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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
悪夢の終焉、目覚めの兆し
73/126

安らぎの場所 前編

 着替えの終わったオーガを、再び抱かかえた父親は、彼を外へ連れ出した。

庭に咲き(ほこ)る花々と、時折聞こえる鳥の声。ここが、王都の街中である事が考えられない程、静かで、穏やかな場所であった。

光と大地の家族は、庭の中心にある、屋根の付いた円形の東屋で佇んでいる。

360度見渡せるその場所の、内側の円周にある縁台に座るのだが、オーガは父親の膝の上に乗せられている。体の事を思うと、致したか無いのだろうが、真正面に座らせるよりましな、横抱え状態に幾分か堪えていられる。

まあ、運んだ状態のまま座らされているのだから、この状態になったような物だが、時折、父親が自分を密着させるように抱き直す。

不思議に思っていたが、触れる体から流れてくる力に、譲渡の為だと判る。抗わず、それに身を任せると、辺りの静けさの為か、また瞼が下りてくる。

オーガの寝息が聞こえた父親・ジェスクは、優しい微笑を腕の中の我が子へ送る。

それは、母であるリュースも同じ。

少年の大きさでは、ジェスクと同じ様に、抱きかかえる事が出来無い為、隣にいて、優しくその頭を撫でている。

やっと帰って来た我が子に、神々は暖かな視線と共に、愛情を注いでいる様であった。


 そんな家族の処へ、光の騎士がやって来た。

彼等の元に辿り着くと、膝を折り、言葉を述べる。

「ジェスク様、リシェア様に会いたと申す者がいますが、如何なされますか?」

告げられた言葉に、父親は視線を向け、自分の腹心へと尋ねる。

「ルシェ、それは、一体誰だ?」

短く尋ねられ、跪いたまま、光の騎士は答える。

「風の精霊騎士のエアレアと、闇の精霊騎士のアレストです。」

上がった名に納得し、腕の中で眠っている、子供の状態を確認する。

未だ体力と力が、余り回復していない状態の我が子へ、心の負担は避けたい。

そう思い、彼へ命を下す。

「済まぬが、ルシェ、この子の体調を考えると、彼等には、まだ会わせられない。ラン同様、この子が回復するまで、待つ様に言ってくれ。

場所は…そうだな…私の屋敷で待つよう、伝えてくれるか?」

言われた言葉に光の騎士は頷き、

「承知しました、我が神。彼等にはそう、伝えます。」

と言って、立ち上がり、その場を去った。

彼の後姿を見送りながら、ジェスクは腕の中の子に視線を戻す。

安らかな表情で、眠りを(むさぼ)っている我が子に、顔が綻ぶ。自分達を独占するかの様に、腕の中の子は自分の服をしっかりと握り、しがみ付いている。

(たま)に聞こえるのは、自分達を呼ぶ声と、兄弟を呼ぶ声。

余程寂しかったのだろう、その中に衣装を用意してくれた人間の名と、その兄弟らしき人間の名、そして木々の精霊の名までもが、(こぼ)れて落ちてくる。

「この子の義理の兄だった人達は、余程、この子を大切にしてくれたのね。邪気に身を任せる程、慕った精霊達と、衣装を用意してくれた方達と…。

リシェアが良くなったら、改めてお礼を言いたいわ。」

妻であるリュースの言葉に、ジェスクも頷き、傍らにいるもう一人の娘へと、視線を向ける。両親を独占している片割れに、嫉妬するで無く、微笑ましそうに見ている彼女に問いかける。

