60 汚冥界:賓客の間12
■システィーナの視点
くうぅっ……!
ビチャビチャに濡れた……床にっ!
私たちは転がって……!
「うあぁっ……! あぁぁ……!」
み、ぎっ腕っ! うあぁっ!
腕……焼けるように……うぁあ!
痛くて……!
気絶っ……できないっ……!
うああっ!
「グオォ……」
クラウディーアさんっ……が!
すぐ近くで……ビチャビチャの床に……倒れ……!
ああっ……アルシャーネさんも……投げ出され!
「うああっ! ク、クラ……だ……丈……!? あぅっ!」
痛っ! うあぁっ! 私は右腕をっ庇い……
何とか上体を……くぅっ! 起こし……ええっ!?
ああっ! 何てこと!?
「ああっ! クラ……足が……!」
「グウゥッ!」
ああっクラウディーアさんの……足が……!
両足……両膝がっ!
ありえっ……ない方向に……!
折れ曲がっ……っ!!
「グウゥッ!」 ああっ酷い脂汗を……!
「ア、アルシャーネさん! 起きて! 起きてくださいっ!」
アルシャーネさんが起きてくれれば!
治せる! そうすれば逃げられる!
コックリの元に戻れる!
なのに……!
アルシャーネさんは目を覚まさない!
グチャグチャに濡れて床に横たわって……!
何で!?
「クオオ……アルシャーネ……様……」
クラウ……懸命に這って……!
ドロドロで……! びしょ濡れになって……!
それでもアルシャーネさんの元に……その時……!
ブリュッ! ブリュリュリュリュ……ボタタンッ!
ブリュッ! ブリュリュリュリュ……ドチャドチャンッ!
うあぁっ……!
闇で……何かが……落ち……
周りを見ると……ああ……
「ああ……何て……」
蔦にはウツボカズラのような毒々しい袋がついているけれど……
それが破けて……
下に……ああ……き、気色わ……ウネウネ……
うぅっ、ウネウネ……
あれは……白い……白い……
白い……イモ虫……?
五十センチくらいの……ウジ虫……たくさん……
キイヤアアアア……
ああっ! 突然グールが……! 闇から走って来て……!
ああっ……ウジ虫を踏んでブチュッて……!
滑って……転んで……ああ……!
ウネウネッ!!
キイイイイイッッ!?
うああっウジ虫が……一斉に……!
グールの体に……喰いついて……! うわぁっ!
グジュグジュッ!
グジュグジュッ!
ああ……体液……吸われ……うわぁっ!
ただでさえガリガリのグールが……!
ああっもう骨と皮だけに……うあぁっ!
と! ウジ虫が……!
ああっ! こっちに……!
ウネウネと……こっちに……!
「くっ! ぬあぁっ!」
私は歯をギリギリ……くおおっ!
立てっ……! 私の体……! ぬああっ!
立てっ! 立てっ!!
私しか……私しかいない!
と左側から……!
ブリュッ! ブリュリュリュリュ……ボタタンッ!
「くああ……他にもっ!?」
「クオォッ……」 隊長は這いつくばりながら立ち上がろうと! 「負ける……ものかっ!」
フラフラなのに……隊長が……
これは兵の長の……
聖地モン・サン・ミシェリアを護る兵長の……!
意地……!
ならば……私だって……!
私だって……!
神殿騎士の……っ!!
世界に七名しかいない神殿騎士の……!!
世界に! 一人しかいないコックリのっ……!
「パートナー……! 私……がっ!」
私っ……がっ……パートナー!!
神殿騎士のっ!!
コックリのっ!!
「ぬあああっ!!」
ブルブル震えながら! 何とか……!
四股を踏むように立ち上がって……!
「私が……守るっ!」
二人と……ウジの間に立ちっ!
ぬああっ!
左手に巻き付けていたムチで!
「来っるなっ!」 ムチを振るっ!
バチンッ! 破裂音っ!
ああっ薄い皮が! はじけてっ!
ブリュブリュッ!
肉がっ……溶けたような肉がっ! うぷっ! 臭い!
「ぬぁっ! ぬあっ! あっ! あっ!」
バチンッ! バチンッ! バチンッ! バチンッ!
近づかせないっ!
近づかせるものかっ!
「クラウッ! アルシャーネッ! 起こして!」
「し、承知っ!」 クラウディーアさんはアルシャーネさんをゆする!「アルシャーネ様!」
「アルシャーネさん!」
「御免! アルシャーネ様!」
バシッ! バシッ! 頬を平手打ち!
でも……!
起きない! 起きない!!
「何故だ!? アルシャーネ様!?」
「頭のケガは!?」
「治っています!」 再びバシッ! 「アルシャーネ様!」
私はムチを振りながら!
あることに気づいた!
「アルシャーネさんは! グールの上に!」
「ええ! それがクッションに!」
「違うっ!」
「えっ!?」
「グールは毒の牙や爪が!」 そうっクッションになったけれど血を! つまり! 「どちらかで傷を!」
「ああっ! 麻痺!? いや昏睡毒!?」
そうっ! それしかない!
私はムチを振る!
「クオォッ! 毒消しの聖魔法を!」 隊長は意識を集中して! 「クソッ! 出ない!」
「頑張っ! クラウッ!」
「霊力……! 僅かでいい! 僅かでいいんだ!」
「ぬあぁっ! 来るな!」 バチンッ! バチンッ!
「クオォッ! 頼む!」
クラウディーアさんは左手を!
握り締める!
と……!
キチキチキチ……!
うあぁっ……お、悪寒が……!
赤黒い闇の先に……!
黒光る……長い体……!
ああっ!
キチキチキチ……!
ああ……っ! ママ、マズ……イ……
闇の先に……列なす……目……
キチキチキチ……!
ああ……闇の中に光って……列なって……
きき、気持ち悪い!
触角を動かし……ここ、こっちに……
ああっ! 光る目がウジ虫を捉え……
バクッ……グチャグチャッ……
グチュグチュッ……ジュルジュル……
ああ……闇の中で……
ああ……不快な……
咀嚼……
「クオォッ! 頼む! 霊力よ!」 クラウディーアさんが! 絞り出すように! 「クオオォッ!」
しっ静かに……!
と! 左手が……!
光った……!
「ヨオシッ! 聖魔法! 毒消し!」
弱いけれども! 黄金色の光!
アルシャーネさんに吸い込まれて!
「ぅ……ぅぅ……ん」
ああっ! アルシャーネさんが!
薄く目をっ! 開いてっ!
覚醒した!
「ア、アルシャーネ様!」
「はっ! クラウ! ここは!?」
「アルシャーネさん! 彼女を治して!」
「シ、システィッ! ああっ!」
キチキチキチ……!
うああっ! 背……ゾワゾワ……
背……ゾゾ、ゾワゾワ……
悪寒が……
列なす目が……
こ、こっちを……!
ニヤァァッと……
ああ……ゾワゾワ……背筋……ゾゾ、ゾワゾワ……
ど、どうすれば……!
どうすれば……!!




