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不都合

作者: 頭山怛朗
掲載日:2014/09/26

「やっと見つけたわ」あの日の朝、ぼくがK珈琲店L店の喫煙席でモーニングを食べていると、見知らに女がいきなり前の席に座り言った。「私、妊娠したの。責任取って貰うわよ! 」

「ちょっと待ってくれよ! 」ぼくは言った。「人違いだよ。ぼくは君を知らない。だから、君のお腹の子がぼくの子供だなんてあり得ない」

「何を言うの? 」と、女。「あんなに愛し合ったのに! 」ぼくは笑ってしまった。見たことないけれど陳腐な韓流ドラマのセリフだ。

「兎に角、君は人違いをしている」と、ぼく。

 女はいきなり立ち上がり言った。「この人でなし! きっと後悔させてやる」

女はあたりを見回し、(当然の事だけれどあたりの全員、皆、ぼく達を見ていた。)「何よ、見世物じゃないわよ」と言うと女は喫茶店みせを出て行った。

その間、ほんの数十秒、精々一分だろう。ぼくは思った。“頭さえおかしくなかったらいい女だ”

皆、ぼくを見ていた。ぼくはいたたまれなくなって喫茶店みせを出ることにした。で、ふと気づいた。ぼくは三本煙草を吸ったはずだけれど、灰皿には吸い殻が二本しかなかった……。

でも、たいした問題ではないと思った。

数日後の夕方、ぼくはテレビニュースを見ていて心臓が止まる程、驚いた。あの女が“殺された”のだ。女の名前は“熊田沙織”。ぼくは初めてあの女の名前を知った。それも“まる焦げ”と言うか“灰”の状態で発見された。でも、“灰”の状態で見つかったのにどうして「個人」が特定されたのだろう? そんな状態では歯形でもDNAも特定できないはずだ。では免許証とか個人を特定できる物があったのか? でも、それでは人体を“灰”になるまで燃やし尽くしたわけが分からない。そこまで燃やし尽くすには相当の知識が必要だ。殺人者はドジを踏んだのか? そんなドジ、誰だ?

次の夕方、ぼくの職場のL消防署に二人の刑事が現れて言った。「お話をお聞きしたい」

両親は一人っ子のぼくに相当の資産を残して死んだ。はっきり言って、働かなくても一生食べていける額だった。でも、ギャンブルにつぎ込んだら無くなってしまう事ぐらい分かっている。自分で事業を起こす度胸もないし、才能もない。と、言って一生テレビを見て過ごすわけにもいかない。それで趣味で働くことにした。嫌なことがあったらすぐに辞める心算だったが、意外と仕事が面白く消防士になってもう五年が経過していた。


「一週間程前、喫茶店で被害者ともめたそうですね? 」もう定年近い老刑事が言った。

「えぇ、でもぼくはあの女性を知らない」と、ぼく。「あの女、誰かとぼくを人違いしていた! そうだ死んだ親父が何時か、ひどく酔った時に『お前にはそれほど歳が違わない“畑違いの叔父”いる』と言っていた! 」

「一昨日の夜、十時頃、何処におられましたか? 」老刑事はぼくの言ったことを無視した。

「アパートいました」

「それを証明してくれる人は? 」

「独り暮らしですから、誰も」

「何か変わったことは無かったですか? 例えば人が争う声がしたとか? 」

「別に!? 」

 数日後、ぼくは殺人容疑で逮捕された。ぼくには不都合が事ばかりだった。①“灰”(人体は燃焼促進剤によって完全に灰になっていたが燃え残り(?)にあの女“熊田沙織”の免許証の一部があった。②“灰”の近くに煙草の吸殻と、ぼくが取調室に残した吸い殻のDNAが完全に一致した。③ぼくがアパートに一人でいたと証言した時間帯、つまり殺人があった時間帯に隣の夫婦が派手な喧嘩をした。アパートの皆が喧嘩を知っているのに、隣室のぼくが知らないのは“不在証明”と看做された。『ヘッドホーンでジャズを聴いていたから聞こえなかった』と言ったが後の祭りだった。④殺人があった時間帯、僕に似た人間が現場付近で目撃されていた。⑤ぼくには仕事柄、人体を“灰”になるまで燃えつくす知識がある。⑤ぼくが言った叔父は存在したが一応のアリバイがあった。少なくともぼくのアリバイよりはマシなアリバイがあったし、その叔父には人体を“灰”になるまで燃えつくす知識があるとは思えない、と警察は判断した。無罪を主張したが裁判員はぼくを有罪にした。

自分で言うのも“なに”だけれど、ぼくは美男子で刑務所仲間にいいようにされ、結果、ぼくは自殺した。

ぼくが自殺して数日後のK珈琲店L店。「うまくいったな! 」と男が言い、「そうね、上手くいったわ!」とあの女が言った。

「見たことも無い甥の財産は全ておれの物になった」ぼくに何処か似た、ぼくが知らない叔父が言った。


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