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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
最終章・光の目覚め
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儀式~儀式の用意と心の内~

 カーシェイクの説教が終わり、身体共に疲労困憊(ひろうこんぱい)していたオーガに、リルナリーナとリュース、ファースが何かを持って来た。

白い布の山であるとだけ、認識した彼は、それがどの様な服になるのか、想像出来無かった。半年間の長期に渡る、実兄の辛辣な言葉による説教で疲れ切って、頭が働かない状態では致したか無い。

これからの予定を、彼女達から教えられ、漸くそれ等が、儀式の為の衣装の材料だと判った程であった。

ドレスを用意しようとする彼女等へ、騎士服の方が良いと要望を言う。戦の神となるのなら、ドレス姿より、剣を扱う服の方が相応しいと思ったのだ。

珍しく自分の希望を言うオーガへ、大地の女神は残念そうに告げる。

「やっぱり、ジェスやラールの言った通りになるのね。

戦の神になるって事は、守護神を兼ねる事だから、用意するのはドレスより騎士服が良いって、あの人達も言うんだもの。

…でも、騎士服だけじゃあ物足りないから、上着も着けましょうね。」

妥協案を示す母親に、簡素な物が良いのではと尋ねる。装飾は何時もの神子を示す物だけで、他に身を飾る物を着けない事を教えられた。

神としての装いは、その象徴が決まるまで、身に着ける事が出来無い。それが決まるまで、新米の神々は、神子としての装いのまま過ごす事となる。



 服装が決まり、早々に作り始める母親達と、精霊達を後にしたオーガは、何と無く屋敷内を歩いていた。

行く先も無く只、歩いて行く内に、自分が何処にいるかも、判らなくなっていた。

立ち止まり辺りの気配を探ってみるが、光の精霊と大地の精霊、木々の精霊の気配が多くして、屋敷のどの場所か特定出来無い。

この屋敷には、多くの精霊がいて、彼等が神々の世話をしている。困惑して、行く先を決めかねていると、声が掛った。

「君、迷子なの?リュース叔母様の、精霊だよね。」

聞こえた少年の声に振り向き、その姿を確認する。

強い風の気配を持つ、白い髪と虹色の瞳の少年。知っている精霊騎士と同じ彩と、伯母に似ている為、目の前の少年が誰だか判る。

「エアファン様…ですか?あの…僕…。」

「エア様、ここでしたか?あれ?リシェア様?

……さては、迷子になったのかな?」

聞き覚えのある声が彼等の間に入り、オーガは、その声の主に目を向けた。同じ様に、エアと呼ばれた少年も、件の精霊へ視線を映す。

「へぇ~、この子がリシェアなんだ。この様子だとレアの言う通り、迷子のようだね。

初めまして、従兄弟殿。僕はエアファン、よろしくね。」

再び視線をオーガに戻し、微笑と右手を差し出す少年に、オーガもその手を取り、挨拶を返す。

「初めまして、オーガ…いえ、リシェアオーガと言います。

こちらこそ、宜しく御願いします。」

返された言葉に、エアファンは不機嫌な顔となり、それに気が付いたオーガは、不安な顔になった。

「リシェ、敬語禁止!!従兄弟同士なんだから、普通でいいの。

呼び方も、愛称のエアだけでいいんだよ。判った?」

言われた言葉に、不機嫌な理由を知り、一瞬ぽかんとしたオーガだったが、直後その顔に、微かな笑みが浮かんだ。仮の友人であった、エニアバルグを思い出させる言い草の少年神へ、頷きと共に承諾の言葉を返す。

「判ったよ、エア。で…あの…ここ…何処か判る?」

「判るよ、で、何処へ行きたいの?」

問われて思い付いたのは、父親と兄の事。

心配を掛けているであろう、彼等の部屋へ、行く事を決める。

「父上か、兄上の処へ行きたいんだけど…ここからだと、どっちが近いの?」

「そうだね…カーシェの所が近いね。僕だと、どちらでも直ぐ行けるけど?」

「え?そうなの??」

「そうだよ、僕は風だから、何処へでも一瞬で行けるよ。で、どっちが良い?」

風の性質を教えられ、納得したオーガは、カーシェイクの元を希望した。

兄と慕っていたアンタレスと同じ彩の実兄…違和感を余り感じない相手の傍へ、行きたいと思った。


 従兄弟であり、風の神でもあるエアファンに連れられたオーガは、見知った扉の前へ到着した。罰である説教は終わっているが、何故か緊張してしまい、表情が硬くなる。

その様子に、エアファンが噴出し、代わりに扉を叩いた。

「エアに、リシェアかい?如何したのかな?

