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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
最終章・光の目覚め
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龍馬~光の精霊騎士~

此処の長が、住まいに入る所を見届けたルシナリスは、リシェアオーガに向かい、優しい微笑みを掛ける。

「御久し振りです、リシェアオーガ様。」

掛けられた言葉に、リシェアオーガは困惑し、誤魔化そうとする。

「…誰の事を、おしゃっているのですか?」

見知らぬ者として言葉を告げるが、彼の事を良く知っているルシナリスに、誤魔化しは利かなかった。

「誤魔化しても、無駄ですよ、リシェア様。

私は、先の大戦の時も、光の屋敷や光の佇まいにいる時も、ジェスク様の傍に居ましたし、貴方が戦の神になられた時にも、その場にいました。

貴方に仕える者を選ぶ時、私もその中にいたのですよ。まあ、私は選ばれず、黄龍が選ばれたのですけど…ね。

確かに黄龍の方が手練れで、相応しいとは思っていましたよ。」

然もリシェアオーガに仕える者として、選ばれなかった彼の態度は、責めるので無く、当然だというものだった。

だが、つい、リシェアオーガの口から出たのは、謝罪の言葉。

「…済まなかった。」

「謝らなくて、良いのですよ。

実際、一介の精霊騎士の私より彼女の方が、あの役目に相応しいのです。只…神龍でなければ…なのですが…。」

神龍…その存在が何であるか、彼等は知っていた。

神龍王と呼ばれる存在の(もと)に、集うべき者達…。

だが、今、彼等はリシェアオーガと言う、戦の神の下に集ってしまった。彼の表情が、自嘲気味(しぎゃくぎみ)に歪み、そうだなと答えていた。

自分の仕出かした事に、悔やんでも悔やみきれない…。

そんな彼の様子を見かねてか、ルシナリスが話を変える。

「リシェア様、先程の噂ですが、如何思われますか?」

「私は、この森から出ていない故に、あれは私では無い。私の名を語る者だ。

…残念ながら、それを証明出来る者はいないが…。」

「いいえ、私は信じますよ。勿論、ジェスク様も…。

私が出向いたのは、それを確かめる事を命じられた為です。」 

ルシナリスの言葉に、リシェアオーガは、考え込む。父であるジェスク神が、彼に命じた事…、父が、自分を信じている事は判っている。

とすれば、取るべき行動は一つ、自分自身の為であり、戦の神としての使命でもある。

「ルシナリス、頼みたい事がある。

父・ジェスク神いや、七神へ、この件を私に任せて欲しいと、伝えてくれ。

黒き髪の王の行いは、私の手で止めたい。」

そう言って、自分の髪の毛を一房、切ろうとすると、ルシナリスに止められた。

「リシェア様、証拠が無くても、大丈夫ですよ。

如何してもとおっしゃるのなら、その長靴(ちょうか)に付いている飾りで、結構です。」

リシェアオーガが履いている、長靴の折り返しの部分には、葡萄の房の飾りがあった。リュース自ら彼にと、与えた物だった。

言われた通り、それをルシナリスに渡し、ついでとばかりに残りも取り去った。

「片方だけ付けていても、可笑しいだろう。後で、何かに作り変えて、身に付けておく。

でないと、母上が悲しむからな。」

リシェアオーガの言葉に、ルシナリスには驚き、喜んだ。

家族を思いやる心を、神々の屋敷の中以外で、初めて彼が見せたのだ。取り去った飾りを、愛おしそうに手の中へ収める姿は、それが偽りで無い事を示している。

母と呼べる人から、初めて貰った大切な物、リシェアオーガの身に付けている物の中には、父であるジェスクや、兄であるカーシェイクから、贈られた物もあった。

今、身に付けているどれもが、リシェアオーガにとって、初めて血族から貰った大切な品物だった。その中に勿論、リルナリーナからもあったが、服の中に隠れており、他の物の様にその姿を晒す事は無い。

如何せん、かなり女性らしく、可愛らしい物だったので、身に付けるのを躊躇した代物でもあった。



「承知しました。ジェスク様とリュース様には、そう、御伝えしておきますね。

おや、御迎えが来られたようですよ。」

そう言って、ルシナリスは、住居が集まっている辺りを振り返った。そこには、淡い紫の髪を揺らしながら、駆けてくる者がいた。

金色の瞳は焦りを(たた)え、真っ直ぐにリシェアオーガ目指し、走り寄って来る。

「オルガ殿…ここにいたのですか?姿が見えないので、捜しましたよ。」

息を切らせながら、告げるアルフィートにリシェアオーガは、済まないと一言詫びた。彼の姿を見て、安堵したらしく、アルフィートはその場にへ(へた)れ込む。

その様子に、ルシナリスは微笑み、

「おやおや、随分と慕われていますね。」

と言った。彼の言葉にアルフィートはきょとんとし、リシェアオーガはそうか?と答えている。ルシナリスに気付いたアルフィートは、彼の方を向いた。

「ルシナリス様…?えっ?オルガ殿と、如何して一緒に??

