プロローグ
そんなバカなことは、昔あったような気がする。
あのときは、
「魂を取るの?」
と、ぼくは聞いてみた。
すると女性は言った。
「取らないよ。あなたの魂は」
すごく。
すごく美しい女性だった。
水色のショートカットに、綺麗な肌色。
まったりした、瞳の大きな茶色の瞳。
まるで画面の中に出てくる綺麗な悪魔のような、そんな感じの女性だった。
「じゃあ何でそこにいるですか?」
そうぼくが聞くと、彼女はこう言った。
「呪いを、かけるのよ」
「呪い?」
「そう、呪い」
そう答えて、彼女は女性とは思いたくない、恐ろしい、ちょっと裏のあるのよな笑みを浮かべて、うなずいた。
「私の呪いを、あなたにかけるの。あなたが絶対、私との関係を切ることが出来ないように」
そして彼女の綺麗な、赤色の口が開いた。
まったりした瞳のまま、その手の平を、ぼくの胸に当てた。
「大丈夫よ。怖くないから」
と、彼女が言った、でも僕の中ではすごく怖かった。
胸元に、何かが透き通るような感じがした、
「ヒっ」
と、思わず声が漏れた。
すると彼女はぼくの胸に手を当てたまま、にやけた顔で少し微笑する。笑った時の目つきが怖く、ぼくは背筋が凍った。
「かけるわね?」
と、彼女が言うと、体中から生気が抜けていくようだ。
これはやばい
呪いが。
《呪術》がぼくに、かけられる。
そのあとすべてが、やっと終わった。
彼女はぼくの胸から手を放し、やはり微笑し、恐ろしい顔で僕のぼくを見ている。
「はい、終わったわよ。これで君は私との関係は切れない。どこにいても、死んだとしても、ずっと私は君から離れないからね。理解してね。」
彼女にそう言われて、僕は言った。
「理解なんて、出来るわけないよ」
「うふ。でももう遅いわよ、呪いかけちゃったし。だから私はあなたと一緒。私と一心同体。私の主人、将来は結婚ね、アキラ」
なんてことを言われて。
それに僕はまだ6歳だし、
「ぼくまだ6歳・・・・」
「あなたにはもう選択肢はないの」
「でも」
「もうっうるさいわね、素直に理解しなさいよ。それで《呪術》が完了するから。まさか・・・私のこと、嫌いなの?」
彼女はそう言うと、不安そうな顔になる。悲しげで目をそらし、またこちらを見つめてくる。
それで僕は、
「嫌いじゃないよ」
ぼくは、そう言ってしまった。
彼女の姿をあんまり見たくなかった。
いつも威張っていて、怖くて、恐ろしい彼女の、そんな姿を見たくなかった。
だからぼくは、言う。
「・・・好き、だよ」
「愛してる?」
ぼくはだまってうなずく
「じゃあ言って」
ぼくはだまって彼女の顔を見た。
「言いなさいよ、アキラ」
それに僕は彼女の瞳をずっと覗き込んで、
ぼくはうなずいて
「ぼくも・・・・ぼくもチカのこと、愛してる、結婚して」
ぼくは、言った。
名前を、言った。
そのとき。
それまでの普通の日常が一変した。
地球と、そしてぼくの体が、あらゆるとこが変化した。
かかってしまった。
《呪術》に。
かかってしまった。
呪いに。
そしてまたチカが美しい顔に戻る。
綺麗な赤い口が開き、少し、綺麗な笑顔に戻る。
その笑顔が、ぼくは好きだ。
その笑ったときの、彼女の姿が好きだ。
だからぼくはいつも彼女の機嫌をとる。
彼女の顔を見て、笑う。
そしてもう一回、
「愛してる、チカ」
それを、ぼくは言いたかった。
ぼくの日常が、始まった