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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
夢の始まり
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剣豪の兄弟 後編

  オーガの纏う気が戻らなかった事を知ったアンタレスとファンアは、後で長へ報告する事に決めた。

今日は予定通り森の奥で薬草を採る事になったのが、毎度の事ながらオーガは、沢山の森の動物達に囲まれて動けなくなっている。何度か言って聞かせたのだが、如何せん彼等は、久し振りに森の奥へ来たオーガに構って欲しいらしかった。

しょうがないな~とぼやきつつも、彼等の相手をし出したオーガをアンタレスとファンアは、微笑ましそうに見つめている。

「オーガ、そこで相手をしてやれよな。薬草摘みは、此奴(こいつ)がいるから大丈夫だ。」

アンタレスを捕まえて、さっさと奥に進むファンアを見送ったオーガは、周りを囲む動物達と(たわむ)れ始める。

初めて囲まれた時は、かなり驚いたが今は慣れてしまっていた。

しかし、何故オーガに、動物達が親愛の意を込めて群がるのか未だに判らない。

唯一判る事は、彼等が絶対にオーガへ危害を加えない事だった。素直に彼を受け入れ、甘える。例え大型の肉食獣でさえ、オーガの前では小動物と変わらなかった。

他の精霊ではここまで懐かれない。精々(せいぜい)出会った時に撫でろとする位で、態々(わざわざ)出向いてまで構えとはしない。

オーガの場合、彼等は出向いてまで構えをする為、様々な種類の動物が集まってしまうのだ。で、今の状況となる。その様子を精霊達が微笑ましいと思いながら見つめるのは、今に始まった事では無い。

仕事が(とどこお)ると言って、(いさ)められた事も無かった。



 久し振りの所為か、何時もより多くの動物を相手にしていた為、時刻は夕方に近くなっていた。この事に気が付いたオーガは、しまったと思ったが、傍らの籠には何時の間にか薬草が入っている。

構ってくれたお礼とばかりに、動物達や鳥達が集めてくれたらしい。有難うと微笑みながら彼等と別れ、ファンア達と合流する。

「お疲れ。…それは彼等からの御礼かい?」

籠一杯になっている薬草を見たファンアは、オーガから籠を受け取って中身を調べる。そこには、珍しい薬草も幾らか混じっていた。

何時もながら動物達のオーガへのお礼は、珍しい薬草が多く、ファンアとしては重宝(ちょうほう)している。精霊達が入れない狭い場所に生える物や、高い場所に生える物が混じっている為だ。

「御免、ファンア…お手伝い…出来なかった…。」

しょんぼりして謝るオーガの頭を、ファンアは優しく撫でた。

「大丈夫だよ。十分手伝いになった。ほら、動物達の御礼の中に良い物がある。これは彼等じゃあないと取れない代物だ。

オーガ、彼等にも感謝するんだよ。ちゃんと判ってくれてるんだからね。」

頭を撫でながら、説明するファンアにオーガも納得する。

何時もの事ながら、アンタレスも動物達の懐き様とお礼の仕方には感心していた。構えと手伝いの邪魔をしながらもちゃんと彼等が、オーガに代わって手伝いをしている。

意思が通じている事の証しだった。

動物と仲が良い精霊でもここまで通じ合っていない。

オーガ限定と言える程の物である。

これが起因となってオーガは、【神々に愛されし人間】と精霊達の間で囁かれている。アンタレスもリュース神の恩恵を受けているが、オーガ程動物に懐かれない。それ故にオーガは、神々全般に愛されていると思われている。

…只…本人には、【神々に愛されし精霊】と伝わっていたが…。



 集落に帰ったオーガ達は早速、薬草の仕分けと簡単な処理を行った。

それが終った頃はもうすっかり日が暮れ、夕食の時刻となっていた。

オーガに部屋で少し休むようファンアが言って聞かせ、食事が出来上がる間にアンタレスは長の許へ向かう。表向きはオーガの修業の旅への御許しを貰いに…だったが、あの薬に関しての報告に行ったのだ。

「長…、お話があります。」

「例の件かのぅ。」

「ええ、それと、お願いに参りました。」

オーガに例の薬が効かなかった事と、自分と共にオーガを修行の旅に出させる了解を得たいと告げる。長は暫く考えたが、簡素に結論を言った。

「…オーガと共に旅へ出るか…それは無理じゃろうて。」

「何故ですか?」

「今日、人間の神官殿がこの森にやって来てのぉ…。最近、焼失した神殿を立て直したいと言って来たのじゃ。」

昨日、丘で見た人間の集落で変わった所をアンタレスは思い出した。

空き地になっていたそこには以前、神殿があった。

恐らくその為に神官は来たのだと予測した。となると、この森の木々を神殿の材料として提供する事となる。

「長…もしかして…。」

「そうじゃ、多分この集落の者全てが、神殿の精霊となる。

…神官殿には、若木だけを残して欲しいと言っておるのじゃがな。」

この森で若木と言えばオーガだけだ。後は立派な大木となっており、神殿を立て直すのに適した物ばかり。

長の決定はオーガを残す事。

本当の精霊で無いオーガだけを残し、他を材料として提供をする。

彼を一人残す事は長にとっても、アンタレス以下この森の精霊にとっても、歓迎出来無い事である。しかし、オーガが本当の精霊で無い以上、彼が神殿の精霊になることは出来無い。不本意ながらも人間の許へ戻さなければならなくなる。