っていうか、何時来られたんですか?」

アルフィートとルシナリスは、古くからの顔見知りだったようで、一度に沢山の質問を浴びせかけている。

「夕刻頃に、此方に赴きました。

先程、アルディオス殿と一緒にいた所を、この方と御会いしたのです。

属性は違いますが、同じ精霊同士で話がしたかったので、アルディオス殿に頼んで、二人だけにさせて頂いたのですよ。」

「眠れなかったので、散歩していた処、ルシナリス様に御会いした。

後は、この御方の言う通りだ。」


二人の言葉にアルフィートは納得し、座り込んだままで、リシェアオーガに向き直る。

「もう、出て行ってしっまたのかと、思いましたよ。」

アルフィートの目が、潤んでいるのに気が付いたリシェアオーガは、不意に目の前にある、アルフィートの頭を撫で始めた。驚いたアルフィートだったが、その心地よさに、何時しか身を委ねていた。

優しく撫でられ、嬉しそうに目を細めるアルフィートに、リシェアオーガは、リューレライの森の動物達を思い出す。

フォンアと共に、薬草を採っていた時に会った、森の動物達…周りを囲まれ、構うようせがまれた彼等を、同じように撫でていた。

彼等の表情と、今のアルフィートのそれが、重なって見える。

そう言えば、精霊同士と、長がリシェアオーガとルシナリスの事を言っていた…そういう事は、長達ここにいる者は、精霊では無い。

アルフィートの様子から見て、動物の化身の様に思えた。

「心配を掛けて、済まない、アルフィート。」

そう言って、撫でる手を止めたリシェアオーガを、残念そうな顔で、アルフィートは見上げた。もう少し、撫でて欲しいと思いながらも、謝罪の言葉に首を振った。

「まだ、いてくれましたので、いいです。

…後で、もう少し…撫でてくれませんか?」

期待に満ちた、小動物の様な瞳を向けられ、リシェアオーガは微笑む。

初めて見た優しい微笑に、アルフィートも、ルシナリスも、驚き、魅せられていた。美しいと想うと同時に、この微笑を向けられたいと言う欲求が、二人の心に芽生える。

向けられているアルフィートは、もっと見たいと欲し、ルシナリスは、その微笑を向けられたいと欲する。

アルフィートは、何故そう感じるか判らなかったが、ルシナリスは、リシェアオーガが敬愛する神の子だという、理由に気付いていた。

属性を持つ精霊は、自らの属性…つまり、それを司っている神の心からの微笑には弱い。それが見たが故に、彼等に仕えているとも言えよう。そして、その神が子を持っていると、その子の微笑にも、魅せられる事もしばしばである。

光の精霊であるルシナリスの、今の状態は、それと言えた。然も、初めて見る本当の笑顔故に、余計だった。



 リシェアオーガの微笑を堪能(?)したルシナリスは、長の処に帰ると言い残し、二人の下から去って行った。

残されたリシェアオーガとアルフィートは、再び彼の住居に戻った。

リシェアオーガの傍らに寝ころんだアルフィートは、約束通りリシェアオーガに頭を撫でられている。

先程の様に撫でられ、ゆっくりと眠りに落ちて行くアルフィートを眺め、リシェアオーガは静かに微笑んだ。自分より背の高く、年上に見えるアルフィートが、幼子の様に、リシェアオーガへ寄り添って眠っている。

安心して、信頼し切った寝顔に、優しい眼差しを掛けていた。

「…かあさま…なぜ…僕…みんなと…違う…の…」

寝言を言っているらしい、アルフィートの目に、薄らと涙が光った。

撫でる手を止め、その涙を優しく拭ってやる。気にしていない様に振る舞っているが、やはり心の奥では、気にしていたのだと、リシェアオーガは悟った。

自分は役目の為に、この姿に生まれたと知り、違う姿でも懸命に生きている。役目の担う人物を捜すという事は、自分が一人で無くなる事。

そう、アルフィートは、思っているのだろう。

「やはり、私とは、違うのだな。」

彼と同じに、家族と異なる姿で生まれた。

しかし、リシェアオーガの方は、家族とは別の者の手で育ち、定められた役目も無く、この身を邪な想いに任せ、破壊の限りを尽くした。

それも本当の父に阻まれ、そうと知らずに剣を交え、敗北し、父の手で一生を終える覚悟を決めた。その時、半身に護られ、自らの内の邪悪な闇に逆らい、自ら死を選んだ筈だったが……何故か、生き延びた。

それ故、自ら犯した罪を死を持って(つぐな)えず、代わりに役目を抱く事となった。望んだ物では無かったが、償えるのならと納得した。

何もかも、目の前のアルフィートとは違う。

仲間の中でも異端として、同じように生まれたが、育ち方に違い過ぎたのだ。

生まれた環境、遭遇、そして、役目が違うから当たり前だと、リシェアオーガは思ったと同時に、彼の捜している相手が、早く見つかるようにと願った。

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