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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
悪夢の終焉、目覚めの兆し
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騒動の結末 後編

 その頃、王宮の制圧を終えたバルバートア達は、神殿へ向かい、元王とその寵姫の遺体の、然るべき処置を終えてから大神官・リンデルガレに、光の神が何処へ行ったのか尋ねた。

返って来た答えは、光の神に祝福された者が住まう屋敷だった。確かに、この神殿から一番近い屋敷に、強い光の気配と強い大地の気配がする。

そして、微弱ながら、その両方を持つ気配もしていた。それに気付いたバルバートアと、アーネベルアは、不思議に思ったが、直ぐにその理由が判った。

光と大地の神子がオーガと同じ個所に傷を負って、ここへ来たのを、後宮で合流した精霊騎士が教えてくれた事を思い出したのだ。

そして、感じる気配がその神子の物だと、彼等は判断した。

王宮の邪気は消えたと、アーネベルアは言っていたが、何処にもオーガの気配がしない。紅の騎士も、混血の精霊剣士も、あの少年の気配を感じず、精霊達の気配だけを受け取っている。

この事で、義理の弟の事が気掛かりとなったバルバートアは、エーベルライアムに許可を取って、その屋敷へ向かおうとする。

そんな時、屋敷の方から一人の精霊騎士が、こちらへ向かって来るのが見えた。

「ランシェ様、如何なさったのですか?」

アーネベルアに従っている、炎の精霊剣士が声を掛け、緑の騎士が答える。

「バルバートア殿はいますか?彼に用があって、来たのです。」

彼の返事に、何事かと思ったバルバートアは、直ぐに彼の許へ向かった。

「ランシェ様、私に用とは、何でしょうか?」

「実は、オーガ君の着替えをお借りしたいと、リュース様がおっしゃいまして、それで貴方を捜したのですよ。」

義理の弟の名を聞いて、バルバートアはその理由を尋ねた。

「何故、オーガの服を?神子様が着るのですか?」

「いいえ、オーガ君です。

今、オーガ君は、先程話した通り、ジェスク様の預かりとなりました。ですから、新しい着替えを用意するまで、今までの物をお借りしたいのです。」

オーガが神子である事を伏せて、告げる緑の騎士へバルバートアは納得して頷いた。

「そう言う事でしたら、誰かをやって、私の前の屋敷へ取りに行かせましょう。

ランシェ様、オーガの様子は…如何ですか?」

心配を隠せないバルバートアの質問に、ランシェは掻い摘んで答えた。

「怪我は、完治しているようです。私も詳しく知らないのですが、ジェスク様の監視の下、静かに眠っているみたいです。」

リュース神が、可愛らしい寝顔と言っていたのを思い出して、そう告げると、バルバートアは少し安心した顔になった。

「そうですか…怪我をしたと聞いて、心配でしたが、治っているのなら、一安心です。だけど…眠っているのですか?

まさか、目が覚めないなんて事は、無いですよね。」

思い付いた最悪の状況を、口にしたバルバートアは、深刻な顔をした。

その後ろから、闇の騎士の声がした。

「大丈夫、オーガ、疲れて、眠っている、だけ。邪気、オーガから、居なく、なったから、気配、精霊に、戻ってる。その内、目、覚める。

ランシェ、レア、邪気、居なくなった、経緯、後で、聞かせて。」

バルバートア達と行動を共にしていた為、オーガの行く末を知らない闇の騎士・アレストは、そちらに参戦した精霊騎士に尋ねた。二人の精霊騎士から、承諾の言葉を貰ったアレストは、再びバルバートアに話し掛けた。

「ジェスク様の、気配、優しい。オーガ、邪険に、扱われる事、無い。

…?リーナ様も、一緒?」

言葉の最後の疑問に、ランシェが答える。

「アレスト、神子様はリーナ様ですよ。

今は、オーガ君と一緒に、ジェスク様の傍で眠っているそうです。急にこちらへ来て、お疲れになったみたいです。」

要点のみを伝える緑の騎士に、周りの者も納得した。闇の騎士の話で、木々の精霊の気に戻っているのなら、人間として捜しても、見つからない事も理解した。

精霊として光の神の傍にいるのなら、邪気に脅かされる事はないだろう。

そう思い、バルバートアは安心した。

そして、頼まれた通り、オーガの服を用意する為、行動するのだった。



 暖かな気配に包まれている事に気付き、不思議に思って、ゆっくりと目を開けたオーガは、目の前に、夢で見た父親の顔があった。

また、何時もの夢を見ているのかと思い、その腕の中でじっとしていると、その父親と思われる人物から、声が掛った。

「起きたのか?リシェア。」

何時もと違う呼び名に驚き、瞬きをし、目を擦る。

そして、辺りを見渡すと、リーナの姿と肩から流れ落ちる、自分の緑の髪が見え、その人物に抱かれている事に気が付く。

周囲の確認を終えると、自分の手を確かめる。

透き通っていないという事は、実体がある事。

自分の力を、自らに向けて放った筈なのに、己の体がある事を不思議に思った。

「僕は…生きているの?」

「そうだ、生きているぞ。リシェア、良くぞ、帰って来た…。

もう、我等の前から、突然消えてくれるな。良いな。」

再び聞こえた名前で、首を傾げ、目の前に人物に問いかける。

「ジェスク様?リシェアって、誰の事ですか?」

「ジェスク様じゃあなくて、父様だ。……そう言えば、オーガと呼ばれていたな。

オーガ、リシェアとは、そなたの事だ。

そなたは、我が子・リシェア…それが本当の名だ。………若しかして、神子が行方不明だったと、知らなかったのか?」

リシェアという名が、自分の名だと告げられ、自覚する事が出来無いオーガは、光の神から問われた質問に答えた。

「光の神と大地の神の御夫婦の神子が、行方不明だという事は、噂とかで聞いた事があります。その方の名は、知りませんでしたが…僕なのですか?

