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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
悪夢の開演
44/126

怪我の功名 後編

次回から、新章突入です。

 同じ頃、ファムトリアは、エニアバルグを伴い、炎の屋敷へと向かっていた。

上司への報告と称して、急遽外出許可を取り、エニアバルグと共に屋敷へ向かう。伝える事はオーガの事であった為、彼を外しての行動であった。

炎の屋敷に到着した彼等は、使用人に案内され、ここの主人であるアーネベルアのいる部屋に通された。

そこで、元の紅の髪と紅金の瞳に戻っている上司に、用件を告げる。

「アーネベルア様、先程述べた件で、此方に赴きました。

…エニアにも、話した方が良いと判断し、連れて参りました。」

部下の言い分に頷いたアーネベルアは、その件が何かと推測出来た。

そして、その事を口にする。

「ファムの伝えたい事は、オーガ君に関しての事だね。

然も、バートが怪我をした時に知った事…そうだね。」

「はい。私はあの時、不覚にも震えてしまい、剣士として役には立ちませんでした。ですが…オーガは…躊躇する事なく、相手に向かって行きました…。

それが…」

「何時も使っている右手では無く、左手だったと。」

アーネベルアの言葉に頷き、あの時の事を思いだしているファムトリアは、無意識に自分の体を抱き締め、震えだす。その様子に、エニアバルグとアーネベルアは驚き、横にいるエニアバルグが彼へ話しかける。

「ファム、また…震えているぞ。

そんなにディエアカルクの連中が、恐ろしかったのか?」

「いいえ、私が恐ろしいと感じたのは……あの近衛騎士ではありません…オーガです。何時もと違う重々しい口調で、怒りを露にした彼が…恐ろしかった。

王族の様な威厳と口調、そして…一瞬でしたが、垣間見れた…類稀(たぐいまれ)な剣技…。そのどれを取っても、恐ろしかったのです。」

あの時の状況を思い出し、恐怖の表情で語るファムトリアは、紅の騎士へ問った。

「アーネベルア様、オーガは…ディエアカルクの王族なのですか?

それとも…人外(..)なのですか?」

ファムトリアから尋ねられた質問で、アーネベルアは、バルバートアから聞いた話を思い出す。

精霊騎士が捜している者。

バルバートアはそちらの人物が、オーガでないかと疑っている。まだ、未確認であるが故、伝えるか如何か迷っていたが、思い切って話し出した。

「ファム、エニア、これはまだ確認出来ていない情報で、他言無用にして欲しいんだ。バルバートアから聞いた話なんだけど…ね。

オーガらしい人物を精霊騎士達が、捜しているという物なんだよ。」

「…え…精霊騎士が…ですか?

あの、神々に仕える精霊の騎士達がですか?

でも、オーガの姿は、行方不明の神子様とは違いますし…別件ですか?」

「多分、別件だと思うのだけど…行方不明の神子様…か……

そう言えば、そんな方もいらっしゃったね。未だ見つかっていない、光の神と大地の神の神子様…だね…。」

口にしてふと、オーガの姿を思い浮かべたアーネベルアは、彼に光と大地の気が強い事を思いだしたが、件の神子は光の神の特徴を持ち、彼とは全く違っている。しかし、断言出来無い事柄が、ファムトリアの身に起こった。

