表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
滅びゆく王国の悪夢
62/126

御馬鹿な輩の悪足掻き 後編

綴られた召喚の言霊に、三人の男性が炎の中から、現れる。紅の騎士服を身に着け、腰には炎の剣を持つ者と、貴族の服装で、その家紋を付けている者が二人。

一人は若く、市井で噂の人物だったが、もう一人の、年老いた者の姿に、彼等は驚く。

「…まさか、そんな…・セルドリケル兄上……。」

「セ・セルドリケル殿下……死んだ筈…では……。」

「馬鹿者!!儂はちゃんと生きておる。

此処にいる、風の精霊騎士のエアレア様の御蔭じゃ!!」

やや白い物が混ざっているとは言え、王族特有の見事な金髪は、肥った男と同じ輝きを持っていた。怒声を浴びせ掛ける老人へ、若い者が口を開く。

「父上、幾ら久し振りで、自分の命を狙った相手とはいえ、開口一番がそれですか…。

気持ちは判りますが、相手が怯えすぎても困りますよ。」

「リケル…私に敬称は要らないって、言った筈だよ。

親友に様付けは、止めて欲しいな~。」

ついでとばかりに、風の騎士が声を出すと、一応、神の御前だからのうと、のんびりとした声が返って来る。その会話に、息子である若い方・エーベルライアムが脱力する。

「父上も、エアレア殿も、緊張感が欠けていますよ。

まあ、あの御馬鹿相手では、変に気を張っても、仕方無いんですけどね。」

何時も通りに、釘を刺す我が子を、セルドリケルは脇に引き寄せた。

「レティア、そっくりじゃろう?正真正銘、儂の子じゃ。

小さい頃は、もっと可愛かったのに…こんなに捻くれおって。」

一部、親馬鹿な台詞を吐く父親に溜息を吐き、抱き寄せられたエーベルライアムは、反論をする。

「捻くれてて、悪かったですね。でも、誰の教育の賜物でしょうね、父上。」

親子の会話に、唖然とする男達を見ながら、炎の神は親子に話し掛ける。

「ライアム、リケル、彼等をどうしたい?貴方達の希望通りにしてあげるわ♪

勿論、べルアの意見も、考慮するわ♪だって、私の愛し子なんですもの。」

楽しそうに告げる彼女へ、彼等は少し考えて、答えを返す。

「そうだね、フレィリー様に対する無体と、父と母に対する陰謀、そして…私の騎士に対する仕打ち…。そのどれを取っても、許し難いのですが、私としての希望は、永遠の苦しみでしょうね。」

「同感じゃ。レティアやフレィリー様へ、無体をしようとした事と、お腹に居ったライアムに対する仕打ちは、忘れんぞ。あの時レアが居なかったら、ここに居る我が子を、この手に抱けなかったと思うと、楽には死なせん。」

「フレィ様。御二方の意見と、私も同じです。

神々の祝福を受けた者達を、自分の言い成りにさせようとした事は、許せる訳がありません。光の愛し子を死に追いやった罰も、受けて貰いたいです。」

親子の言葉と、アーネベルアの言葉を聞き、フレィリーは目を伏せる。

今、神殿内で、唯一、主の無い屋敷を思い出し、その詳細をも記憶から蘇らせる。

そうして、両の眼を開け、最も厳しい視線を罪人へと注ぐ。

「そうね…ジェスの愛し子のホルトアルムは、貴方達の所為で、命を落としたのだったわね。我が子を捜している最中だったから、ジェスの怒りと嘆き、悔やみは、相当の物だったって、覚えてるわ。

このまま生かしておいても、他の人に迷惑を掛けるでしょうし、今後の事も考慮しないとね。……そうね……貴方達への罰は、七神の預かりにした方が、いいわね。」

この言葉が終るや否や、彼女の手に再び炎が灯る。

先程とは違い、両手に供された炎は、神の怒りを表しているようだった。

「貴方達に七神の罰が下るまで、私の炎で焼かれて貰うわ。永久の業火でないのは残念だけど、体が焼き尽くされても、その暑さと痛みは継続してあげる。

もちろん、発狂する事は許さないわ。正気を保ったまま、焼いてあげる。」

両の手の炎を彼等へと投げつけた瞬間、炎は、相手を包み込み、その体を徐々に灰へと変えてゆく。

足元から、じわじわと炎が上に向かって行く様で、態と時間を掛けて、体を焼かれるのだと気が付くと、暑さと恐怖、痛みと苦しみの中で、彼等はのた打ち回った。

許しを乞うても通用せず、立つ事もままならなくなった頃、屋敷が炎に包まれ出した。唯一安全なのは、神の御膝元。

炎同士が打ち消し合い、結界を作っている為、熱も伝わらず、火に焼かれる事も無い。人の焼ける嫌な臭いがする中、、エーベルライアムとその父、彼の騎士は愚かな輩の体が無くなるまで、目を逸らさずにいた。

