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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
滅びゆく王国の悪夢
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風と緑と闇の精霊騎士達 前編

 暫く、炎の屋敷に滞在する事になったバルバートアが、支度を済ませる頃、辺りは夕刻へと近付いていた。

荷物を精霊に任せ、騎士達と屋敷へ向かうバルバートアは、ふと、王宮を見た。

そこにはまだ、彼の義理の妹弟がいる。

彼等を思い、バルバートアは、今後の行動の一端を始める事を再決心した。

それは茨の道であり、決して楽な物で無いと彼は知っていたが、兄弟の幸せの為には、必要であり、彼自身が出来る事。

始まる戦を止める事は出来無いが、彼等がこの国でいられる為に出来る事。

この為には、精霊騎士達と会い、あの情報を確かめなければならない。

バルバートアの心は、これから会う精霊騎士達の事で、いっぱいになっていた。



 炎の屋敷に返って来た彼等は、(それぞれ)々与えられた部屋で休む事にした。

食事を終え、部屋に帰ったバルバートアは、弟のハルトべリルの訪問を受けた。久し振りの兄弟水入らずの状況の為、その訪問を嬉しく思っていた。

「ハルト、何か、聞きたい事があるんじゃあないのかな?」

口火を切った兄の言葉で、ハルトべリルは心に蟠っていた事を話す。

「兄上、オーガの事なんだけど…

あの子は本当に、あの忌まわしき王族じゃあないんだな。」

「私は、そう推測しているよ。

あの子が語った身の上は、あの王族を示すけど、あの子自身は否定しているし、あの剣も譲られた物じゃあなく、最初っから。あの子の物だと思っているんだ。

だから、もう一つの噂を確かめたくて、べルアに頼んだんだよ。私じゃあ、精霊騎士の方々を呼び出す事すら、出来無いからね。」

兄の話に、ハルトべリルは納得し、ある事に気が付き、疑問に思った事を口にする。

「兄上は、オーガの告げた身の上の方が、嘘だと思っているのか?

じゃあ、あの子は、精霊の血筋じゃあないのか?」

弟の質問に頷き、兄は話を続ける。

「今調べている噂では、あの子は精霊の血筋じゃあないんだ、生粋の精霊か、精霊に育てられた人間…然も、神々に愛された者らしいんだ。

まだ…本当か如何か、判らないけど、これを確かめるには、精霊騎士に聞いた方が良いんだよ。偶々出会った冒険者の精霊達から(もたら)された噂で、特定の精霊騎士の方々が知っているって事だから。」

「だから…べルア様に頼んだのか…。

兄上が人に頼み事をするなんて、剣に関して以外は珍しいからな。しかし…神々に仕える騎士達か…強いのだろうな…。」

剣に関して、無類なる興味を持つ目の前の弟に、相変わらずだと兄は苦笑する。

自分に熱い視線と送る御令嬢など、目に入らず、剣豪と聞くだけで、その相手に興味を持つ。しかし、その弟が認めた者は、数少ない。

アーネベルアを筆頭に、レナフレアム、ウェールムケルト、レニアーケルト…今回、共に王宮から出奔した、熟練の者達のみ。

ふと、バルバートアは、オーガの事を思い出し、彼に尋ねる。

「ハルト、オーガの剣の腕は、どんな物だったのかい?あの、忌まわしき国の近衛騎士に、怪我を負わせるくらいだから、かなり強いのだろう?」

「う~ん、べルア様に負けてるから、そこそこかもしれない。

フレアム殿と同じ位かな?兄上、あの子は本当に、あの国の近衛騎士に、怪我を負わせたのか?」

意外な答えを聞いて、彼は炎の屋敷での出来事を思い出し、その時剣を持っていた腕を聞いた。

「そうだけど…ハルト、べルアと手合わせした時、あの子はどちらの手で、剣を持っていたのかな?」

「右手だが…それが如何したんだ?」

「ハルト、あの子の利き腕は左だよ。

あの騎士を撃退したのは、利き腕での剣だったんだよ。」

「な…それじゃあ、あの子は…。」

ハルトべリルの呑み込んだ言葉に、バルバートアは真剣な顔で答える。

「あの子は、自分の実力を隠している。

人を傷付けるのが怖いから、普段は利き腕での剣を、封じているらしいよ。」

「という事は、兄上を助ける為に敢えて左で剣を扱い、相手に傷を負わせた…か。

優しいんだな。」

兄を助ける為に封じている利き腕を使い、相手を倒した…その事実はラングレート家の兄弟に、信頼と言う感情を齎せた。

それと同時に彼等から、溺愛の対象として、完全に認識された様だ。

義理では無く、本当の弟…その弟の身を案じる彼等は、自分達がやれる事に専念しようと、心に決めていた。



 一夜明けて、滞在人数が増えた炎の屋敷は、嬉しい悲鳴を上げていた。

余り他人を泊めない主だけに、友人と呼べる人々と、部下である少年達は歓迎されていた。料理人は腕の振るい甲斐があると感じ、朝から張り切って食事を作り、使用人達は毎日の掃除の甲斐があったと喜んでいる。

整った部屋と、豪勢な食事に驚きながらも、彼等はそれに感謝する。

主と言えば、普段から彼等には申し訳無いと思っていたらしく、客人の扱いに口を出す事はしない。

それ程、丁重に扱っている使用人に、感謝すれど怒る気は無い。

主の立場上、滅多に彼の家族以外の客人が泊まらない屋敷では、大歓迎であったようだ。長年、この屋敷の家令を務めている者ですら、やっと主の御友人が泊まられたと、感涙する位なのだ。

