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65 汚冥界:賓客の間17(アルシャーネ)

 

 ⬛アルシャーネの視点


 赤黒い闇の中に!

 システィーナさんの泣き声が!


「うわあああぁぁんっ! うわああああああぁぁんっ!」


 ああっどうしましょう!?

 私は彼女を抱きしめますと!


「圧倒的な強さで! 俺が勝つ!」


 神殿騎士様が私たちの前に!

 ですが! ですが! これは多勢に無勢です!


      ギヂギヂイイイッ!!

      ギヂギヂギヂイイイッ!!


「ああっ!」

「フオォッ!」


 ああっ! おっおぞましいです!

 怒りで歪んだムカデたちの表情!

 ああっ! 台風の渦のように! 私たちの周りを! ああっ!


 そしてついに!


 ズザザザザッッ!!

 ズザザザザザザザッッ!!


 ついに! 私たちに向かって! ああっ!

 おぞましい口がっ! ああっ!

 全方位から!


「フオォッ!」 クラウが戦棍を!

「皆一ヶ所に!」 神殿騎士様が! 剣を逆手に! 濡れた床に切っ先を! キンッ! 「聖剣技! 迅雷の陣!」


 ギガッ!


「「ああっ!」」


 剣を中心に! 半径二メートルほどの円が!

 光る円! 濡れた床の上に! 私たちの周りに!

 次の瞬間! 円から四方八方に稲光が! 幾筋も!

 蜘蛛の巣のように!


 ギガギガッ!

 ギガギガギガッッ!!


 ああっ光る蜘蛛の巣!

 その巣にムカデたちが!


 バチバチバチバチッッ!!


      ギヂイイイッ!!

      ギギギイイイッ!!


 ああっ! ムカデが!

 私たちに向かってきていた全てのムカデが!

 一斉に雷に! 一斉に雷に!!

 その場で動きが! その場で動きが!!


 これは! 聖魔法、雷火玉と剣技の!


「ぬおおっ!」 神殿騎士様がさらに力を込め!「ぬあっりゃあ!」


 バチバチバチバチッッ!!


 焦げ臭い! 不快な臭いが!

 ムカデは完全に体の自由を奪われ!

 あと四~五メートルの距離まで接近したのですが!

 固まって!


「しゃあっ!」


 と神殿騎士様が剣を持ち上げました!

 すると光る円が消え! 稲光の蜘蛛の巣も消え!

 ああっ、ですがムカデたちは痺れたまま!


「仕上げだ! 皆、剣より下に伏せて!」

「「は、はい!」」


 床に座る私とシスティーナさんは元より! クラウも膝をつき!

 と神殿騎士様が刀身に手を添え腰を落とし!

 低い! 私たちはさらに低く身を屈め!


「聖剣技! 波斬の太刀……!」


 剣に魔法の光が!

 ええ!? これはケルベロスを倒した技!

 まさかっ! まさか一体ずつ斬って!? まさか!?


 と神殿騎士様は輝く剣の切っ先を左手で!

 親指と人差し指でギリギリと!

 そして弓を引くように剣を左に! 上半身を限界まで捻り!


 ええっ!? 何てイビツな構え!

 ギリギリギリと体が軋み! と次の瞬間!


「その変形! 星流れっ!」


 キンッッ!!


 っ!? っ!? 甲高い!? 音が!?

 っ!! 剣が!! 左側にあった剣が!!

 左側にあった剣が!!

 右……右っ! ええっ!?

 いつの間に!? 右!?


 見えたのは! 光!

 一条の光!! 流れ星!?


 そう! 神殿騎士様が! 虚空を!

 剣を! 左から右へ!

 ああっ!

 虚空に!

 光る剣の軌跡!

 煌めく光の軌跡!

 三日月!? 三日月の光!


 代わりに剣の光が! ない! ない!!

 次の瞬間!


 キュドンッッ!!


 三日月の軌跡が!

 ムカデを!

 目にも止まらぬ速度で!

 突き抜け!


 ビギンッッ!!


 ああっ! ムカデの長い体に!

 一直線の光の筋!!

 と思った次の瞬間!!


 バガンッッ!!


「「っっっ!!!」」


 ムカデが!!

 台風の渦のムカデが!

 上下!!

 上下二枚に!!

 二枚になった上部が吹き飛び!!

 二枚になったムカデの上部が全て同時に!!

 天高く!!


「「ああっ!!」」


 周囲が! 台風の渦の四分の三近くが!

 二百七十度くらいの範囲のムカデが!

 上下二枚に綺麗に! 絶命し! ええ!?


