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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
悪夢の終焉、目覚めの兆し
65/126

精霊達の悪夢 前編

 王宮への進軍の日取りが、完全に決まった日、オーガの目の前に、一人の侍女が現れた。

例の、忌まわしき輩の間者である女を、オーガは、偽りの笑顔で迎える。

無害な少年を演じ、かの者と対峙する。

「何か、ご用ですか?姉の所へ行こうとして、迷われたのなら、ご案内しますよ。」

周りを目で確認し、改めて人がいない事を知った女は、口を開いた。

「そうではありません。私は、オーガ様に用があって、此方へ参りました。

御迷惑でなければ、少し時間を頂けますか?」

有無を言わさない視線を、投げかける女に、オーガは場所を変える様、誘い始める。

「時間が掛る様でしたら、彼方の控室で聞きましょう。

さあ、侍女殿、行きましょうか?」

一瞬、身構える女に、子供らしい微笑を向け、

「女性に乱暴を働こうとは、思いませんから、安心して下さい。」

と、無邪気そうに話し掛ける。その言葉に少し警戒を解いた女を、控室へ連れて行く。部屋入ると、気付かれぬ様、結界を張り、女へ話し掛ける。

「私に用とは、何でしょう?」

率直に尋ねると、女は膝を折り、深々と首を垂れる。

「オーガ様、いえ、オルトガーリニア・デエルト・ガルア・フェム・デェアルク殿下、

私はフェム・ディアカルクの者。本来なら、私の様な身分の低い者が、貴方様のように、高貴な御方の御目に掛る等、してはならないのですが……事が事だけに、直接御話をさせて頂きます事を、御許し下さい。」

「…私は、その様な名ではありませんし、侯爵家と言っても、養子ですから、身分も、そんなに高くないですよ。」

否定を含めた言葉を掛けるが、女は聞こうともせず、己の話を進める。

「話しとは…貴方々の身柄の事です。如何か、この城から御逃げ下さい。

これ以上、此処に留まる事は危険です。

逃げ道なら、私達が確保致します。ですから…。」

そう言って、女はオーガの腕を掴むが、強い力で弾かれる。

驚く女が顔を上げ、彼を見る。そこには、蔑みと嫌悪感の滲み出た表情があった。

「我に触れるな!

あの忌まわしき国の者が、気安く我に触れる事は、許さぬ。」

口調が変わり、纏う気も変わったオーガに、女は畏れ、(おのの)いた。

自分達の王族である、あのか弱き皇子では無く、別の何か。

本能が恐ろしいと感じるそれに、身動きが出来無かった。

声も出無くなった相手に、オーガは冷たい微笑を浮かべ、言い渡す。

「お前達の力など、不要だ。

ああ、もう用無しだから、此処で果てても、構わないな。」

言い終るや否や、素早く左手で剣を抜き、女を貫く。悲鳴を上げる暇も無く、絶命した女から剣を抜き、その死体を無に帰した。

無論、剣に付いた血も無くし、元の鞘に戻す。

「…これ程までに、手応えが無いと、つまらないな…。

まあ…(いず)れ、紅の騎士や精霊騎士達が、此処に来る。

彼等なら、もっと楽しめそうだ。」

この城を離れる前に、彼等と剣を交えたいと思ったオーガは、そう、独り言を口にしたが、その後に、彼の運命を、大きく変える事柄が待っているとは、当人すら気が付かなかった。



 王宮にいるディアカルクの間者に、一応繋ぎを取ろうとしたケフェルナイトは、その者の気配の消失を知った。

無くなった場所に行くと、そこには己が主の姿があった。声を掛けようかと思ったが、彼の視線が窓の外へ向く。

そして、開かれた窓から、少年の声が掛る。

「ケフェル、其処にいるのだろう?入って、来い。」

穏業の術を使っているのに、判ったらしく、少年・オーガが彼を招き入れる。

そこには誰もいず、オーガだけが佇んでいた。

「…我が主、あの…此処に誰かいませんでしたか?」

従者の言葉に、妖艶な微笑を浮かべ、楽しそうに笑う。

「ああ、気付いていたか、あの忌まわしき国の者を葬った所だ。これ以上、利用価値が無いし、羽虫の様に纏わり付かれても、鬱陶(うっとう)しいからな。

ケフェル、お前も同じか?私をここから逃がす為に、控えているのか?」

「いいえ、オーガ様は自力で、ここから出る御心算(おつもり)でしょう?