炎の神に祝福された者であり、炎の騎士であるアーネベルアに、心を許す友人が出来た事を、屋敷の使用人達は心から喜んでいる。

それが彼等の対応に現れていた。特に仕事以外で、二回目の訪問であるバルバートアの扱いは、格段であった。

「べルア…気の所為じゃあないと思うのだけど、私達って、ここに仕えている人達から、大いに歓迎されていないかな?」

「バート、気の所為じゃあないよ。

私が友人を泊めたのが初めてだから、彼等も喜んでいるんだよ。…まあ、友人と呼べる相手が出来た事を、喜んでいる節もあるけどね。

私の立場だけに、一線を置く客が多かったから、余計だろうね。」

今までの経緯を淡々と述べるアーネベルアに、ああ、そうだったねと、相槌を打つバルバートア。彼が普段気にしていない、神の祝福を受けた者でもある、炎の騎士の立場を気に掛ける輩を思い出した。

「…そんなにべルアの立場って、特殊だったかな?

私はべルアはべルアであって、神の祝福とか、炎の剣の担い手だとか、関係ないと思うのだけど。」

「そう思うのは、バートとハルト、レニアだけだよ。

ウェール達は、尊敬出来る者として捉えているけど、他は畏れるか、利用するかしか、思っていないと感じるよ。」

バルバートアの自分の考えを言うと、アーネベルアから、一般的な意見が帰って来た。その意見に不思議そうな顔をする彼へ、レナフレアムが声を掛ける。

「バート殿の意見が、特別なんですよ。

私は主であるべルア様の傍にいるので、その事を知っていますが、大概の人間が、べルア様の言った通りの対応ですよ。ですから、この様に友人として、信用出来る方が少なくなるのは、当たり前だと思います。

中でもバート殿は、特に親しい間柄だと、私は思うのですが…。」

光と炎の精霊剣士の言葉に、バルバートアは驚いて、自分の意見を述べる。

「え…そうなの?私の対応は、普通だと思っていたんだけど…違うのかな?」

「バートの対応は特殊だよ。

まあ、そのお蔭で、私は助かっていると言えるのだけど…。そうだ、フレィ様が、バートに会いたいって、言っていたよ。

今抱えている事が全て終わったら、あの方に会ってくれないかい?」

炎の神との約束を告げるかの騎士へ、バルバートアは承諾の頷きをした。

その時、急に表側が騒がしくなり、アーネベルア達がいる部屋へ、炎の精霊剣士が慌てた様子で入って来た。


「べルア様、御寛ぎの処、申し訳ありません。け・結界が突破されてしまいました。

賊は誰か判りません為、捜索中ですが、かなりの手練れだと思われ………。」

精霊の言葉が途絶え、その視線が、部屋の窓の方向へ釘付けとなった。驚いた顔の彼の視線を辿り、アーネベルア達がそこへ顔を向ける。

窓の外のバルコニーには、真っ白な髪と真っ黒な髪、そして緑の髪の三人組が佇み、白い髪の者が軽く窓を叩いていた。賊と聞いて、剣に手を掛けていた騎士達は、その登場の意外さと、彼等の姿に驚いていた。

一人は、白い髪と虹色の瞳…、生まれながらにして、風の神の祝福をその身に受けた者だと判る、青年の姿で、真っ白な騎士服に白と虹色の精霊剣を持ち、その装飾は虹色の渦巻の様な物であった。

もう一人は、黒い髪と青銀色の瞳…、生まれながらにして、闇の神の祝福を受けた者だと判る青年姿で、真っ黒な騎士服に黒と銀の精霊剣を持ち、その装飾は青銀の月と金色の星であった。

残りの一人は、緑の髪と緑の瞳…、木々の精霊だと判る青年の姿で、真っ緑の騎士服に緑と紫の精霊剣を持ち、その装飾は薄緑の蔦と紫の葡萄の房であった。

風の祝福を受けた青年は、笑顔で再び窓を叩く。

その様子に、精霊達は頭を抱えた。

「……相変わらず、騒がしい御登場ですね……騒動を起こさずに、正面から御越しになられたのなら、此方もいらぬ心配をせずに、済んだのですが…。」

炎の精霊の声に、アーネベルアは、窓にいる精霊が敵で無い事を知り、周りの者に剣を収めさせ、窓に近付く。

彼等を招き入れるように窓を開け、件の騎士達へ挨拶をした。

「ようこそ、御出で下さりました。風の騎士・エアレア様と、闇の騎士・アレスト様と、緑の騎士・ランシェ様と御見受けします。

初めまして、私は生まれながらにして、フレイリー様に祝福されし者で、炎の剣の担い手のアーネベルアと申します。」

告げられた挨拶に、風の騎士は微笑を湛え、挨拶を返す。

「初めましてだね。ご察しの通り、私はエア様に仕える、風の精霊騎士のエアレアだよ。で、こっちの二人が…」

「初めて、御目に、掛る。自分は、リダ様に、仕える、闇の精霊騎士、アレスト。」

「初めまして、私はリュース様に仕える、木々の精霊騎士のランシェと申します。

エアレアの所為で、お騒がせて、申し訳ございません。」

人当たりの良い笑顔で対応する風の騎士と、無表情で対応する闇の騎士と、謝罪を入れる緑の騎士。彼等は仕える神も様々であったが、服装や姿、態度と言葉使いも個性的であった。

片や柔軟と言えば聞こえがいいが、軽い口調と、片や短絡的で堅苦しい口調、残る1人は気遣いを見せる対応で、口調も丁寧であった。

全てが異なる彼等は、敵対しているで無く、仲の良い一面が見え隠れする。

暴走気味の風の騎士と、その彼を(いさ)める緑の騎士、辺りを見回し、何かを確かめている闇の騎士。

役割を分担しているように見える彼等に、騎士達も警戒を解除した。

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