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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
滅びゆく王国の悪夢
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騒動の始まり 後編

 何時もの様に彼等と食事を摂り、再び部屋へ戻ると、人影があった。警戒をしつつも、その姿を捉えるオーガだったが、意外な人物であった。

昨日会った、あのディエアカルクの国の者…オーガへ忠告をしたものだった。

「オーガ殿下…無礼を承知で、忍び込ませて頂きました。

ああ、此処に潜んでいる密偵達とは、何ら関わりの無い方法を取って参りましたので、彼等には知られていません。」

「何故、ここへ?それと、私は殿下ではありません。

只のオーガ、オーガ・リニア・ラングレートです。御間違えの無いように。」

この期に及んでもラングレート家の養子であり、ディエアカルクの皇子では無いと言い放つオーガへ、苦笑を交えながら、彼は告げる。

「では、初めまして、私の以前の名は、ケフェルナイト・ディグア・フェーンディアです。今は…只のケフェルですがね。」

皇子と認めないオーガへ、初対面の挨拶をし、正式名を以前の名と言い、今は名前だけの存在と示し、己が家を捨てた者と教える。

真偽を疑う目を向けながら、目の前の男の心を調べるオーガ。

嘘を吐いていないと判りながらも、自らは否定の言葉を続ける。

「では、ケフェル殿。

名のみの身の上になった貴方は、何故、私を殿下と呼ばれるのですか?

私は、無関係な者ですのに…。」

「そうですね…何もかも捨てた筈なのに、貴方の存在を知ってしまったら…あの皇子の事を思い出してしまい、我が身に流れる血が、あの方を求めたって所ですか。

纏う気、その姿も同じ貴方に…私の力をお貸ししたい…。

貴方が望む道、貴方が幸せになる道…それを私達は望みます。」

私達と聞いて、怪訝な顔をするオーガへ、彼は微笑みながら告げた。

「無論、貴方の義理の兄君を傷つけた者達と、私達は違います。

我等は、ディエアカルク・クェナムガルア・リデンボルグ。

彼等に、無能者として虐げられし者。我等は…リデンボルグは、人間を母に持つ王族と共にあり、その王族の幸せだけを望む者。

貴方が望むのなら、王国の復興に手を貸しましょう。

ですが、それを貴方が望まないのなら、彼等の障壁となり、貴方を護ります。」

彼の言い草に、オーガは沈黙し厳しい目を向け、彼の言葉に考えを巡らす。

「…王国の復興等には、興味ありません。私は只、今の生活が大事なのです。

貴方々は…私が、あの王族で無いと知っても、私の力となるというのですか?」

利用する事が出来るのなら、それも良いと判断して紡いだ言葉は、ケフェルに暫しの沈黙を与えた。あくまでも、かの王族で無いと主張する少年に頷き、膝を折る。

「私は今まで、彼等が無関係な者達を王侯復興の為に、犠牲にして来た事を許せないのです。今度もまた、殿下に似た少年の貴方と、妃殿下に似た女性…貴方の姉君を犠牲にしようとしているのが、判り切っているのです。

それを見逃す事は出来ません。彼等はどんな手を使ってでも、貴方々を王族に奉りたて、王国を立て直そうとするでしょう。」

「…迷惑な話です。

ケフェル殿、貴方々は、私が望めば彼等を阻止すると、言われるのですか?」

「はい、我等は王国の復興等、望みませんが、貴方がそれを望めば我等は嫌でも、彼等と手を組まなければなりません。

全ては貴方の御心次第です。」

深々と頭を垂れて言われ、オーガは即答する。

「私は、あの国が再び現れる事を望みません。

只、彼等が捕われる事を望みますが、それは今ではありません。今動くと彼等は逃げてしまい、元の木阿弥になってしまいます。

だから今は、泳がせておいて下さい。」

「危険です。彼等は微々たる物ですが、精霊の力を持っています。

それを使われたら、人間である貴方が…?精霊の気配が強い??」

普段は人間の中で生活する為、態と人間の気配を強めているが、それをほんの少し、元に戻した。

アーネベルアの屋敷で、教えて貰った事を、日常でも活用している。

大地の精霊の気を押し出し、本来の木々の精霊の気を混ぜる。

人間の気配が弱まり、精霊の物が強まる方法で均衡を取ると、跪いている男は驚く。あの王族ではありえない、気配の変化…精霊の血が強くなければ、出来無い変化を見せつけられ、彼を見つめるだけであった。