私が控えているのは、その時間稼ぎです。まあ、表向きは貴方様を私が、逃がすとは言っていますが…。」

即答された答えに、驚き、何時もの微笑に変る。

そうか、風の精霊だったなと思い、彼の頭の良さに嬉しく思う。

「ケフェルの言う通り、私は事の顛末(てんまつ)を見て、此処から出る。

全ては、この国が滅んだ時だ。」

そう言ってオーガは、自分の纏う気を戻したが、ケフェルナイトは畏れる事無く、その場で一礼をし、

「我が主の、おっしゃる通りに。」

と告げ、姿を消し、風と共に部屋を出た。彼の様子に、まだ使えると判断したオーガは、彼を消す事無く、そのまま放置を決めた。

「風の精霊の血筋か…情報を得るには、丁度良い手駒だな。」

ケフェルナイトに、この後の利用価値を見出した彼は、窓を閉め、何事も無かったように、控室から出て行った。



 それから幾度と無く、あの忌まわしき国の間者から、オーガは接触を受け、尽く消していった。精霊であった身には、あの国の者の存在が許せなかった為、只消すのでは無く、あの殿下と違う処を見せ付けて殺して行く。


左利きで、剣を扱う。


それが、あのオルトガーリニアという名の皇子とは、異なる事だった。

オーガは左利きで、剣を手足を扱うかの様に容易く使うが、あの皇子は右利きで、剣を全く扱えないばかりか、剣に振り回されている状態であった。

剣を持つ事も不慣れで、全くの運動音痴な皇子と、剣に慣れ切っていて、身体能力も高いオーガとでは、雲泥の差である。

姿も、声も、愛称まで同じなのに、それだけが決して似ていない点であり、一番判り易い物。後は、性格も違っている。

おどおどして、人の陰に隠れているばかりで、何も自分では動かず、陰口と文句だけしか言えない皇子と、自ら先陣を切って動こうとし、ずばりと物を言い、自分の目的の為に策を巡らすオーガ。

明らかに別人の彼等だが、容姿しか見ない者は未だ彼を、今は亡き、ディアカルクの末の皇子と思っている。だが、戻って来ない間者の御蔭で何故か、あの皇子が、実力を隠していると思われていた。

馬鹿馬鹿しいと思いながら、忌まわしき者達の様子を窺っていたが、広場に動きがある事に気が付いた。王宮へ向かう者達が、準備を終え、進軍を開始するようだ。

反乱軍は二手に分かれ、行く手を阻む者を排除する者達と、逃げる者を捕え、また保護する者達。

二つの隊の構成が組まれ、義理の兄の上が後者で、下の兄が前者に加わっていた。オーガと知己の精霊騎士も、風の騎士と緑の騎士が前者で、闇の騎士が後者となっている。

勿論、アーネベルアとエーベルライアムは前者、エニアバルグ達は後者に含まれ、徹底した構成になっていた。

その中に神々も含まれ、光髪の神が前者、珍しい黒と光髪の神が後者となっている。共に、守護神の名を持つ神へ興味を引かれたが、会う前に逃げようと思った。

彼等に出会ってしまうと、剣士としての本能が勝ってしまい、逃げる機会が無くなってしまう。そう思いながら、ちらりと後宮を見る。

そこには姉役を熟したエレナが、王と共に部屋で寛いでいる。この進軍を知っても、彼等はそのままあの部屋で、死を選ぶであろう。

寄り添い、離れまいとしている彼等を冷笑で見送り、オーガは敵を迎え撃つべく、自分の立ち位置に戻った。

王宮から続く、後宮への入り口。

一応、王を護ると言う名目で、その場にて、彼等を迎え撃つ様に佇む。

後は、ここに来る者を排除する振りをして、隙を在らばこの場から去り、単独でこの城を出る心算であった。

調べ尽くした抜け道を使えば、誰にも見つからず、出る事が出来る。

しかし、それは使わないまま、終ってしまう可能性もあるという予想が、彼の頭の片隅に微かだが残っていた。

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