表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
最終章・光の目覚め
88/126

聖地~光の聖地~

 リシェアオーガは、森の中をアルフィートと共に、出口に向かって歩いていた。

途中に張られている、どの属性の結界も、リシェアオーガを阻む事は無い。寧ろ、喜んで通しているようにも見え、アルフィートは不思議に思った。彼の主なら、当然の事なのだが、如何せん、リシェアオーガの姿が、教えられている主の姿と異なる。

しかし、彼の本能は、リシェアオーガ──アルフィートにはオルガと名乗っている──を主として認めている。

元々、細かい事を気にしない性質のアルフィートは、兎に角、リシェアオーガの後を付いて行く事に決めていた。


あと少しで、森の出口という場所で、リシェアオーガ達は、優しい香りに包まれた。ほんのり甘い、花の香りに誘われ、それのする方に足を進めた。

進むに連れ、木々が少なくなり、彼等は開けた所に出る。

そこは一面の花園…沢山の白い花びらに囲まれた、黄色い花芯を持つ小さな花が、辺り一面…しかも広範囲に広がっていた。(もたら)された香りは、この花から出ており、風が優しくその花々を揺らし、森へと芳香を運んでいる。

「…ルシム・ファリアル…。」

リシェアオーガから発せられた言葉に、アルフィートも驚いた。

ルシム・ファリアル─神の華─と呼ばれるこの花は、滅多な事では生えず、ましてや、群生する普通の土地など、ありはしないのだ。

だが、眼の前には、その群生地が広がっている。という事は…。

「此処は…聖地なのか?」

「そうですよ。此処は、光の聖地です。」

ルシム・ファリアルの中から、人影がゆっくりと、リシェアオーガ達の方に近付いて来る。斜面側の上から、歩み寄ってきた人影は二人。

何れも、男性だった。

片方は、見るからに、神官服と判る装いであった。肩より下の長さで、緩やかな癖毛の銀の髪を後ろで結び、短い前髪から覗く、薄緑の優しい瞳と、ほっそりした顔立ちであった。柔らかな表情を浮かべる顔は、青年と呼ぶに相応しい、年齢に見える。

彼は、真っ白な長衣の上に、白地に七色の色で、組まれてる紐に縁取れた、丈の長い、四角い袖を持つ、上着を身に付け、額に七色の石の付いた、金と銀を組み合わせた飾りを付けている。

上着の裾部分には、銀色の、五角形の盾の形の文様があり、その中心には、神の華と山々の風景、盾の底辺に沿って、囲む8本の抜身の剣─うち4本は他の1本と重なっている─が、それを護るように配置されていた。

鞘の無い剣の色は、それぞれ違っており、2本重なっている物が金と黒、虹色と白黒、別々に配置されているのが紅と青、緑と銀だった。


もう一方は、神官の護衛らしき、剣士だった。赤毛の短い髪は、あらゆる方向に毛先を向け、中にはくるりと、一回転している物もあった。瞳は、釣り目気味で大きく、精悍な光を宿した赤茶で、少年と青年の中間あたりの歳に見える。

彼の服は、同じく白地に短めの上着には、七色の組み紐風な染付が裾に有り、長い袖には折り返しがあり、一緒にいる神官と思しき人物と同じ、盾の文様がある。

細いズボンも白く、薄茶の膝までの折り返し長靴(ちょうか)の中に、裾が入っていた。右の腰には、使い込まれた剣が見える。

リシェアオーガ達に声を掛けたのは、神官の方だった。共にいた剣士は、リシェアオーガ達の姿を見て警戒し、腰にあった剣を抜いた。

「黒い髪の王よ。聖地まで、汚す気か?」

リシェアオーガの闇色に近い、暗緑色の髪を見て、彼はそう叫んだ。

少年らしい、少し低めの声が辺りに響いたが、リシェアオーガは怯まず、暗緑色の冷たい瞳を剣士に向け、

「神々の聖地で、如何なる状況であれ、血を流す事、人を傷つけ、死を齎す事は、最も許されない事。

況してや、その為の抜刀は、罰を以て購う行為では無いのか?」

と、淡々と言い放った。真っ直ぐに向けられた視線に、剣士は、無言になる。

すると、横にいた神官が、彼を諌めた。

此方は優しげな男性らしい声で、澄んだ響きを持っていた。

「エルト、剣を納めなさい。この方は、黒き神の王ではありませんよ。

聖なる精霊…木々の精霊剣士様ですよ。腰にある剣が、その証拠です。」

「ですが、大神官補佐様。

あ奴等の中にも、聖なる精霊の剣を持つ者がいると、聞き及んでいます。」

「オルガ様は、そんな方ではありません。」

彼等の話を聞いたアルフィートが、反論を唱え、リシェアオーガを庇うように、彼等の間に飛び出した。その額には、大きな角が見える。

「…一角獣…。聖獣が傍に?」

「聖獣が仕えているとなると、余計に違いますね。エルト。」

呼びかけられ、剣士・エルトは、手にあった抜身の剣を鞘に納めた。

何事も起らなかった事に、リシェアオーガは安堵し、自らの危険を顧みず、神官を護ろうとした剣士を見る。

まだ、リシェアオーガの事を疑っている様子の、少年の心構えに感心をして、微笑を浮かべた。その微笑に、エルトは驚く。

エルトの驚きに、共に微笑んだ神官は、リシェアオーガに恭しく頭を下げた。

「先程は、私の連れ者が失礼を致しました。

私は、この光の聖地を抱く、ルシフの大神官補佐、ルシフ・ラルファ・ルシアラム・ヴァルトレアと申します。こちらの剣士はエルト、ルシフの騎士です。

リュース様から贈られた、精霊の剣を持つ御方と、そちらの聖獣の化身の御方。宜しければ、御名前を御教え下さいませんか?」

ヴァルトレアに紹介され、エルトはペコと頭を下げた。神官の言葉を受けて、リシェアオーガも名乗った。

「察しの通り、私は木々の精霊です。

名は、オルガ。これに控える聖獣は、アルフィート。」

アルフィートがいる為、本名を名乗る訳にはいかなかったので、偽名を名乗った。ヴァルトレアはおや?と、不思議そうな顔をしたが、それ以上追及をしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