「判ったでしょう、私はあの王族とは、何の関係も無い事が。

この剣も、正真正銘、私の剣です。故に、真の意味でこの剣を持てない彼等では、私に太刀打ち出来ない…違いますか?」

「いえ、おっしゃる通りです。……オーガ殿、いえ、オーガ様。

微々たる物ですが、我等の力、存分に御使い下さい。」

まるで、忠誠を誓うようにも聞こえる言葉に、オーガは苦笑した。

それを指摘すると、彼は微笑んで答えた。

「オーガ殿下に似ておいでの貴方なら、忠誠を誓っても良いと思っています。

精霊の貴方なら、我等の悲痛も判って下さる…違いますか?」

ケフェルの言ったあの国の虐げられた者とは、正当な風の精霊の血を引く者…即ち、強制で無く、愛情で生まれたという境遇の者達を含んでいる。

人間同士の血族も同じ。

この事は、オーガもあの国々へ意識を巡らせている時に知った。

彼等の望みは、あの王国を滅ぼす事であり、それが達成した今は、復興を阻む為に暗躍している。王国にいる時は精霊の力を隠し、全く力を受け継が無かった様に振る舞っていた彼等。

その一人が目の前にいる。

一瞬見た虹色の瞳は、風の精霊の物。

それを受け継ぐ事は、精霊が愛情を持って、彼の親の伴侶になった事を示す。

ふと、跪いている彼の肩へ手を伸ばす。

触れる肩から感じるのは、風の精霊の力。

表面に出ている物は微々たる物であったが、邪気のお蔭で、闇の精霊の力を得たオーガは、相手に触れると、奥底に潜んでいる物を感じ取れた。

何かしら、封印を施されているそれを、己の無に帰す力で失くす。封印が解け、本来の力が戻ったケフェルは、顔を上げ、驚いた表情のまま彼と向き合った。

「これは…一体…?」

「貴方の心の奥に、力の封印がありました。それを消しただけです。

恐らくは、その力を悪用されない為に、親御さんがなされた事でしょう。その力を持っている事を知られると、あの亡き国では無体を強いられる事でしょうから。」

言われた事に納得して、男は自分の体を巡る強い風の力に、微笑む。

微々たる物しか、受け継がれていないと思っていた、精霊の力。

それがあの者達より、遥かに強い物が隠されていたと判り、狂喜した。

だが、彼等に見せる訳にはいかない。

これを使うのは、目の前の主の為のみ…。

例え仮の主だとしても、いや、(まこと)の主として、この力を齎してくれた存在に、そのままの姿勢で忠義を誓う。

「オーガ様、仮ではございますが、貴方様に忠誠を誓わせて下さい。

いえ…例え我等の忠誠は仮としても、私の忠誠は貴方様だけに捧げたい。然るべき目的を遂げた暁には、私は貴方様の許へ馳せ参じます事を、御許し下さい。」

かの者達を葬った後に、オーガの許へ来るという男に、内驚いていたが、直接の手駒が増えた事に喜んだ。彼が邪気を持つ身と判れば、離れるであろうが、それまで使えると考えた。

「その心、本心であれば、許そう。

ケフェルナイト、我が僕として、仕える事を許可する。」

剣を捧げていない為、その肩に左手を置くオーガ。

彼の行動でケフェルナイトは、心の奥から湧いて出る喜びに満たされた。

(しん)の主を得た精霊の感覚…初めてのそれだったが、本能で判った彼は、己が主人を見つめる。この少年が、例え邪気を纏おうとも付いて行こう、そう心に決めた。

目の前の男の意外な想いを感じ取り、オーガは無表情になった。

今はそう思えても、いざ、この身が邪気を持つ事を知ればこの男も離れる。

あの、精霊騎士達も自分の邪気に恐れ、慄いていたのだから。…いや、恐れていた訳では無いかもしれない。敵として見做されただけかも…。

そう考え、目の前の、風の精霊と人間の混血児も、同じ様になるのではないかと想像していた。

まあ、敵となれば、容赦なく切り捨てる事は決まっていたが………。


 仕える事を許された男は、来た時と同じく風の力を使い、王宮を去った。

それを確認したオーガは、王宮の結界の内側に、己の結界を施した。

誰にも認識出来無い様、元からある結界に沿わせ、精霊の血を持つ者の認識を混乱させ、精霊の侵入を阻む物を張る。

王宮に仕えている精霊のそれと、あの男を例外とした結界は、最後の日まで有効な物となった。侵入した精霊騎士達に破られるまで、結界はそこに存在する事となる。



 王国が滅びの道を歩む、その道標と駒は揃った。

後は、オーガの手により、その歩みを早めるのみであった。

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