原爆ドーム行、発車します。
広電で親しまれる、広島市の路面電車。
私は原爆ドーム行の電車に乗った。
原爆ドームとは、なんと恐ろしい響きだろう。
電車の表示板には、無機質な黒い文字がある。
原爆ドーム行
アナウンスが告げた。
原爆ドーム行の電車が発車します。
扉が閉まります。ご注意ください。
耳に残る、原爆ドームという言葉。
その文字を見るたびに、言葉を聞くたびにぞっとする。
私はあの光景を想像してしまう。
資料館でみた、あの恐ろしい光景を。
ピカッと空が明るくなり、街は灰塵と化した。
あの日、広島県の産業奨励館は原爆ドームに姿を変えた。
停留所を経るごとに、アナウンスは告げる。
原爆ドーム行の電車が発車します。
扉が閉まります。ご注意ください。
頼む。
もうやめてくれ。
原爆ドームという言葉。
心が痛い。痛い痛い痛い痛い。
忘れてはならないあの日。
原爆投下という事実。
原爆ドームという存在。
でも、日常でそれを目にする苦痛に
私は耐えることができない。
戦争の残す爪痕。原爆ドームという言葉はなまなましい。