「リーナ、リシェアが、羨ましくないのか?」

問われた言葉に驚き、不思議そうな顔で彼女は答える。

「何故?オーガは、もう一人の私だし、ずっと両親がいない状態だったのよ。私みたいに、両親に甘えられなかった人を、羨むなんて可笑しいわ。

もっと、沢山甘えてもいい筈よ。……お父様って、変。」

リーナの言葉に両親である彼等は、彼女の中に眠る資質の片鱗を垣間見み、父親の腕の中の子に思いを馳せる。

双子の片方が、神の資質を持つとすれば、もう片方もその資質を持つ。

これを探ろうとするが、その子の中にだけある物が、邪魔をする。色々な属性を持つそれは、邪気から解放されているが、自らが持つ本質を隠している。

神であるこの身で見えない為、逆に、これを創った存在が誰であるか判る。

大いなる神が創りし物…これが腕の中の子にあるとしたら、あの者の可能性を秘めている。これから先、自分達の出来る事は、待つ事のみ。

腕の中の子自身が選び取る道しか、用意されていない状態では、自分達に助力や助言は出来無い。

それは、他の神々でも同じ。

あの者の運命は、初めの七神でさえ、助ける事や曲げる事が出来無いのだ。

出来るとすれば、あの者の証しを創りし神…大いなる神のみ。 

だが、その神は運命を見守るだけで、その者の助力はしない。故に、己自身の力と歩みで、用意された運命の道を選び取り、進んで行くのだ。

それに気付いた父親は、ふと、言葉を漏らしていた。

「この子はまだ、過酷な運命の中にいるのかもしれん。我等が出来る事は、この子に安らぎの場を与える事と、愛情を注ぐ事だけだろうな…。」

夫の(ささや)きに、妻は頷き、言葉を添える。

「それなら、目一杯してあげられるわ。だって、やっと帰って来たんですもの。

色々教える事は、カーシェに任せればいいのだし、私達は全ての災難から、この子達を護れる物を与えてやりましょう。」

輝石の装飾品を創る事に、意欲を出した母・リュースは、どんな形がオーガに合うのか、考え始めている。

そんな母親に、リーナも目を輝かせ、自分の意見を言っていた。

漸く帰って来た双子の兄弟を飾る物を、自分も作りたいと思いつつ、母親に意見を述べる姿は、微笑ましく思える。これも、リーナの持ち得る資質だと感じながら、父親は腕の中の子を抱き続け、優しい目で見つめていた。 着替えの終わったオーガを、再び抱かかえた父親は、彼を外へ連れ出した。

庭に咲き誇る花々と、時折聞こえる鳥の声。

ここが、王都の街中である事が考えられない程、静かで、穏やかな場所であった。

光と大地の家族は、庭の中心にある、屋根の付いた円形の東屋で佇んでいる。

360度見渡せるその場所の、内側の円周にある縁台に座るのだが、オーガは父親の膝の上に乗せられている。体の事を思うと、致したか無いのだろうが、真正面に座らせるよりましな、横抱え状態に幾分か堪えていられる。

