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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
滅びゆく王国の悪夢
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戦の開始 前編

 精霊騎士達とアーネベルア達が、共に行動するようになった3日後、この国・エストラムリアは、周りの諸国に攻撃を仕掛けた。

忌まわしき国に反感を持っていた周りの諸国は、かの国の王族と思われる者を匿うエストラムリアに対して、連帯を深める動きを始めるが、時、既に遅かった。

戦が始まって直ぐに、エストラムリアは隣の国のレーランフィールを打ち負かし、そして周りの国々を次々に併合して行った。

当初、負け戦と思われた物も、いざ蓋を開けると、エストラムリアの圧勝で終わり、次なる国へと兵士達が進軍して行く。

その背後にはオーガと言う、邪気を纏う精霊がいたとは、知られていなかった。

彼は一番最初の戦で、指揮を執る将軍が使えない事を知り、彼を魁羅として操ったのだ。負けると、簡単に予想出来る作戦を立てる指揮官など、要らないとばかりに術を掛け、操り始める。

表だって行動する事を避けつつ、魁羅を使い勝利を収めて行く。

まさか、成人前の10代の少年の手によって、戦が勝ち進んでいるとは、誰も思わない。熟年の将軍の手に依る物と、思われていた方が、色々と暗躍しているオーガにとっても、都合良かった。

己の正体を知られずに事を運べるこの術で、多くの人々を操り、戦を進めていく。民からは兵士となる者と、その支度金としての税金を搾り取る。

そうして、国と王へ向けられる、民の反感も増やしていった。

負け戦で無い為、民も表面的には王を指示しているが、心の奥底では国王から離れて行く。重税と言う枷を填められ、家族を奪われる彼等は、次第に国を揺るがす者へと変貌して行った。





 最初の戦が始まる前に、市井へ降りていたエーベルライアムは、父親とその知人である人物達と再会していた。

アーネベルアに頼み、炎の精霊を駆使して、やっと今、この主の館には、元将軍であるレントガグル候とその副官であったコーネルト公、そして、彼等の主・マーデルキエラ公が顔をそろえていた。

見知った顔触れに、一応真面目な顔で挨拶をするエーベルライアム。

「お久し振りです。レントガグル将軍殿、コーネルト副将軍殿。

そして……・マーデルキエラ公。」

「…お前と言う奴は…(わし)が一番最後か!

全く、儂にも他人行儀で、未だ本名を名乗らず、平民として陛下に仕えるとは…。

まあ、国の為に王宮から離れたのは、正解じゃな。」

少々白い物が混じっている、元王族らしい豪華な金色の髪と厳しい緑の瞳が、エーベルライアムを捉える。彼が普段の様に受け流していると、レントガグル候が、二人を見比べていた。

