覇王~魁羅の暴動~
そんな明るい雰囲気の中、妙な気配をリシェアオーガと、騎士達は悟った。彼等が厳しい目を辺りに向けた途端、大勢の男達が躍り出た。
短剣や長剣を手に、集まった者達に襲い掛かる暴漢達は、異国の服装を身に纏っている。旅の舞踊家達の服装…素肌に飾りのついた短いベスト、膨らんだズボンが足首で止まっている物…色は様々であったが、体格はかなり良い男達であった。
咄嗟に騎士達は、観客と一般民、神官等、武装していない者を集め、逃がす手筈を取っていた。リシェアオーガは、竪琴をアルフィートに預け、ルシナリスと共に剣を抜き、暴漢達を制する為に、前に出る。
サニフラールは王らしく、騎士達に指示を出した。
人々がその場から去っている中、騎士達と共に応戦しているリシェアオーガは、ある事に気が付く。相手の目が虚ろで、まるで操られているようだったのだ。
「なるべく、傷付けるな!奴等は、操られている。」
これに気が付いた直後に、大声で叫び、剣を柄に戻す。そのまま剣を振り回し、相手を何人か気絶させ、その内の一人を詳しく見据えた。
以前、自分が使っていた術と、全く同じの物…。
術者がいると判断したリシェアオーガは、それを探る為、眼の前の男に同調する。
見えたのは、森の奥にいる、舞姫風の衣装を身に付けた少女。これらの事を、自分の近くにいたルシナリスに告げ、その少女に狙いを定める。
「ルシナリス様、ここは任せました。私は、術者を何とかします。」
「判りました。決して、無理はしないで下さいね。」
ルシナリスの言葉に頷き、リシェアオーガは、その者の所へ飛んだ。
「うふふふっ♪やってる。やってる♪これで、あの方のご褒美が、もらえる♪」
リシェアオーガの見つけた通り、嬉しそうに鼻歌交じりで、佇む少女が森の中にいた。濃い茶色の巻き毛の、可愛らしい舞姫の服装の少女は、祭りの混乱に喜んでいる。
「やけに楽しそうだな。」
「もちろん、これでルシフは終わり♪
後は、あの方の出番を待つばかり…って、誰!!」
声がした方へ、少女が振り向くと、先程まで向こうにいた吟遊詩人が、真後ろに立っていた。驚愕の表情を浮かべる少女に、リシェアオーガは近付く。
「なんで…ここにいるのよ…。」
「知れた事、この手の術は、駆けられた相手に関わる思念を辿れは、簡単に居場所が判る。そこへ飛べさえすれば、一瞬で来れる。
…ルシフを狙った事を、後悔するが良い。」
目を細めて、少女を見据えるリシェアオーガに、彼女は恐れ、逃げ出そうとするが、既に遅く、彼に捕えられていた。細い少女の腕を掴み、自分に引き寄せるリシェアオーガを、少女は健気にも睨んだ。
そのままの状態が、暫く続くが、少女の顔が豹変する。
「なんで…なんで、効かないのよ!!」
悲しみと困惑に顔を歪め、大きな声で叫ぶ少女に、リシェアオーガは、冷たい目を向けたままだった。
「無駄な事よ。我も、その手の術を使える上に、お前より、多くの者達を操った経験もある。………どちらの力が強いか、判るであろう。」
「…あの方と同じ…だなんて…うそ、うそよ。あの方より強い方は、いないわ。」
少女の仕える者を知る為に、リシェアオーガは、彼女の顎を空いている右手で掴み、その目を自分に向けさせる。再び見つめる形となったリシェアオーガは、魅了の視線と魁儸の術を彼女に送った。
その途端、少女の目は虚ろになり、気丈な態度が無くなっていく。とろんとした目を向けた少女に、リシェアオーガは話し掛ける。
「良い子だ。素直に、我の問いに答えよ。そなたの主は、黒き髪の王か?」
「おっしゃる通りです。私の主は、黒き髪の王、破壊神・リシェアオーガ様です。」
少女の言葉に、リシェアオーガは笑った。
それは、優しい微笑では無く、獲物を捕らえた、捕食者の笑みであった。
この冷たい微笑は、既に術中にいる彼女には届かなかったが、リシェアオーガは、久し振りの狂気の笑みに、身を任せていた。
その微笑のまま、少女に命令を下す。
「我が今直ぐ、此処から、そなたの愛しい主の許へ、戻してやろう。そして、その手で、己が主に反逆するが良い。」
甘く、耳元に囁かれた少女は頷き、それを確認したリシェアオーガは、少女を介して、黒き髪の王の居場所を探り当てる。
そして、かの王の許へ、一瞬に少女を送った。