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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
悪夢の終焉、目覚めの兆し
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光と大地の館への帰還 前編

 人の世の大戦後、光の神の預かりとなり、その住居へ連れて来られたオーガは、光と大地の神の住まいである、白き屋敷に驚いていた。

輝くような白い建物は、全て光の神の輝石(きせき)であり、その装飾にある蔦の緑と、紫の実の房を模っている物は大地の神の輝石であった。神々の住まう場所故、当然ではあるのだが、これらから受ける神聖さに、彼は目を奪われていたのだ。

「リシェア、如何した?」

後ろから男性の声が掛り、オーガは振り返る。

自分の本当の名を呼ぶ、自分とは姿の違う、光髪と青の瞳の男性へ問う。

「ジェスクさ「父様だ。」…父上、これは全て輝石なのですか?」

「そうよ、オーガ。ここはお父様とお母様の住まい。

だから、殆どが、お父様とお母様の輝石で出来ているの。家具とかもそう。あ…一部、お兄様とお義姉様の物もあるわ。」

彼の質問に父親で無く、傍らにいる双子の兄弟が答える。

双子と言っても、姿の違う相手に躊躇する。彼女の姿は、父親と同じで、オーガとは異なる。双子と言われても疑問視する姿に、未だ戸惑いがある。

しかし、彼女とは繋がっていると感じるし、二人でいると懐かしさすら感じる。

母親と彼女が言うには、母の胎内で一緒だったからだという。実感の湧かない兄弟と父親…母とは、髪の色が似通っているので、左程違和感が無かった。

ふと、彼女の言葉に、引っ掛かる物があった。実兄と義理の姉。その事を彼女に聞く。

「リーナ、さっき、お兄様とお義姉様って言ったけど…お義姉様って、ファース様だよね、お兄様って、カーシェって名だよね?」

リーナと呼ばれた少女が答える前に、屋敷の方向から声が聞こえた。


「君が、リシェアかい?随分と姿が違うのだね。…擬態しているのかな?」

父親に似た、やや若い声が聞こえ、屋敷へ視線を戻すオーガは、声の主の姿をその目で捉える。

肩より短い緑の髪と、紫の瞳…母であるリュース神と同じ彩で、父である光の神と同じ顔。彼が話で良く聞く、カーシェという名の実兄である事は判ったが、それよりもオーガは、その(いろどり)に驚く。

(かつ)て、本当の兄の様に慕っていた、アンタレスと同じ彩。

騎士服で無く、緑色の長衣を着ていた男性を、只、只、見つめるしか出来無かった。彼の様子に、その男性はおや?とした顔をして、彼に近付いた。

そして、目線を合わす様に膝を折り、微笑み掛ける。

「初めましてだね。私はカーシェイク、君達の兄だよ。

……ああ、確かに君は、私の妹だね。君に流れる血は、私達と同じだ。」

初見の挨拶をされ、優しく頭を撫でられたオーガは、彼の言動で再び驚き、頭に浮かんだ疑問を口にする。

「初めまして、カーシェイク様。あの…何故、兄弟だと、断定出来るのですか?」

「リシェアは私を、兄と呼んでくれないのかな?