神の怒りを買った者の末路を、目に焼き付けるかの様に見つめ、自分達に色々害のあった人物の、最後を見届けた。

彼等の体が無くなった後には、紅金色の結晶が残り、屋敷全体に火が広がった。

「レア、わたし達を外へ。ここも、もう、持たないわ。」

炎の神の頼みに、風の騎士は頷き、彼等を一瞬にして屋敷の外へ運んだ。そこには既に、大勢の人々が炎に包まれた屋敷を見て、その火を消そうとしていた。

一向に消えない火に対して、驚いていた彼等の前に、紅の騎士が三人、風の騎士が一人、そして…エーベルライアムと前王の弟君、紅の少女が現れたのだから、より一層賑やかになった。

全く消えない炎に、一生懸命水を掛けている人々へ、紅の少女が声を掛ける。

「この火を消そうとしても、無駄よ。

この炎は神の怒り、罪人を焼き尽くす業火の炎だから、決して消えはしないわ。

炎の神の祝福を受けた炎の騎士と、その主に害をなした者が裁かれている最中だから、ほっといていいのよ。」

辛辣な言葉を掛ける少女へ、その場に居る者達の視線が集まった。

その視線を受けながら、少女は屋敷へ、憐みの目を向ける。

「馬鹿な人達、わたしの愛し子だけならまだしも、光の愛し子まで手に掛けて…これでジェスも安堵するでしょう。後は、七神によって、重い罰を受けるだけ。

ライアム、べルア、リケル、これでいいかしら?」

微笑を添えて、振り返る少女へ、名を呼ばれた者は頷いた。

紅の地のドレスに炎の装飾、そして、同じ装飾を持つ女性騎士と、風の装飾を持つ男性騎士に囲まれた少女が、何者であるか、周りの者達は気が付く。

炎の神の突然の降臨に、彼等は如何して良いか、判らなくなっていた。

唯一判るのは、屋敷の者達が、神の怒りに触れた事。

前王の弟であり、そこにいる老人の弟である屋敷の主が、神を怒らせた事を知る。屋敷の主が、どの様な人物であったか知っている人々は、火を消すのを止め、その場で敬礼を始めた。

「フレィリー様、この屋敷の主が、貴女様の怒りに触れた事は判りました。

ですが、使用人の中には、無実な者もいます。」 

彼等の意見に、炎の神は優しい微笑を添えて、答える。

「大丈夫よ。そんな子達は、わたしの精霊達が助け出しているもの。

ほら、あそこに見えるでしょ?」

紅の神が示す方向には、不思議そうな顔をした集団が佇んでいる。

一往に制服を着こんだ彼等は、自分達の身に起こった事を、理解出来ていないようだ。辺りをきょろきょろと見渡している彼等へ、跪いていた一団が、胸を撫で下ろす。

彼等の様子に、紅の神は、敬礼を崩すよう言い渡し、身内の者の傍に行く事を勧めたので、彼等は、その集団の許へ向かって行った。

そして、屋敷が全て灰になった頃、炎の神はその腕に、紅金の結晶を集めた。

十何個かあるそれは、罪人の数を表している。

あの二人の他、この度の事や紅の騎士の事、マーデルキエラ公爵親子の事、そして、光の愛し子の事に関わった者全ての魂が、炎の輝石によって、封じ込められた。

後は、七神の罰が下るだけ。

最も厳しい罰が下る事を、エーベルライアムとアーネベルは、気付いている。

それは、彼女の傍に控えている騎士達も同じ。

神々に牙を剥いた者への罰は、最も厳しい物になると経験済みだった。

特に、古参の精霊であるエアレアとフルレは、その事を目の当たりにし、己の記憶として残っている。

以前起こった、大地の神への人間の仕打ち。

それが七神の怒り、特に光の神の怒りを買い、その国の王に、加担した者への罰は、今尚続く。一部は、改心し、普通の転生に戻ったが、未だに罪を認めない者は、罰せられたままである。

恐らく、彼等と同じ運命を、此処に封印された者達は、辿るであろう。

改心しない者に取って、永劫とも言える罰が課せられる事は、容易に想像出来た。


 劃して、エーベルライアムの悩みの種の一つは、消えた。 

炎の神が、彼を保護していると噂が流れると共に、次代の王へと望む声が上がる。

平民では無く、前王の人望熱き弟君・マーデルキエラ公爵の嫡子である彼を中心に、新しい国へと移り行く流れが大きくなる。

国民全体を巻き込み、彼等の歩みは王宮の崩壊へと繋がる。


 そして…邪気に身を任せたオーガもまた、この国の滅びに着手し出す。

王宮の兵力を弱体化し、改革を求める者達が入り易いよう、お膳立てを始める。今や、王宮に残るのは、少数の現王派であり、次代には無用な人物のみとなる。

「御膳立ては終わりました。後は、この国が民人の手で滅ぶのみ。

義父上、今の気分は、如何です?」

無邪気とは、程遠い笑顔を浮かべるオーガへ、ラングレート宰相も微笑む。

「良い気分だ。やっと、念願が叶う。この手で、あの愚かな、色狂いの王の血筋が滅ぼせるとは、実に良い気分だ。ククク…ハハハハハ…」

何時しか笑いは大きな物となり、宰相の部屋に木霊する。誰も咎める事の無い狂気の笑いに、オーガは満足そうな顔で、彼を見つめる。

事は終わった、後はこの国を去るばかり。

この国の滅びを見届けてから、オーガはこの国を去る事にした。

それが、更なる波乱を巻き起こすとは、思いも依らなかった。

次回から、新章突入です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