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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
滅びゆく王国の悪夢
45/126

騒動の始まり 前編

新章に突入です。

 翌日、早朝訓練を終えたオーガは、昨日言われた通り、アーネベルアの執務室へ、エニアバルグとファムトリアと共に赴いた。

そこには既に部屋の主と、光と炎の精霊が座っている。

今日はまだ休みであったが、一応上司の呼出なので、彼等は制服を着用していた。

「良く来たね。で、昨日の事なのだけど、報告出来るかな?」

微笑を添えてアーネベルアから、告げられた言葉にオーガは、両脇の二人から先に言うよう催促をされた。意を決して口を開いた彼は、一番先に謝罪した。

「勝手に行動して、申し訳ありませんでした。

その…渡された手紙が手紙だったので、一人の方が良いと、判断しての行動だったのですが…迂闊でした。」

そう言って、あのリボンの群れに紛れた手紙を、アーネベルアに渡した。

用件だけを簡素に書かれたそれに目を通し、納得したように頷いた彼は、溜息を吐く。

オーガの行動は判らないでも無いが、相手が誰か不明の呼び出しに態々出向くとは、大丈夫なのかと思った。

無言になった目の前の上司へ、オーガは続ける。

「この手紙…多分、あの国の者からだと考え、私が囮になれば、王国復興を願う彼等を捕まえる事が、出来ると思いまして………。

だけど、まさか…バート義兄上いえ、バルバートア殿が、怪我をなさるなんて、思わなくて…。心配と御迷惑を御掛けして、申し訳ございません。」

「そうだね…勝手に行動したのは駄目だけど、彼等を捕まえようとしたのは正解だね。あの国を再びと、思っている残党は、神々からも捕える様に言われている。

王国復興を望まない者は放置しても良いけど、君があの殿下に疑われている以上、復興を望む輩が接触するよ。」

「…私も、それが問題だと思っています。

私はあの国の王族とは、何の関係もありませんし、今の生活を望みます。ですが、もし、この国に迷惑が掛るなら…姉共々、この国を出ます。」

覚悟を決めた様に言うと、アーネベルアから、返事が掛る。

「この国を出る事に関しては、陛下から、御許しが貰えないかもしれないよ。

君の姉上は、陛下の唯一の寵姫であるから、手放す可能性は低いね。」

告げられた返事に無言になり、俯くオーガへ、軽い痛みが走る。

頭に何か当たったらしい痛みに、顔を上げると、呆気に返っているレナフレムと、笑いを堪えているアーネベルアが見えた。両脇を見ると、ファムトリアは頭を抱え、エニアバルグが怒った顔をして手を上げていた。

「オーガ、この国を去るなんて、軽く言うな!お前は、この国の住人だろう?

あの国とは、関係ないんだろう?だったら、堂々としてればいいだよ。

逃げたりなんかしたら、余計に疑われるぞ。」

「…エニア…そうだね、判ったよ。でもね、頭…痛いんだけど…。」

「判ったなら良い。痛いのは、我慢しろ。」

ついでに叩かれた文句を言うと、反論が帰って来る。その遣り取りで、我慢出来無くなったらしく、アーネベルアの方から、笑い声が聞こえた。

彼の様子に、傍にいる補佐官が叱咤する。

「アーネベルア様。彼等を叱るのでは、無かったのですか?

エニアバルグ、友人を叱咤するのは構いませんが、手を出すのが先なのは、感心出来ませんよ。」

「…申し訳ございません、レナフレアム様。」

精霊剣士の指摘に、シュンとなるエニアバルグに、ファムトリアが追撃をする。

「エニア、手が先に出る癖を直しなさいと、何度言われました?

