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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
滅びゆく王国の悪夢
59/126

親子の悪戯 後編

 風の騎士が加わり、屋敷の仕掛けは、一段と増えて行く。

その様子に屋敷の主は、頭を抱えていた。

敵を迎え撃つ為とは言え、からくり屋敷と化した今の屋敷へ、理由が理由だけに文句が言えずにいる。

然も、その主犯が自分の父親であれば、文句の付けようが無い。それに加え、風の精霊騎士と炎の精霊達までもが、楽しく仕掛けを増やしていく。

救いは、緑の騎士と闇の騎士が参加しない事だけであり、何時の間にか、炎の精霊と共に意外な人物まで加わっていた。

「ライアム、ここは、この仕掛けがあるから、気を付けてね。」

紅の髪の少女の明るい声が聞こえ、驚きと落胆の視線を送る。

「…フレィ様…何で貴女まで、ここに居るんですか?

いや、ここに居るのはいいのですが、何で仕掛けまで、作ってるんですか!!」

「え~~、ライアムを護る為でしょう?でも、わたしは作っていないわ。

わたしの精霊さん達が作って、わたしに報告してくれるのよ。で、ライアムが引っかからない様に、教えてるの。」

数多い罠の為、何処にどんな物があるか、逐一(ちくいち)教えてくれえる炎の神へ、苦笑を浮かべ反論を試みた。

「お気持ちは嬉しいのですが、フレィ様のお仕事は無いのですか?」

「え?わたしの仕事??今は、べルアの主を護る事よ。

勿論、ジェスやラールも承知しているわ。」

七神の内、守護神の異名を持つ神の名を言われ、エーベルライアムの目は、驚きの余り、点となった。はあ?っと思わず口にし、慌ててその口を塞ぐ。

その様子に炎の神は、楽しそうに告げる。

「あのね、今、この国で重要な人間は、貴方なの。

本来なら、ジェスかラールが警備をするのに、ここに来る筈だったんだけど、他の用事で来れないの。だから、わたしが来たの。」

「……若しかして、王宮に在ると言われている、邪気の所為ですか?」

「正解!あっちの準備をしているから、ジェス達は来れないの。

だから、わ・た・し。剣は、周りから扱う事を止められているけど、使える力は邪気に強いのよ。で、わたしが邪気から、ライアムを護るの。

貴方は、わたしの騎士のもう一人の主だから、わたしに取っても大切なの。」

少女神から大切だと言われ、これ以上反論が出来無かった。しかし、せめてもの反抗にと、エーベルライアムが彼女へ提案をした。

「でしたら、フレィ様にお願いがあります。「わたしが、認める事なら良いわよ。」 …勿論、貴女に強制は致しません。

あのですね…貴族の御令嬢の様に、着飾って頂けませんか?

ここは男ばかりでむさ苦しいので、フレィ様の様な美しい女性が、花を添えて頂けると嬉しいのですよ。」

「そんな事だったら、いいわよ。

ついでに、フレィラナア・アルーシア・フレィムルって名乗って、貴方の婚約者って役をしましょうか?そうしたら、敵さんの目も誤魔化せるでしょ?

あ…そうだわ、ライアムにもこれ、あげるわ♪」

そう言って少女は、紅金色の指輪を、エーベルライアムの左中指に付けた。

指輪には紅の石が填まり、目の前の少女と同じ色合いであった。この指輪から、尋常で無い炎の気を感じ、受取ったエーベルライアムは驚きながら尋ねる。

「これは…輝石製の指輪ですか?」

「そうよ。わたしの特製の護符よ。

べルアの主が決まった時、渡そうと思ってたのだけど、ず~っと渡せなくて…、やっと渡せたの♪わたしの力が宿っているから、邪気に強い筈よ。

べルアの主である貴方を、邪気に奪われたくないの。……駄目?」

可愛らしく首を傾げる少女へ、いいえと返事を返す。彼女の気持ちが嬉しかったし、何より、護符の色が、自分の騎士と同じ色合いでもあった事も、喜んだ起因であった。

信頼の置ける部下の一人であり、親友でもある炎の騎士。

その神である炎の少女は、彼の心内を知ってか、柔らかな微笑を浮かべていた。


「ライアム様、今、宜しいですか?」

扉から聞こえた声に、人払いしていたのを思い出し、入るよう促す。

入って来たのは、紅の騎士と、薄茶の文官。

信頼の置ける二人の部下が部屋に入ると、騎士の方は微笑を湛え、文官の方は驚いた顔をした。

「御来客でしたか…。御邪魔ではないのですか?」

薄茶の髪の部下の方が尋ねると、エーベルライアムは暫し考えて、先程の炎の神の会話から、悪戯を思い付いた。

微笑を浮かべ、彼女を紹介する。

「彼女は、私の婚約者だよ。

名はフレィラナア・アルーシア・フレィムル。愛称はフレィだよ。」

「そうでしたか…御美しい方ですね。

初めまして、この方の部下をしている、バルバートアと言います。

家は捨てたので、名前だけの身ですが。…?ライアム様、この方は、神に仕える炎の精霊様なのですか?」

気配に気付いたバルバートアが、神に仕える精霊と判断した少女は、楽しそうに彼等の遣り取りを見ていた。バルバートアの後ろでは、事情を知っているアーネベルアが、複雑そうな顔をしている。

主に遊ばれている親友が不憫になり、口を開こうとするが、少女の姿で止まる。

何か、言いたそうな彼に気付いた親友が、声を掛ける。

「べルア、如何したのかな?