マーデルキエラ公と呼ばれた人物に目を向け、薄金の髪の青年へと、交互に目を移すレントガグル候は、何かを探っているように見えた。

「セルドリケル殿下…あ…いえ、マーデルキエラ公は、エーベルライアム・シエラバレド・カレミアム殿とは顔見知りで?」

レントガグル候から、不思議そうな顔で尋ねられたマーデルキエラ公は、まだ彼に教えていない事を思い出した。

「おお、そうじゃった。ディガンには教えていなかったな。

この小倅(こせがれ)は儂の長男じゃ。本当の名をエーベルライアム・シエラバレド・キャフェア・イロア・マーデルキエラというじゃが…未だこの名を使おうとせん。」

「……父上、そんな長ったらしい名は、要りません。

自分の名前を名乗る度に、舌を噛みそうで、使い辛いですよ。もう少し、短く出来なかったんですか?」

「お前は…王族としての自覚は無いのか!」

「有りませんね。生まれた時から、身分関係なしで、色々学びましたから。

父上達の教育の賜物でしょ?」

親子の他愛無い言い争いに、コーネルト公が笑いを堪えていた。会う度に遣っているこの会話は、目の前の親子の日常と化していた。

故に、良く目にしているアーネベルアとその父には、珍しい物では無かった。

しかし、元将軍と元近衛騎士達は、この遣り取りに目を丸くして、驚いていた。

元近衛騎士達は一応、エーベルライアムが王族である事を聞かされていたが、その父親との対面が、こんなにも面食らう物だとは思わなかったのだ。

笑ってはいけないと思い、彼等も必死で堪えていたが、それに気付いたエーベルライアムは、彼等に忠告した。

「笑っても構わないよ。この人とは普段から、こんな感じだからね。

会うといつも、本名を名乗れって、五月蠅(うるさ)いんだから。」

「五月蠅いとは何じゃ。お前が名乗らないのが、いけないんじゃ。」

「…父上、彼等にはちゃ~んと、名乗ってますよ。…何か、文句ありますか?」

思わぬ反撃で、父親の方は口籠ってしまった。してやったとばかりに今度は、子供の方が口を開く。

「で、父上。貴方々を呼び出した理由ですが…。

叔父上の動きが、活発になっている事は御存じですね。」

確信を突いて本題に入る我が子に、セルドリケルは頷き、傍にいるコーネルト公とレントガグル候へ目配せをする。

既に知っている弟の動きに、彼等も何かしら考えを巡らせていたようだ。

隠居の身でも、情報だけは集め(まく)る、自分の親に感心しながら、エーベルライアムは後を続ける。

「その叔父上の件なのですが、この度の戦に何かしら、便乗して来る様なのです。

まあ、あの人の事だから、色々節穴がありそうですけどね。」

「ああ、その事なら今、罠を仕掛けている最中じゃ。

あの馬鹿、未だ己が王の器だと信じておる。良い加減、引導を渡してやらねばならんと、思うておった所じゃ。

丁度良い機会じゃし、あ奴に儂が存命だという事を、嫌という程、知って貰わねばならんからな。」

楽しそうに告げる、元王族に旧知の者は、その顔に笑みを浮かべていた。彼等の様子に、エーベルライアムも微笑を浮かべ、

「じゃあ、叔父さんの件は、そちらにお任せしますよ。

如何せんこちらは、王宮と民衆の方で、手が足りない位なのですから。」

と、本音を漏らした。民衆と聞いて、集められた壮年の男性達は、思い当たる事があったようで、承諾の即答が返って来た。

全て任せろと、言わんばかりの態度で告げられたエーベルライアムは、今抱えている問題に専念する事に決めた。



「しかし…あ奴の事は良いとして、今の王宮の状況は…余り芳しくないのう。」

この屋敷から、遠くに見える王宮を見つめながら、元王族であるセルドリケルは呟いた。自分がまだ、王宮に住んでいた頃を思い出しての言葉なのか、判断出来無かったが、現状は彼の言葉通りであった。

今回の戦や、エーベルライアムが城を離れた原因を考えると、国王が義務を放棄しているとしか、思えなかった。

国民を護る義務…それを放棄した国王は、民衆によって滅ぼされる事が多い。

歴史の中の王に、そういった者達が見受けられる。神々、特に運命を握るという、時の神の用意した罰だと言われているが、定かでは無い。

しかし、そう言った王からは、自然と民衆の心が離れて行く事は事実であり、何らかの形で国が変わって行く事は避けられない。

彼の考えを察したのか、エーベルライアムは、新しい事実を齎した。

「私の側近が、精霊騎士の方々から、聞いた話があるのですが…今の王宮には、邪気が蔓延っているようですよ。

若しかしたら、神々の介入も、あるかもしれません。」

最悪な事態での神々の行動が伝えられ、彼の父親とその騎士達は、考え込んでしまった。邪気を含んだ者がいるとなると、更に情勢は悪化する。

国を滅ぼしかねない事態に、彼等は頭を悩ました。

彼等の様子を見据えて、エーベルライアムが言葉を放つ。

「情勢が悪化するなら、この国を新たな国へと変える所存です。

今は、それも念頭に置いて行動しています。その折は父上か、他の王族の方に、先頭を切って貰います。」

「断る。儂じゃあなく、お前が立て。

お前も王族なのじゃぞ。まあ、儂等の教育でその自覚は、全く無いのが残念だが、一応人の上に立つような教育は施した筈じゃ。

帝王学までは行かぬが、似たような物を教えておる。その証拠が、今のお前の行動じゃ。…違うかのう?」

返された言葉に、エーベルライアムは周りの者達を見遣る。

父親の騎士達は勿論、炎の騎士も、自分の側近でさえ、それを認めているようで、父親の言葉に頷いていた。

彼等の行動に溜息を吐き、彼は反論した。

「冗談じゃあないよ。私は王の器じゃあない、あんな堅苦しい事は、真っ平御免だ。

父上もそれは承知でしょうに…貴方譲りなんですからね!!」

「じゃがのう、お前以外、王の器はおらんのじゃよ。

まあ、時間はまだある故、考えておけ…。」

父親から暗に、覚悟を決めろと言われた気がしたエーベルライアムは、先程より大きな溜息を吐いた。

件の叔父では、王として立たせる事は出来無い。

かと言って、自分が立つのは嫌だ。

そんな思いが、頭を満たしかけた。しかし、今はそんな事を考えている暇は無い。

目の前に山済みの、大きな問題を解決する方が先だと、この話を保留した。

後に彼は、それを後悔する事となる。

まさかの行く末に、時の神は微笑んでいた。


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