私が知の神だという事は、知っているね。」

カーシェイクという名は、知の神の名だという事をオーガは知っていた為、彼の言葉に頷きながら、返事をし、質問を返す。

「あ…はい、兄上。…という事は、触れるだけで、それが判るのですか?」

「そうだよ、妻のファー…君にとっては義理の姉だけど、彼女も判るよ。

治癒の神だからね。後、ナサも命の神だから、判るよ。」

そう言って彼は、そっと、帰って来た妹を抱き締めた。

優しい気配に瞳を閉じ、それに包まれる。アンタレスとは違う気配だが、確かに兄と感じられるそれに、安心して委ねる。

「お帰り、リシェア。今日からは、此処が君の家なんだよ。そして…」

「私達が、今の貴女の家族。気兼ね無しに、甘えて良いのよ。

貴女はまだ、幼子(おさなご)なのだから…ね。」

抱き締めている兄の声と共に、優しい母の声も聞こえる。大地の女神の声…木々の精霊と思っていた彼にとって、敬う存在からの声に、複雑な気持ちになる。

初めて会った時も、(ろく)に挨拶も交わせず仕舞いで、思いっきり抱き締められた。だが、不快では無く、居心地良さに彼女の腕の中で、不覚にも眠ってしまっていた。

起きた時には母と父、兄弟と共に眠っていた事を自覚させられた。然も、彼等は精霊と同じく、オーガ達を幼子として扱い、何かと構ってくる。

今もそう、その構い手が増えただけとオーガは認識し、大人しく離される時を待っていたが、不意にその体が浮き、抱き上げられた事に気付く。

目の前には、優しく微笑む実兄の顔があり、子供を抱えるように片手で、抱き上げられていると判る。

アンタレスより、幾分か高い背丈で、変らない体格。

文官の様な衣装であったが、彼を片手で抱え上げられる力を持つという事は…彼も何かしら、鍛えられていると推測出来た。

「リーナよりは、少し重いかな?まあ、剣を扱う者としては、当たり前だね。

無駄な筋肉が付いていない、立派な剣士の体だね。」

義兄の、ハルトべリルを思い出させるような言葉を言われ、再び驚くオーガに、目下の実兄は楽しそうに微笑む。

「どうせ、ちゃんとした筋肉は、付いていないですよ~だ。」

「リーナは剣を扱わなくて、良いんだよ。私の大切な妹だからね。」

「そうだよ、リーナは剣を扱わなくて良い。僕が護るから。」

リーナこと、リルナリーナの愚痴に対して、カーシェイクが擁護をするが、オーガが思わず口にしたそれに、実兄も両親も、言われた本人でさえ、驚いていた。

「ほんと?ねェ、オーガ、本当に護ってくれるの?」

兄に抱えられた彼に近付き、喜びに満ちた目を向けながら尋ねる双子の兄弟へ、頷きながら答える。

「本当だよ。リーナは僕の大切な兄弟だから、絶対に護る。

……あの時も、リーナを護った筈だったんだけど……。」

リルナリーナと、初めて会った時の事を告げると、そうねと嬉しそうに微笑まれた。

「そうね、あの時、オーガは私を護る為に、自らの力を己に向けたのよね。

自分ごと邪気を消そうとして、結果、邪気だけを消しちゃったのよね。」

「リーナ、それは本当かい?

という事は…リシェアは、浄化の力を持っている事になるね。」

浄化の力と聞いて、不思議そうな顔になるオーガは、素直に答える。

「私の持っている力は…破壊の力だと思います。全てを無に帰す力…

……あの邪悪と同じ…物です。」

「邪悪が無い今も、使えるのかい?」

「あ、はい、兄上。邪気は私の物だと、自由に使える物だと言っていました。

…ですが、私は…使いたくない!」

力の拒絶を言う、愛おしい妹の存在に、兄は真剣な顔で伝える。

「確かに破壊の力だけど、それは使い様じゃあないのかな?己の思うが儘にする為に使うなら、破壊のそれ、大切な者を護る為なら、護りのそれじゃあないかな?

現に君は、リーナを護る為にその力を使い、邪気を無に帰した。

違うかな?」

言われた事に納得して、そうですねと告げ、兄に身を任した。


 兄に抱かれ、家族と共に入った屋敷では、多くの精霊達が彼等を待ち受けていた。

光と大地、木々の精霊は元より、ここに居る二人の神仕える他の精霊達も、彼等を迎え、やっと帰って来た神子(みこ)を、嬉しそうに見つめている。

彼等に蔑みの視線は無く、漸く帰って来た神子を労うかの様に、あれやこれやと、世話を焼きたいという気持ちだけが、オーガに伝わる。

それをヒシヒシと感じながら彼は、ふと、ある精霊騎士達を思い出す。

同じ様に、彼を構い倒し、あれやこれやと教えてくれた彼等。

もう、会わないと思っていたが、あの王宮最後の日に、彼等の内の二人と再会し、敵として戦った。彼等も、ここに居る精霊達と同じ様に、対応してくれるのだろうか?

この不安な気持ちが、顔に出ていたのであろう、未だオーガを抱えたまま離さない兄が、訊ねて来た。

「如何したのかな?我が妹君。

そんな悲しそうな顔をしていると、精霊達も心配するよ。」

優しく問われ、戸惑いながら、彼等を見る。精霊騎士も数人おり、遠くからオーガを見ているが、警戒では無く、保護する者として捉えていると判る。

少し考えて、兄と双子の兄弟、両親とを見て、答える。

「兄上…あの、父上と母上にも、御願いがあります。」

意を決して、オーガから告げられる言葉に、両親は微笑を、兄はおや?っとして顔をして、続きを促す。

「我が妹は、何をおねだりしたいのかな?」

嬉しそうに尋ねるカーシェイクに、言い難そうに答える。

「…実は…会いたい精霊騎士がいるのですが…その…彼等が忙しく無くて、会っても構わないというのなら、会いたいのです。

勿論、彼等が会いたくないのなら、それで良いのですが…。」

「あら?会いたいというのなら、会わせてあげるわ。ね、ジェス。

私達の子の、初めてのお願いですもの。」

母の言葉に頷く父と、遠慮しないでと告げる双子の兄弟。

だが、強制をしたくないオーガは、口を開こうとしたが、その前に母親が話し掛ける。

「そう言えば、私の騎士が、貴女に会いたいと、申し出ていたけど…会う?」

「…母上の騎士ですか?あ…はい、その方が望むなら。」

意外な言葉に驚きながら、誰だろうとオーガは考えた。

可能性があるのは、知っている緑の騎士であるランシェだが、本当に彼が会いたいと思ってくれているのか、疑問に思う。しかし、オーガの言い分を聞いた母・リュースは即座に、周りにいる精霊にその騎士を呼ぶよう、伝える。

「リュアル、あの子を…シェラの緑の騎士を、呼んでちょうだい。

何時もの部屋で、控えていると思うから、お願いするわね。」

オーガが思った通り、緑の騎士だと判ったが、ランシェだとは限らない。ここには緑の騎士が沢山いて、彼等は一身に、オーガへと視線を注いでいる。

蔑みの視線で無く、家族と同じ…構いたくて、仕方無いという物。

木々の精霊達の手で育てられた頃に、向けられたそれと同じ物を受け取り、オーガは困惑する。自分の仕出かした事の、重大さを知っている故に、向けられる好意に戸惑ってしまうのだった。

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