普通の人間は、神々や神子の怒りに恐れを抱く。祝福を受けているアーネベルアや、輝石を持つ者、穢れた者にはそれは効かない。

アーネベルアが昔聞いた事だったが、バルバートアは、お守り代わりに祖父から譲って貰った、知の神の輝石を、普段から身に着けているとの事。

輝石を持たないファムトリアの身に起こった事が、それと同じならば…オーガは神子である可能性をも、秘めていると言えよう。

だが、その反面、彼は他の属性を持ち、人間の気配を持つ故に、神子とは断言出来無い為、バルバートアの得た情報を知る事が、速急だという考えに至った。

「べルア様、オーガがもし、あの王族で無いとしたら、あいつは一体何ですか?」

「神子様では…無いと思うのだけど…精霊騎士が捜している事が、引っ掛かるね。バートから頼まれた事を早々に実行したいけど、今は忙しくて無理そうだ。」

「アーネベルア様、不躾な様で申し訳ないのですが、バルバートア様から、何を頼まれたのですか?」

「その騎士達に連絡を付けたいって、言われたんだよ。

まあ、この屋敷にいる精霊達に頼もうとしていたのを、私が引き受けただけ、なのだけどね。相手が相手だけに、ここに居る精霊では無理だから、私が直接フレィ様に話そうと思っているんだよ。」

ファムトリアに聞かれ、素直に話すアーネベルアに、彼等は納得した。

精霊騎士を呼び出すとなれば、普通の精霊では無理難題に近い。

しかし、神々──然も初めの七神の一人──なら、いとも簡単に連絡が付く。

生まれながらにして、炎の神の祝福を受け、炎の剣の担い手であるアーネベルア。彼なら炎の神を呼び出し、その精霊達に話が付けられるのだ。

だが今は、人の入れ替わりが激しい為、王宮での仕事が山積みなので、それが終えてからと彼は思った。


 一通りの報告が終った部下を、見送ったアーネベルアは、ファムトリアの体験した話を思い出していた。

彼の震えから利き腕でのオーガの剣技は、かなりの物と推測出来た。

敵に回れば、アーネベルアでも防ぎ切れない可能性を秘めている。

あの国のオーガと言う愛称の皇子は、剣の腕はからっきしで、利き腕は右だと聞いていた。然も、血を恐れ、見れば卒倒する程の人物であったらしい。

己とは反対に、剣も巧みで精霊の力も強い兄達の陰に隠れ、怯えた表情で周りを見ていたとも、言われている。

戦の際は邪魔にしかならず、直ぐに王宮から出され、貴族の館で過していたという。そして、国が戦に負けると、その屋敷から供の者と国外に逃亡した。

頼り無いとはいえ、王族が残れば、国は復興出来る。

その為の捨て石扱いされていた皇子と、その実の姉姫。他の兄弟とは違い、精霊では無く、人間の母を持つ姉弟。

今、ラングレート家にいる養子の二人と、境遇の似ているかの王族だったが、隠れているいや、隠されている真実が、彼等で無いと告げているようだった。


オーガの利き腕は、左。


以前聞いた、利き腕を使わない理由を照らし合わせれば、あの皇子と言う線は高くなるが、あの国の騎士に傷を負わせた事を考えれば、別人に思える。

人間の血が濃い皇子では、精霊を母に持つあの国の騎士に、勝てはしない。神々の気紛れで、神の祝福を持っていなければ、それはあり得ないのだ。

相手がもし近衛騎士となれば、余計に両親のどちらかが精霊の可能性が高い。あの国は王族を護る為、近衛騎士の片親は精霊と定めていた。

その騎士に、オーガは傷を負わせたのだ。

そして、応急手当とは言え、バルバートアの怪我を治療していた事。

逃亡生活で培われたと言われると、納得してしまうが、血を見るのが嫌いと噂の皇子が、自ら進んで手当をするとは思えない。

色々な事を考慮したアーネベルアは、結局ある結論に辿り着く。

「早く、フレィ様に話を付けなければ…。

バートの知っている情報を得れば、こちらも動き易くなるだろうな…。」

未だに敵味方がはっきりしない、あの少年の事を思い、アーネベルアは祭りの終わった夜を過ごした。



 一方、迎えに連れられ、今住んでいる屋敷に戻ったバルバートアは、その屋敷の主であるエーベルライアムに迎えられた。

迎えの者からバルバートアの様子を聞いた彼は、開口一番に質問を始める。

「バート、君は、祭りに行ったんじゃあ、なかったのかな?

