儀式~集められた者達~
数日後、神の役目を正式に抱く日が、やって来た
そこには、多くの精霊、神々が集まっていて、進行役である七神の一人、光の神が壇上に立っている。
纏うのは、騎士服で無く真っ白な長衣で、装飾は光の神を表す物だった。
彼の後ろには他の七神が控え、新しい神を迎えようとしている。集まっている精霊達も、新しい神々に興味津々で、中には己の主を見出そうとしている者もいた。
その雑踏の内に、神龍と呼ばれる存在も集まっていた。
彼等は仕える神々の供として、そこに集っている。
奇しくも、この日はあの龍玉が、この世に流れ着いた日。
もしかしたら、この中に自分達が望んだ、神龍王がいるのではないかと、彼等は期待をしていた。
集まった多くの精霊と神々の姿で、オーガは、今まで以上に緊張をしている。それは、周りにいる新しい神々も、同じであった。
彼等は、自分達の傍にいる知り合いに声を掛け、その緊張を解そうと努力をしていた。
「ねぇ、オーガ、凄い人数ね。
これだけの人が、私達のお披露目を、楽しみにしているのかしら?」
緊張のきの字も見えない、双子の兄弟の声に、オーガは唖然とした。他の神々も同じであったが、一人だけ黒髪の少女が噴出す。
「リーナらしいわね。確かリーナの役目って、美と愛の神だったかしら?
あっと…初めましてと、お帰りなさい、リシェ。私は貴女達の従兄弟に当る、アリエアレフォー、アリエよ。今度、夢の神の役目を賜るの。
でも、良かった~。リーナとリシェと一緒に、役目を貰えるなんて。私一人だったら、心細くて…エア兄様に付いて、貰ってたわ。」
可愛らしい声で話し掛けられたオーガは、驚きながら、挨拶を返す。
「あ…初めましてと、ただいま…なのかな?
リシェアオーガと言います。アリエだったけ?エアの兄弟なの?」
「そうよ。リシェ。……リシェって、ジェス叔父様に似てるのね。
色合いからして、カーシェ兄様、そっくりだけど、驚いた所とか、叔父様そっくりね。」
「アリエもそう思う?
オーガってね、剣の腕もお父様そっくりで、強くて、舞うように綺麗なのよ。」
リルナリーナの声に、薄い水色の髪の少年が反応する。
「へぇ~、そうなんだ。ジェスク様と同じで、剣の腕前が凄いんだ…。
あっと、初めまして、僕はヴェルナ、ヴェルで良いよ。今度、氷の役目を賜るんだ。」
「初めまして、4人共。私は、クェーフレナ。湖を司るの。
ヴェルとは兄弟で、ヴェルの方が、お兄さんなの。」
「お帰り、リシェ。俺は、ルーニァレム。夜空を飾る星々を、司る事になるんだぜ。
一応、アリエの弟なんだけど…姉さん、俺がいるって忘れてる?」
最後のルーニァレムの言葉に、いたの?とアリエアレフォーの返事が返る。ひで~と、呟く弟の様子に、オーガことリシェアオーガは、羨ましそうな顔をした。
銀髪で、青銀の瞳のルーニァレムの姿は、伯父であるクリフラールに似ていて、黒髪で、青銀の瞳のアリエアレフォーの姿は、伯母であるアークリダに似ていた。
他の2人も、ウェーニスの血筋らしい特徴があり、彼等が家族に似ていると判る。
自分と比べ、何かしら両親に似ている彼等を、悲しそうな顔で見つめてしまう。
それに加え、彼等は自分の賜る役目に、何かしら誇りを持っている。だが、リシェアオーガにはそれが無く、只、罪を償う為に賜ったに過ぎない役目。
重い役目だが、自分の罪を思うと、これでも軽い位だと感じる。誇りで無く、義務で請け負った役目故、彼等の様に誇らしく思えない自分に、気付いていた。
そんなリシェアオーガの心を受け取ったリルナリーナは、不意に彼に抱き付いた。彼女の行動の意味を悟ったリシェアオーガは、小さな声で答える。
「リーナ、僕は大丈夫だよ。只、重要な役目だから、少し、不安なだけだよ。」
本当の心を悟られない様に、繋がりを制限した言葉を聞いて、彼女は納得した振りをする。そうする事が、リシェアオーガへの配慮だと気付いていた。