無言になったアンタレスに長は告げた。

「オーガには此処からもっと奥の、シェンナの森へお使いに行って貰う予定じゃ。そこで、あの子を預かって貰う手筈になっておる。

あの子には悪いが、そうするしか他に方法が無いのじゃ。人間のあの子では…一緒に連れて行けぬ故に…のうぉ。」

悲しそうに告げる長にアンタレスも頷くしかなかった。

やっと帰って来たのに、1年も一緒にいられる筈だった弟に、もう会えなくなる…。そう思うと胸が詰まりそうになる。

そんなアンタレスを見つめ、長は釘を刺した。

「アンタレスよ、この事はくれぐれもオーガに悟られぬようにな。

あの子は、何に関しても感が良いからのぉ。

全く以て不憫な子じゃ。本当の親には捨てられ、今、家族となった者まで失うとはな…。」

薄らと涙を浮かべた長にアンタレスは一礼をして、オーガの許に帰って行った。

明日になれば、ファンアも知るであろう事柄を胸に秘めて……。



 住居に帰ったアンタレスは、先程の長との話を思い出してしまい、落胆を隠し切れなかった。そんな彼の様子にオーガは気付き、尋ねて来た。

アンタレスは修行の旅の許可が下りなかった事だけを告げ、部屋の奥へ入って行った。そこにはまだファンアが残っている。

気落ちしたアンタレスを見たファンアは、オーガと同じように理由を聞く。修行の許可が下りなかった事と、オーガにお使いを頼むらしい事だけを告げる。

近くにオーガがいる為、あの事は言えない。そう、判断したアンタレスだったが、何かを察したファンアは敢えて何も聞かなかった。



オーガが眠った頃、意を決してたファンアは、アンタレスに先程の態度の事を尋ねた。問われて言い難そうにアンタレスは、言葉を綴った。

「……多分、明日以降、森にいる全員が知るだろうが……この森の木々が、人間の村にある神殿の修復に使われる予定らしい。

俺達は、神殿の守護精霊となるが…オーガは…。」

「人間だもんね。オーガ一人残して逝かなければならないか…。

まあ…私達は、生まれ変わる事になるんだけど…オーガとは滅多に会えなくなるのか…。」

守護精霊になるという事は、一度、木々の精霊としての一生を終える事となる。

その後、神殿に(まつ)られる神の影響で髪と瞳の色が変化するが、他は以前の姿のままで新しい精霊となる。

只、建物の守護精霊となるとそこから離れる事は出来無い。今のアンタレスの様に、本体から離れて人間のいる場所で生活する事が出来無くなるのだ。

故に、取り残されたオーガの所へ彼等自身が会いに行く事が出来無い。オーガの方から、会いに来るしかないのだ。

彼等の感覚でいうと、まだ幼子のオーガには保護者が必用。

精霊と思い込んでいる以上、人間ではオーガを保護出来無い。

そんな事を考えているファンアだったが、アンタレスはオーガのお使いの事を詳しく説明した。シェンナの森の精霊に、オーガを託す。長は、そう言っていたと。

「それなら、一安心だけど…オーガが、大人しくしてるかな?」

「俺も同感だ。…あいつの事だ。森を抜けだして、真実を知るだろうな…。

そうなったら、あいつは…如何するんだろうな。」

「寂しがると思うよ。

寂しくて、悲しくて…あの子…道を踏み外さないと良いけど…。」

ファンアの言葉に、アンタレスの心に不安が過ぎった。もし、この事でオーガが道を踏み外す事になったら…誰が、彼を止めるのか…と。

剣の腕はもう、この森で勝てる者はいない。

即ち、普通の精霊では止められる者がいないと言う事実。

動けるならば身を挺して己が止めたい…そう、アンタレスは思っていた…。



 2日後、オーガは長にシェンナの森へのお使いを頼まれた。

それは極簡単な物で、手紙を向こうの長に届ける事だった。

カナナに頼めば良いのに…と言うオーガに長は、重要なもだから文章に纏めなければいけないのだと教える。

納得したオーガは、初めての外出に心を躍らせながら森を出て行った。それを見送る精霊達は、不安と、別れの重みで曇った表情をしていた。

「オーガ、寄り道をしない。無茶をしない。後…迷子にならないよう、気を付けて行け。」

心配の余り細かい注意をするアンタレスにオーガは、苦笑しながら大丈夫だよと答える。とびっきりの笑顔で、行ってきますと告げて森を離れるオーガを彼等精霊達は、姿が見えなくなるまで見送っていた。

もう、二度と会えないかもしれない、人間の養い子の無事を祈りながら…。

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