 ああ、でもホント……よく造るわねえ……石でアーチ状にトンネルを造るだけでも大変だろうに、なおかつ階段なんだもの……さらにカーブしていって……これはきっと、大地の妖精ドワーフも手伝ったんだろうなあ。



 しばらく階段トンネルを上ると、先が明るくなってきて……



 はわあ~、建屋と建屋のわずかな隙間に空が見えてきた。

 おお~明るくなって分かったけれど、どうやらこの階段は大聖堂の建屋の基部を、らせんを描きながら上っているのね……ああ、上を眺めると、大聖堂の建屋から周囲を取り囲む建屋にアーチ状の橋が架かっているわ……ああ、中心の大聖堂が揺れないようにこのアーチで周囲とつないで支えているのね……支えにまで精緻な装飾が施されていて、凄く素敵……



 足音が凄く反響する。カツーンッ、カツーンッって……

 その足音が反響する階段を上っていくと……



「おおー」「はわあぁ~」



 コックリと私は、同時にため息をついた。

 階段を上りきった先には、小さな中庭があって……

 その先には……

 


 見事な……

 それはそれは、見事な大聖堂が……



「美しいファサード(大聖堂正面)だ」コックリは落ち着きある神殿騎士の表情から純朴な青年のそれに変わる。



 本当……キレイ……

 大聖堂の正面には、馬蹄形の両開きの大扉があって……その扉を縁取るように、石造りのアーチがあって……アーチは段々になって大きく広がって……迫ってくるようで……



 ああ、そのアーチには細やかに施された聖霊や聖人と思われる法衣をまとった人々の彫刻が……



「キレイ……」



 コックリと私はただただ大聖堂を見つめていた……



 ああ、中が見たい……

 ああ、中が見てみたい……

 大聖堂の中が……見てみたい……



 とその時……

 ギイイイイイ…………



 大聖堂の大扉が開いて……

 ああ中がわずかに見えた。ああ伸び上がるような美しい石柱が天に向かって一直線に……ああ……はぁぁ……



 キレイ……



 と見惚れていると、開いた扉から一人の女性が現れた。

 白い法衣を纏った、美しい黒髪の女性が……女性司祭ね。年齢は二十代前半かしら……清楚な顔立ちで、長い髪を真ん中分けして、形の良い額にはサークレットが輝いている……。凄く綺麗な女性……。銀のペンダントを胸に下げて、そこには小さなのミシェリア像が光っている。



 女性司祭はコックリを見るとギョッとした表情になった。ああ、あまりにも大柄なコックリにビックリしたのかな……オーガーだと思ったのかな……? 大丈夫ですよ、モンスターじゃありませんから。



「アルシャーネ様!」



 と女性兵士が声をかけた。

 え、アルシャーネ様って……じゃあ……この美しい女性が、あの聖女の再来と謳われる……『巫女』の字名を持つ高司祭……。アルシャーネ司祭は緊張した表情になって……



「エリアーテ……今は……外部の方は入れてはならないはずですよ?」

「は、はい! それが……神殿騎士様とパートナーの方でしてっ!」

「し、神殿っ!?」



 女性司祭は、目を見開いてコックリを見た。わあ、髪と同じ黒い瞳が大きく見開かれて……何てキレイなんだろう……



「神殿騎士コークリットです。こちらは私のパートナー、システィーナです」



 コックリは胸に手を当てて軽く会釈したので、私もまたコックリに倣ってお辞儀をした。



 顔を上げてアルシャーネさんを見ると……

 彼女は……見る見るうちに、目を赤くしていった。

 そして胸に下げたミシェリアのペンダントを両手で握りしめて……



 ああ、この反応……

 やっぱり……そうなんだ……



「ああ……神殿騎士様……システィーナ様……お待ちしておりました……」



 その言葉を聞いて、反応を見て……

 コックリも私も理解した。

 そして、ふもとの町での兵士たちの様子……ピリピリして……聖霊に守られた土地だというのに、何かを恐れるように……神経質そうに周囲に目を光らせていて……



 やっぱり……

 やっぱり、ここで……

 アレがあったんだ……



 聖地の中の聖地で……



 聖霊に守られた、唯一無二の尊い場所で……



 『 怪異 』が……




やっと次回あたりから怪異の話しに触れられそうなのですが、ちょっと時間がかかりそうです

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