………若しかして………ライアム様、私をからかいましたね。」

「何で、そう思うのかな?私は別に…。」

誤魔化そうと、真面目な顔を作るが、返ってそれが裏目に出てしまった。エーベルライアムが取った行動は、何か悪戯を仕出かした時に、隠す物であったのだ。

親しい人にしか見せないそれに気付き、バルバートアが先を続ける。

「こちらの御方は、貴方の婚約者ではなく、フレィリー様でしょう?違いますか?

…初めまして、炎の御方。今の混乱の最中で無かったら、もう少し、ましな対応が出来ましたのに…残念です。」

改めて挨拶をされた少女は、更に微笑んで、返事を返す。

「初めまして、貴方がバートね。

わたしの騎士とその主共々、お世話になってるわ。……べルアが褒める訳ね。

バートはほんと、良い子だわ♪貴方なら、べルアのお友達として、合格ね♪

バート、末永く、べルアとライアムを宜しくね。」

楽しそうに彼女が挨拶を告げた後、エーベルライアムの悪戯に口添えをする。

「あっと、さっきの設定だけど、他の人にはそう言っててね。バートの様な勘のいい人にはバレバレだけど、今回の相手なら、騙されてくれるわ。」

「はい、判りました、フレィラナア様いえ、フレィ様。

っと、え…と?べルア、君は、どんな風に私の事を、フレィ様に言ったのかな?」

炎の神に褒められたバルバトーアが、困惑気味に隣にいる騎士へ尋ねると、率直な意見が帰って来た。

「どんなって……バートのありのままをだけど?

何か、可笑しな事を言った覚えはないよ。」

「バートは、自分の性格に自覚ないから、仕方無いよ。

君はフレィ様に褒められる位、人を気遣う事が出来るんだからね。

…で、何用かな?」

反論の余地も無く、切り返されたバルバートアは、上司に尋ねられた用件を手短に話した。罠の四散と例の人物の動き、そして、民人の動向…ありとあらゆる情報が簡素に伝えられ、エーベルライアムはそれを聞き入る。

彼等の仕事風景に、フレィリーも無言で佇み、真剣な眼差しを送っていた。

そこに、先程までの無邪気な少女の姿は、無い。

炎の神としての、女性の姿であった。



 一通り報告を聞いた炎の女神は、着替えると言って、部屋を出て行こうとしたが、エーベルライアムは彼女に、服を如何するか問った。

ある程度は、彼女が用意した物で間に合うが、如何せん、最新の流行を追う御令嬢には見えない。その為彼等は、御針子を用意する事になった。

アーネベルアの実家である、コーネルト公爵家の御用達の者ならば、信用出来ると思い、彼女達を呼び寄せる。炎の屋敷に仕えている彼女等は、意気揚々として、エーベルライアムの屋敷へやって来た。

普段、男性物しか作れなかった彼女等は、久し振りに女性物のドレスが作れるとあって、嬉しそうに件の少女の寸法を測っていた。少女も慣れた物で、計測の間は大人しくしていたが、計り終わった途端、注文を付ける。

「頼みたい事があるのだけど…布と糸は、これを使って欲しいの。」

出された物は、色とりどりの美しい布と糸であったが、不思議な手触りと光沢、判る者には感じる事の出来る、様々な属性の力を秘めた物。

初めて見るこれらに、彼女等は感嘆の声を上げ、

「こんな高価な、美しい布を…良いのですか?

あ…コーネルト公爵様の遠縁の、御親戚の御方でしたね。失礼致しました。

是非、これで作らせて頂きます。」

「…まるで、神官様の纏う物の様ですね…、何だか、神聖な感じがしてきます。

任せて下さい、お嬢様をより一層、お美しくさせて頂きます!!」

と、意気込みを新たに、返事を返された。

彼女達の言葉に、少女は微笑み、お願いと嬉しそうに告げる。

その可愛らしさに、御針子達は、自分達の腕の見せ所とばかりに、色々なドレスの形や装飾を思案し始めた。

まさか、目の前の可愛らしい、紅の髪と紅金の瞳の少女が、実は初めの七神の一人だとは、誰も気付かなかった。


 採寸が終って、手元にあるドレスに身を包んだ少女は、御針子達にドレスを任せ、一旦部屋を出た。扉の外には、エーベルライアムとアーネベルアがいた。

彼等の姿を見つけた少女・フレィリーは、微笑んで彼等の方へ近付いた。

「べルア、ライアム、有難う。

後は、彼女達に任せるとして、御令嬢なら侍女が必用ね。レアはいるかしら?」

「ここに、フレィラナア様。して、誰を呼びます?」

風の穏業を使い、姿を隠して今までの遣り取りを聞いていたらしく、少女の偽名を呼ぶ風の騎士へ、彼女は用事を伝える。

「そうね…いざとなったら、剣を使える方が良いから…フレルか、フィレラかしら?でも侍女役となると……フィレラかしら?