まあ、運んだ状態のまま、座らされているのだから、この状態になったような物だが、時折、父親が自分を密着させるように抱き直す。

不思議に思っていたが、触れる体から流れてくる力に、譲渡の為だと判る。抗わず、それに身を任せると、辺りの静けさの為か、また瞼が下りてくる。

オーガの寝息が聞こえた父親・ジェスクは、優しい微笑を腕の中の我が子へ送る。

それは、母であるリュースも同じ。

少年の大きさでは、ジェスクと同じ様に、抱きかかえる事が出来無い為、隣にいて、優しくその頭を撫でている。

やっと帰って来た我が子に、神々は暖かな視線と共に、愛情を注いでいる様であった。


 そんな家族の処へ、光の騎士がやって来た。

彼等の元に辿り着くと、膝を折り、言葉を述べる。

「ジェスク様、リシェア様に会いたと申す者がいますが、如何なされますか?」

告げられた言葉に、父親は視線を向け、自分の腹心へと尋ねる。

「ルシェ、それは、一体誰だ?」

短く尋ねられ、跪いたまま、光の騎士は答える。

「風の精霊騎士のエアレアと、闇の精霊騎士のアレストです。」

上がった名に納得し、腕の中で眠っている、子供の状態を確認する。

未だ体力と力が、余り回復していない状態の我が子へ、心の負担は避けたい。

そう思い、彼へ命を下す。

「済まぬが、ルシェ、この子の体調を考えると、彼等には、まだ会わせられない。ラン同様、この子が回復するまで、待つ様に言ってくれ。

場所は…そうだな…私の屋敷で待つよう、伝えてくれるか?」

言われた言葉に光の騎士は頷き、

「承知しました、我が神。彼等にはそう、伝えます。」

と言って、立ち上がり、その場を去った。

彼の後姿を見送りながら、ジェスクは腕の中の子に視線を戻す。

安らかな表情で、眠りを貪っている我が子に、顔が綻ぶ。自分達を独占するかの様に、腕の中の子は自分の服をしっかりと握り、しがみ付いている。

偶に聞こえるのは、自分達を呼ぶ声と、兄弟を呼ぶ声。

余程寂しかったのだろう、その中に衣装を用意してくれた人間の名と、その兄弟らしき人間の名、そして、木々の精霊の名までもが、零れて落ちてくる。

「この子の義理の兄だった人達は、余程、この子を大切にしてくれたのね。邪気に身を任せる程、慕った精霊達と、衣装を用意してくれた方達と…。

リシェアが良くなったら、改めてお礼を言いたいわ。」

妻であるリュースの言葉に、ジェスクも頷き、傍らにいるもう一人の娘へと、視線を向ける。両親を独占している片割れに、嫉妬するで無く、微笑ましそうに見ている彼女に問いかける。

「リーナ、リシェアが、羨ましくないのか?」

問われた言葉に驚き、不思議そうな顔で彼女は答える。

「何故?オーガは、もう一人の私だし、ずっと両親がいない状態だったのよ。私みたいに、両親に甘えられなかった人を、羨むなんて可笑しいわ。

もっと、沢山甘えてもいい筈よ。……お父様って、変。」

リーナの言葉に、両親である彼等は、彼女の中に眠る資質の片鱗を垣間見み、父親の腕の中の子に思いを馳せる。

双子の片方が、神の資質を持つとすれば、もう片方もその資質を持つ。

これを探ろうとするが、その子の中にだけある物が、邪魔をする。

色々な属性を持つそれは、邪気から解放されているが、自らが持つ本質を隠している。神であるこの身で見えない為、逆に、これを創った存在が誰であるか判る。

大いなる神が創りし物…これが腕の中の子にあるとしたら、あの者の可能性を秘めている。

これから先、自分達の出来る事は、待つ事のみ。

腕の中の子自身が選び取る道しか、用意されていない状態では、自分達に助力や助言は出来無い。

それは、他の神々でも同じ。

あの者の運命は、初めの七神でさえ、助ける事や曲げる事が出来無いのだ。

出来るとすれば、あの者の証しを創りし神…大いなる神のみ。 

だが、その神は運命を見守るだけで、その者の助力はしない。故に、己自身の力と歩みで、用意された運命の道を選び取り、進んで行くのだ。

それに気付いた父親は、ふと、言葉を漏らしていた。

「この子はまだ、過酷な運命の中にいるのかもしれん。

我等が出来る事は、この子に安らぎの場を与える事と、愛情を注ぐ事だけだろうな…。」

夫の囁きに、妻は頷き、言葉を添える。

「それなら、目一杯してあげられるわ。だって、やっと帰って来たんですもの。

色々教える事は、カーシェに任せればいいのだし、私達は全ての災難から、この子達を護れる物を与えてやりましょう。」

輝石の装飾品を創る事に、意欲を出した母・リュースは、どんな形がオーガに合うのか、考え始めている。そんな母親に、リーナも目を輝かせ、自分の意見を言っていた。

漸く帰って来た双子の兄弟を飾る物を、自分も作りたいと思いつつ、母親に意見を述べる姿は、微笑ましく思える。これも、リーナの持ち得る資質だと感じながら、父親は腕の中の子を抱き続け、優しい目で見つめていた。

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