新しく役目を受ける子供達が、そんな他愛の無い会話をしている内に、新しい神々をお披露目する儀式が、始まりを告げる。
それぞれ正式な名を呼ばれ、七神がいる壇上へと上がる。一人、また一人、神々としての名を呼ばれ、祝いの言葉と共に、一番望むものを、就任の祝いの品として与えられる。そして、一番最後の、光の神子達の番となり、その名を呼ばれる。
「エレルニアラムエシル・リュージェ・ルシム・リルナリーナ及び、
ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ、此処へ。」
父親でもある光の神に呼ばれ、二人の神子は壇上へと上がる。双神である筈の、二人の姿は違っていて、七神以外の他の神々の殆どが、その違いに驚いていた。
それは、リシェアオーガに関わった事の無い、精霊達も同じ。
行方不明になっていた神子の姿が、隣にいる神子と違う事に驚き、ざわめく。
覚悟していたとはいえ、感じる同様の気配に、リシェアオーガは内心気落ちしていた。家族と違う姿に、本当に自分が彼等の血筋なのかと、再び思い始めていた。
彼の姿を見て、動揺している精霊達の中に、神龍と呼ばれる存在もあった。彼等は、王の特徴を持つ新しい神々を、見極めようとしていた。
彼等の王は、光の神と同じ特徴を持つ。
だが、それを持つのは、リルナリーナだけだったが、彼女には神龍王の玉の気配が無い。神子の、神の気配しかない彼女では、自分達の王で無い事が、はっきりと判った。
そんな彼等は、もう一人の姿を見る。
双神の筈の神は、その姿が違い過ぎるのと、木々の精霊の気配を感じる為、神龍の王で無い事は明解であり、彼等の落胆は激しかった。
しかし、今回の王は、失われた節が無い。
だとしたら、ここに居る神々では無いのかもしれない、そう、彼等は思った。
彼等が考え込んでいる内に、新しい神を迎える儀式は終盤を迎え、最後に呼ばれた二人へ、就任の祝いを与えようとしていた。
しかし、新しい神々の口から出た望みは、物では無かった。
「私の望みは、この世界が、平和と愛に満たされる事です。」
先に断言したのは、リルナリーナであった。彼女の言葉を受け、リシェアオーガも一応の望みを口にする。
「私の望みは、この世界の全てを、危機から護る事。
私の命を掛けても、この望みは果たしたい。」
こればかりは、神々も頭を悩ませた。
そして、七神が出した結論は、リルナリーナには、その役目の相応しい物を、リシェアオーガには、共に戦う事の出来る者を付ける事となった。
だが、七神の提案に、リシェアオーガは異議を申し立てる。
「戦うのは、私一人で十分です。」
自分の他に、犠牲を払いたくない一心で告げた言葉は、初めの七神の一人、ジェスク神の一言で撤回される。
「世界の危機と戦う際、そなただけでは、手に負えない時が来るかもしれぬ。
その時に備え、共に戦える者を傍に従えるべきだ。
己の力を過信せず、背を預けられる者を、信用に値する者を傍に置け。さすれば、そなたは、より強くなれるであろう。」
父であり、神々の纏め役の一人でもある、ジェスク神に言われて、反論出来無かったリシェアオーガは、渋々ながらも頷く。
それが合図となり、神々は、自分に従っている騎士達を推薦するが、余りの多さにリシェアオーガ自身が、そこから数名を選び出す事となった。
候補者が集まる場所に、降り立ったリシェアオーガは、ゆっくりと辺りを見回し、歩みを進める。一人一人を見渡し、自らの感を頼りにする。
剣士として、役に立つかを重点にしたリシェアオーガは、多くの候補者の中から、6人程、選び出した。選び出された者達は、如何いう偶然か、全て神龍であった。
何も知らないリシェアオーガの選んだ騎士達が、全て神龍と言う事実は、神々は元より、当事者の神龍達も驚いていた。
只一人…選んだ本人だけは、何故驚かれているのか、理解出来ていない。
各々違う髪の色と瞳の色──違う属性であり、剣士としての腕を見極めての、選択だった故に。