分団長にも、御両親にも言われた筈でしょう?何故、直らないのでしょうね。」

彼の言葉に反論出来無いらしく、エニアバルグは押し黙る。その様子を見たオーガは、誰かと重なって見えた。

今は亡き、兄であるアンタレスとフォンア…アンタレスの癖は、エニアバルグとは違ったが、それを何時も注意するのが、フォンアだった。

懐かしい面影と、悲しみ…それが表に出ていたらしく、アーネベルアとレナフレアの視線がオーガへ集まった。

何かを思い出した様な、懐かしくも悲しい表情に、アーネベルアが口を開いた。

「オーガ君、如何したのかい?」

問われてはっとなり、理由を述べるが如何か迷ったが、素直に述べる事にする。

「…エニアとファムを見ていると…知人を思い出してしまって…。あの人達も良く、彼等みたいに、直らない癖に言い合いをしていて…それが懐かしくて…。」

そのまま顔を下げ、心の内から洩れそうな怒りを抑える。

人間によって、失われたものを思い出す事は、オーガの心の奥底に隠してある怒りが、湧き上がってくる出来事さえも、思い出す事になる。

目の前の、紅の騎士に気付かれてはいけないと、漏れそうな邪気ごと隠そうとした。その途端、不意に腕を掴まれ、顔を上げざる負えなくなった。

掴んだのはエニアバルグ、その顔には心配そうな表情があった。

彼の顔に、何時もの微笑を張り付ける。

「大丈夫か?泣いている…訳じゃあなさそうだな。」

掛けられた声に頷き、返事をする。

「大丈夫、私は…今、生きています。

だから…亡くなった知人の分まで…僕は…ここで生きて行きます…。」

感情を押し殺して言う台詞に、周りは納得した。

しかし、彼等は押し殺された感情が、悲しみで無く、怒りだとは気付かない。

一名を除いては……。



「オーガ君とファムトリアは、昨日の事を報告書に纏める事。

エニアは書かなくて良いけど、手伝おうなんてしない事。

期限は…そうだね、三日後に提出してくれればいいよ。」

今後の彼等のすべき事を言い渡し、御説教紛いの物は終わりを告げる。アーネベルアは彼等に退出を命じるが、オーガだけは何か言いたそうに彼を見つめる。

何度か視線を逸らし、意を決した彼は、アーネベルアに話した。

「…べルア様…私のような者が言うのは…礼に掛けると思いますが…あの…バルバートア殿の事なのですが…。」

彼が言おうとする事柄を、悟ったアーネベルアは、微笑を添えて答える。

「あの、忌まわしき者達が、狙う可能性があるって事かな?

私自身が動く事は出来ないけど、私の屋敷の精霊剣士達が、護衛に就いてるよ。

今、彼がいる屋敷には、私の知人が沢山いるから、用心の為に、数人の精霊剣士達が常時詰めているんだ。彼等はレナフレアムと同じく、私に仕えてくれている者達だから、安心して良いよ。」

義理の兄が、自分の為に狙われると思ったオーガの気持ちを、汲んだ回答が返って来た。ほっとして、安堵の微笑を浮かべる彼は、如何見ても兄想いの弟にしか見えない。

只…一瞬だけ、アーネベルアが感じた気配は、オーガが、あの忌まわしき国の皇子で無い事を、彼に知らしめた。

人間の気配では無く、純粋な木々の精霊の気配と…邪気。

気の所為だと思いたいが、一瞬だけの物だったので、定かでなかった。


先程の言葉で、安心したオーガは、アーネベルアの執務室を出て行った。

彼等が出た部屋では、アーネベルアが、レナフレアムに尋ねた。

「フレアム、オーガ君の事だけど…あの子、一瞬、気配が変わらなかったかい?」

「え…気付きませんでしたけど…変わったのですか?」

気付かなかったらしい精霊の言葉に、何かの間違いだったのかと思い、何でも無いと返すと精霊は、彼の机に何時もの通り、書類を置き始める。

それを見ながらアーネベルアは、オーガの気配の変化を考え出す。

一瞬しか判らなかった気配だったが、確かにあれは邪気であった。

オーガの顔は下を向き、その表情は見えなかったが、押し殺された怒りの感情を、アーネベルアは読み取った。恐らく昨日、ファムトリアが受け取った、怒りの気配と同じ物だと思った。

その事を踏まえると、ファムトリアは、神聖な者の怒りで震えていたのでは無く、本能からの恐怖の源…邪気に恐れていたのだと推測出来た。

先程感じた気は、アーネベルアにとって、身に覚えのある物。

そう、彼は炎の剣の主であるが故、普通の精霊には気付き難い、僅かな邪気も感じ取れるのだ。一瞬漏れ出したオーガの邪気…それを敏感に感じ取ったアーネベルアは、バルバートアが頼んだ一件を早めようと、考える事を止め、山済みになっている仕事を片付け出した。



 部屋に帰ったオーガは、素早く報告書を纏め、城を離れた間の出来事を傀儡を通し、確認していた。

如何せん、祭りの間は、エニアバルグとファムトリア、そしてバルバートアとアーネベルアの誰かが常に一緒だった為、傀儡との連絡が取れなかったのだ。

その中、不審な人物が王宮内をうろつき回っていた。

あの忌まわしき王国・ディエアカルクの手の者で、密偵と呼ぶに相応しい者だった。

上手く人間の気配のみ纏い、時にはそれを消して辺りを探っている様子を、オーガの手の者がさり気無く観察している。

当人はそれに気付かず、密偵としては如何かと思われるが、相手は邪気の傀儡。

操り人形に過ぎない為、普通の仕事の際に探られているとは気付けないのだ。

流石に王国復興を願う輩と思い、そのまま放置する事を決め、傀儡達には現状通り行動を見る事を命じた。何れは密偵自身が、オーガに接触をすると推測出来たが、その時に、自らその者への対処を判断する事を決める。

城内へ意識を巡らせている時、それを中断させるかの様に部屋の扉が叩かれた。

意識を己の体に戻し、部屋の扉を開ける。

扉の前にはエニアバルグとファムトリアが、オーガを呼びに来ていた。何事かと思い、尋ねると、エニアバルグが頭を抱えた。

「やっぱりな。ファム、俺の言った通りだっただろう?

報告書に夢中になって、時間を忘れてるって。」

「そうですね…エニアの体内時計が正確過ぎて、困りものでしたけど、オーガには丁度良かったみたいですね。オーガ、お昼の時間ですが、如何します?」

二人に言われて、部屋にある時計を見ると、確かにお昼時であった。食事をするのを、忘れている事に気が付き、彼等の誘いに頷く。

普段から余り、食事を摂らないオーガであったが、操っていない者へ仲良さそうに見せる為に、彼等と行動を共にする事が多かった。

彼等は、アーネベルアの信頼の置ける部下。

それ故に、他の者から、オーガへの不信感を除く役目を担わせていた。無邪気な笑顔を見せ、時にはふざけている姿は、友人の様に見える。

それが彼等の、表面だけの偽りだと、誰も判らなかった。


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