遠慮せずに、入っておいで。」

中から聞こえる返事に導かれ、少年達は部屋の中に入って行く。何時も通り、本に埋もれている実兄が、彼等に微笑み掛ける。

「御免、カーシェ。御邪魔だった?

実は、リシェが迷子になってて、連れて来たんだ。」

さらりと、事実を述べるエアファンに、オーガは俯く。

実兄の邪魔をした事に気が付き、居た堪れなくなったのだ。しかし、エアファンの言葉を聞いたカーシェイクは、微笑み、

「別段、邪魔では無いよ。

リシェアが迷子になったと判ったから、迎えに行こうと思っていた所だよ。エアが連れて来てくれたから、手間が省けたと思ってたんだ。

二人とも、そんな所に立っていないで、こっちにおいで。」

と、優しく声を掛ける。お邪魔しま~すの声を掛けたエアファンとその騎士、オーガが部屋に入って来る。彼等の姿を確認した、カーシェイクはオーガに近付く。

「リシェアはまだ、この屋敷に慣れていないから、迷子になり易いんだよ。まあ、父上と母上、私や精霊達がいるから、迷子になっても、迎えに行く事が出来るしね。

早々に役目を抱く羽目になったけど、君達はまだ幼子(おさなご)だから、遠慮せずに誰かを頼って良いんだよ。」

そう言って、オーガを自分の腕の中に収める。

優しい気配に包まれたオーガは、静かに瞳を閉じる。自分を受け入れ、護る様に抱き締める兄へ、体を委ねる。

そして、安心し切ったのか、兄の腕の中で、不覚にも眠ってしまっていた。

「?リシェア?…ああ、眠ってしまったんだね。」

「え?ほんとだ~。色は違うけど、リーナそっくりの寝顔だね。ね、レア。」

「残念ながら、私は、リルナリーナ様の寝顔を、見た事が無いので、同意しかねますが…相変わらず、可愛らしい寝顔ですね。」

風の騎士の言葉に、二人の神は反応し、何時見たのか、問い質していた。

シェンナの森で、アレストとの手合わせの後、眠ってしまったオーガの事を話すと、二人は驚いていた。精霊騎士最強の一人である、闇の騎士と剣を合わせ、彼に勝った幼子に視線が向く。

「リシェったら、そんなに剣が強いんだ…。

まあ、今回与えられた役目を考えると、納得するけど。」

「木々の精霊剣で、父上と打ち合えただけでも凄いのに…アレィを負かすなんて…。我が妹は、剣の道を進むべくして、生まれたみたいだね…。」

カーシェイクの言葉に、エアファンとエアレアはふと、ある事を思い出した。

今までオーガの様に、様々な属性を内に秘めた邪気は、数多く出現している。

その邪気と化した、数多(あまた)のモノ達の殆どが、両親から離され、養父母に育てられた者だったのだ。ついでに言えば、ここに居るオーガと、同じ境遇の者達の中で、彼の様に内なる邪気を消した者はいない。

然も彼の剣の腕は、その中でも一番強いのだ。

もしかして…という想いが、風の者達の心を支配した。双子の一方の姿を思えば、その可能性は無きにしも(あら)ず。

だが、未だに木々の精霊の姿で、その気を纏うオーガに、その確信は無かった。


 優しい気配に包まれ、眠っているオーガは、不意に体が浮いた事に気が付き、目を開けた。寝ぼけ(まなこ)で見えたものは、優しい実兄の微笑。

まだ夢を見ているのかと思っていたが、耳に届いた声で現実だと気が付いた。

「お早う、リシェア。目が覚めたみたいだけど、ゆっくり眠れたのかな?」

優しい実兄の声へ、素直に頷き、再びその腕の中で蹲る。優しい、暖かな気配に安堵し、つい、本音を漏らす。

「兄上…私に戦の神など…務まるのでしょうか…?何の為に剣を握り、何の為に戦うのか、判らない私が戦の神など…滑稽でしかないと思います…。」

「だけど、君は自分の犯した罪を償いたいんだよね。

だったら、君が傷付けた人々を、その剣で護ればいいんだよ。そんなに難しく考えなくても、私の妹の君だから、ちゃんと役目を果たせるよ。」

告げられた言葉の最後の方に、溺愛振りを感じたが、知の神である兄の意見へ、オーガは素直に頷く。未だ、剣の使い道が判らない状態だったが、罪を償う為に、人々を護る事には納得出来た。

只…己が本当に、彼等の家族である事には、納得出来無いでいた……。 

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