フルレに敬語は、無理そうだから。」

「それなら、フレィ様の警護にフレル殿を、御呼びになったらどうですか?

フィレラ殿がフレィ様の侍女で、フレル殿がその騎士ならば、今の御時世では納得いきますよ。」

「そうだね、今は、色々とこの国が混乱しているから、フレィみたいな御令嬢が、婚約者の傍にいるのに、御両親が心配しない訳がないよ。

侍女と騎士の組み合わせが、一緒にいる方が納得させられるよ。」

アーネベルアとエーベルライアムの二人の役者に言われ、納得した少女は、名の上がった精霊を呼ぶ事に決め、風の精霊に頼んだ。

彼女等が来るまでに、この計画のもう一組の立役者達と、紅の少女を会わせる事にした。屋敷の一室で、獲物を待っている彼等の許へ、少女を誘い、案内して行く。

その部屋には、もう一組の策士達が、楽しげに会話をしていた。

「父上、もう一人、参加者が増えましたが、会わせて宜しいですか?」

何のとは言わずに、扉の前で告げるエーベルライアムへ、入って来いと声が掛る。それに従って、少女と共に入り、紹介を始める。

「彼女が増えた参加者…いえ、協力者です。

一応、侯爵令嬢という身分で、私の婚約者としての役を、担って貰います。」

「初めまして、フレィラナア・アルーシア・フレィムルと申します。

どうか、フレィと呼んで下さい。」

微笑を浮かべ、丁寧にお辞儀をする少女に、コーネルト公爵が頭を抱えた。

彼の様子と少女の容姿で、マーデルキエラ公は直ぐに、目の前の令嬢が誰か悟った。そして、楽しそうな微笑を浮かべ、ある提案を思い付く。

「フレィラナア嬢、どうせなら、現存の貴族の名を使わんかのう。

コーネルト公か、レントガグル候とか…のう。」

「一応、見た目から考えて、コーネルト公爵の遠縁の親戚としていますが…そちらの方が宜しいのですか?相手にも隙を与えた方が、面白いと思いますの。

それに…この名は、判る人には判る様になってますから。」

その言葉に、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべるマーデルキエラ公は、名の意味が判っていた。コーネルト公爵は姿だけで判っていたが、レントガグル候は、この名で気が付いたらしい。

フレィラナアとフレィムル…それは、炎の神が創る輝石を示す名。

フレィラナア・ラザリア───炎の結晶と、フレィムル・クルーレア───炎を閉じ込めた水晶の名。

彼女の姿と同じ、紅の石と紅金の石が、彼女の髪で誇らしく光る。自らの輝石細工の髪留めと、胸飾りをさり気無く身に着ける少女は、コーネルト公爵へ目を向ける。

意図が判った彼は頷き、言葉を返す。

「フレィ様…いえ、フレィ。ライアム様の事を、宜しくお願いしますよ。

私の方で、身分の詐称をしますが、くれぐれも無茶をしないように。」

「ええ、判りましたわ、伯父様。べルアとライアム様の事は、任せて下さいね。」

簡単な遣り取りが終わり、ぼそりとマーデルキエラ公が本音を漏らした。

「仮とは言え、こんなに綺麗で、可愛い娘が婚約者とは…・。

儂の息子には、勿体無いのう。」

「父上、聞こえてますよ。

どうせ、私には、フレィのような可愛い女性は、似合わないですよ~だ。」

「そんな事はないわ。ね、べルア、アレント伯父様、マルディ小父様。」

親子の他愛の無い言い争いに、可愛らしく婚約者の援護をする彼女に、残った者は同意の頷きをする。

今いる偽の婚約者の様に何れは、エーベルライアムの傍らに立つ女性を思い描く彼等は、今の少女の様な、可愛らしい女性が似合いだと考えていた。

確かに、神々でなければ、コーネルト公爵家の血族と言っても、頷ける容姿の少女は、傍らの王族とお似合いであった。



 他の面子と対面を果たした炎の神は、彼等の悪戯に楽しそうに加わっていた。

その後、(ほむら)の騎士である女性が二人、加わる事になり、より一層エーベルライアムの屋敷は賑やかになって行く。  

※補足・フレィリーの持って来た布と糸は、光や闇、炎の等を紡いで作られる特別性の物で、神々と神子、そして神々に仕える神官と巫女のみが、纏える物ですよ~。

ある意味、二人目のお針子さんの台詞は、正解です。

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