でも、僕はリーナの様に、金髪で青い目じゃあないし…。」

自分の特徴を言う幼子の頭に、空いている方の大きな手が乗る。優しく撫でる手に、以前の様な光を拒絶する心は、浮かばない。

触れて感じる暖かさに安堵し、身を委ねそうになるが、眠りだけは避けたいと、必死になってしまった。その様子に、目の前の光の神は微笑んだ。

「姿は変わっていても、そなたは確実に私達の子供だ。

その証拠に、リーナが来た時、そなたと同じ場所に傷を負っていたであろう?

あれは、繋がっている双子の証拠だ。

そなたとリーナは、一つの命を、二人で生きている存在だからな。」

告げられた言葉に、オーガは少し考え、今まで不思議だった事を尋ねた。

「もし、仮に、僕とリーナが繋がっているとして、リーナが見たり、体験した事を夢として、僕が知る事もあるのですか?」

「ある。…という事は、そなたは夢で、私達の事を見ていたのだな。」

断言された答えの後で、尋ねられた質問に、オーガは頷く。

夢で見た父親の顔は、目の前の神そのもの。

そして…母親は…。

そう思った矢先に、部屋の扉が開き、一人の女性が駆け足でやって来た。

その姿を確認した父親は、やっと彼を腕の中から解放した。寝台の上で、足を体の両側に添え、ぺったりと座る形になったオーガは、近付く女性の特徴を確かめる。

緑の髪と紫の瞳…大地の神の特徴を持つ女性…。目の前の父親が光の神ならば、今、入って来た女性が誰であるか、オーガには判った。

「リュース様?」

オーガの声を聞いた女性は、無言のまま彼を抱き締めた。

途端にオーガは、大地の気配に包まれる。

覚えのあるそれに驚くが、直ぐに何時感じたか、判った。

生れ出る前…母親の胎内にいる頃に、包まれていた暖かな気配。

傍らには、横にいるリーナがいた。

彼女と共に感じていた物で、我慢していた眠気が再び襲い、そのまま眠ってしまっていた。先程までは父親の腕の中で、今度は母親の腕の中で、眠りに落ちたオーガは、安らかな寝息を立てている。

「あら?また寝ちゃったのね。服を変えられなくて、残念だわ。

…ふふっ、でも、可愛い寝顔を、また見れるなんて…嬉しいわ。」

「本当だな…余程、疲れていたのだろうな。

邪気を自らの手で消すなんて、無茶を仕出かしたからな。」

「お父様、それ…違うの。

オーガにとって、邪気を消すのは簡単だけど、何かがオーガ自身を残そうとして、力を歪めたから、その反動が出ているだけなの。

オーガは…自分ごと邪気を消そうとしたから、歪められた力の所為で、疲れちゃっただけなの。」

何時の間にか起きて来た娘から、聞かされた話に二人の神は驚き、母の腕の中にいる子供を見た。思い当たる節があったらしく、父親が娘に尋ねる。

「この子から、色々な属性も感じるのだが、リーナには無いな。

若しかして、リシェアだけが、持っている物があるのかもしれん。

リーナにはそれが何か、判るか?」

問われた事を確かめる為、リーナは暫く瞳を閉じた。そして、

「何かは判らないけど、ここの位置に、確かにあるわ。

色々な色に光ってて、凄く綺麗♪」

両目を閉じたまま、自分の胸に手の平を当て、答える。娘の言葉に納得した父親は、妻の腕で眠っているもう一人の子供に、視線を移した。

「この子には…更なる試練が、待ち構えているのかもしれん。

その先に、どの様な未来があるのか、私達には判らないが…………

良い未来だと良いな。」

父親の呟きを聞き、娘は自分がいるから大丈夫よ、と答える。

彼女の答えに、両親は驚く。その様子を見ながら、リーナは理由を告げる。

「私はオーガの片翼だから、もし、オーガが道を外せば、私が止める事になるの。

そして、オーガの命を奪うのなら、私の命も無くなるの。その逆も同じ。

二人が揃ったから、やっとね、判ったの。

私とオーガは、二人一緒で無いと、生きていられないの。離れていても、魂が繋がっていると、生きていられるの。」

繋がった双子の兄弟の特徴を、自覚する彼女に、両親は微笑む。珍しく大人しい彼女は、その後直ぐに、寝台の上で寝そべる。

「お母様、お父様、今日はオーガと一緒に、お母様達と寝ても良いでしょ。

オーガの目が覚めた時に、一人だと、寂しいと思うから。」

そう、宣言する我が子に、両親は微笑み、頷きながら、体を横にする。

母の腕に抱かれながら眠る、もう一人の子供が、起きる事無く眠り続けている事に、二人は微笑む。

「もう、この子は一人じゃあないって、判るかしら?」

「リューに、しがみ付いて眠っているから、判っている思うよ。」

夫に告げられ、腕の中の我が子が取っている行動に、気が付き、微笑む。甘えるように母の服を掴み、胸に擦り寄っている姿は、赤子のようにも見える。

「…母様…父様…。」

オーガの口から洩れた寝言に、両親は更に微笑む。

やっと戻って来た我が子に、更なる厳しい試練があろうとも、この子には末永く、生きていて欲しい。

それが、彼等両親の願いだった。

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