「圧倒的な強さで勝つ!」


 神殿騎士様は残った逆側のムカデを一瞥!

 ああっ! ムカデたちの! 痺れて動けないムカデたちの!

 その背に列なる目に!

 恐怖が! 恐怖がっ!!


「星流れ!!」


 キンッ! キュドンッ! バガンッッ!!

 再び上下二枚に切り裂かれ吹き飛ぶムカデたち!


「「ああっ!!」」


 あ、圧倒的! 圧倒的です!

 私たちの周りには……もう……もう、動くものは……!


 圧倒的!! 宣言通りの! 圧倒的強さで!

 私たちの今までの苦労が何だったのかと思うほどの……

 圧倒的強さ!


 ビュビュンッ!


 神殿騎士様は剣を振りますと、鞘に!

 ああっ何と……何と強く……勇ましく……!

 こ、これは……!!


 胸が……胸が高鳴り始めました……

 ああマズイです! マズイです!

 と……


「グス……うぅ……グシュ」

「ああシスティーナさん、ヨシヨシ……」 私はシスティーナさんの頭を撫で「終わりました。終わりました!」


 と、ふと私は思いつきました。

 システィーナさんが泣いてしまった理由……

 これなのでは……と。


 神殿騎士様の強さを知っていたから……

 圧倒的な強さでこの窮地から救い出してくれると確信して……

 その安堵感で……


「うぅ」 システィーナさんはだいぶ落ち着いて。「グスッはぁ……グシュ」


 私は彼女を抱きしめながら神殿騎士様を見上げました。

 凛々しく立派な体躯の騎士が私たちを見ています。


 ああっ、どうしましょう……

 どうしましょう……

 胸が……

 この方にはこのシスティーナさんがおられますのに!


「何という……」 クラウが立ち上がり神殿騎士様に「私の方が強いだなんて……とんだ嘘をついて!」

「いや! 状況に寄るでしょう」 神殿騎士様が慌てて「一対一ならば貴女の素早さと攻撃力が私を上回ります」

「納得できません!」


 クラウは「もっと修行しなくては」と呟いています。

 と神殿騎士様が、私たちの前に片膝を着きますと優しい眼差しで……

 ああ、あんなに猛々しい騎士でしたのに……

 ああ何て優しい……


「アルシャーネ司祭。シスをありがとうございました」

「い、いえ……私の方こそ……何度も助けられました」

「そうですか……」 と神殿騎士様はシスティーナさんの髪に手を……「シス……よく頑張ったな……」

「グスッ……ううん……」 システィーナさんは涙を拭き。「全然だよ」


 彼女はヨロヨロ立ち上がると神殿騎士様の体を触って。

 ペタペタと「うん……うん……」と頷きながら……

 ああどうしたんでしょう?

 神殿騎士様は苦笑しながらもシスティーナさんのしたいようにさせて……


「ふふ……大丈夫だろ? じゃなきゃあんなに圧倒できないよ」

「うん……うん……良かった……良かった……」


 笑顔がこぼれます。

 彼女は神殿騎士様の腕にそっと手を……ああいじましい……


 ああ……そうでしたか……

 システィーナさんは神殿騎士様にケガがないかを……


 ああ、私は思い違いを……

 彼女が泣いてしまった理由はこちら……

 安堵感は安堵感でも対象が真逆の……


 そう、「自分たちを救い出してくれる」という安堵感ではなく……

 飛んで来た神殿騎士様の「彼の無事な姿」を見た安堵感で……


 そう、一人で残った神殿騎士様をずっと心配していましたから……

 無事な姿に……安心して……


 そして神殿騎士様も……

 圧倒的強さで勝つことを殊更宣言しましたのは……

 圧倒的な強さをあえて見せることで……

 無事じゃなければできないことを彼女に……


 何という……お互いがお互いのことを……


 何と深い慈愛の……


 私は胸が高鳴りました。二人を見ていて……

 ああ良かった……

 こんな二人を見られて……

 種を越えた二人の慈愛を見られて……


 とその時!


      ギャリイイィィィィンッッ!!


「うおおっ!!」

「「ひゃああっ!!」」


 金属を擦り合わせる不快な音!

 ああっあの蜘蛛の……化け物……!

 すぐ! すぐ外で!

 もうっ壁を隔てたすぐ隣くらいのところで!


「ヤバイッ! 城壁のすぐ下まで来た! 皆、走れますか!?」

「は、はい!」「なんとか!」

「では一刻も早く大聖堂へ!」

「「はい!」」


 私たちはムカデの死骸の中から走り出しました!



賓客の間が予想以上に長くなりました。

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