如何してこうなったか、詳しく説明して貰うよ。

取り敢えず部屋へ戻って、医者に見せる事。それと、誰か、そちらの吟遊詩人の方に、部屋の用意を。」

怒りが見えている彼の言葉に、頷くバルバートアは、吟遊詩人も医者が必要だと告げる。それを聞いたエーベルライアムは、溜息を吐きながら、二人を医者に見せる事にしたようだ。

部屋に戻ったバルバートアは、早速手当てを受け、寝台の上で主を待つ。

彼の部屋へ来た主は、起き上がろうとする彼へ、そのままの寝ているように指示を出して、先ほど訊けなかった質問を、再び投げ掛ける。

「ところで、バート、怪我の理由と、あの吟遊詩人の事を話してくれるよね。」

「はい、エーベルライアム様。この傷は、オーガを庇って負ったものです。

覚えておいでですか?ディエアカルクの者が、弟を狙っているという噂を。」

告げられた言葉で、真剣な眼差しを添えるエーベルライアムは、吐き捨てるように、件の国の者達の事を言い始める。

「あの馬鹿共が、君の弟を攫おうとしたのか…。

君の弟君は、あの殿下に似ているけど、全くの別人なのにね~。雰囲気も違うし、纏う気も…あ…いや、気も似ているね。だけど、根本的な物が違う。

あの子は兄を慕っているけど、殿下は兄を嫌っているから。

どんなに優しかった兄でも、あの殿下は嫌っていた。自分とは別なんだってね。あの子の様に、兄である者に甘えることは無かったよ。」

「言われてみれば…そうですね。

あの子は、私やハルトに懐いています。祭りの際、再会した時も嬉しそうでしたし、私が傷つけられた事で相手に剣を向け、私を護ってくれましたよ。」

「え~~~!!あの子、剣を敵に向けたの~~??

じゃあ、余計に違うよ。あ…利き腕は右だったかい?」

驚きの声を上げる主に、追加の答えを告げる。

「オーガの利き腕は左です。

それに…あの子の剣は、あの穢れた輩を制していましたよ。

以前、人を傷つけそうで、怖いと言っていたあの子が、躊躇せずに、利き腕で敵に向かっていてくれました。あの子は…本当に優しい子ですよ。

私達は…あの子の兄になれたのでしょうか?」

弟を溺愛する発言したバルバートアに、悲しみが宿る。

彼の表情にエーベルライアムは、オーガと言う弟がバルバートアの、もう一人の弟の傍にいる時の表情を思い出した。

心から嬉しそうな笑顔と、懐いている様子。

それに…今、彼から聞いた事を踏まえて、エーベルライアムは答える。

「君達は、間違い無く兄弟だよ。

私が見たり、聞いたりした事を考慮しても、実の兄弟より兄弟らしいよ。あの子は本当に、君達を兄と思っている。

あの穢れた王宮の兄弟達とは違うよ。」

部下の悩みを解消するかの様に、エーベルライアムは自分の考えを言い、ついでとばかりに、オーガと言う愛称の殿下の事を教える。

「あの殿下は…異母兄弟を憎んでいた。

実の姉だけを慕い、兄は自分を苛める相手だと認識していたし、優しい声を掛けていた兄も嫌っていたよ。

あの殿下にとって、兄は慕う者で無く、怯えと妬みの対象でしかないんだ。

君の弟の様に、甘えたり、頼ったりしない。」

以前会った事のある、あの国のオーガという愛称の皇子を思い出し、目の前の部下の弟と比べるエーベルライアム。

義理とは言え、彼等は兄弟らしく、弟が兄を頼り、甘えていた。

恐らく今回の再会も、件の弟は兄に甘えたであろうと、誰もが想像出来る。

エーベルライアムの言葉に、バルバートアは納得し、例の事を話す。

「例の件、べルアに通して貰う事になりました。

それと、吟遊詩人の方ですが…

風の精霊の竪琴を御持ちなので、特に警戒しなくて良いと判断し、ライアム様の気分転換の、御話し相手にと考えまして、ここへ招きました。」

「君って、そう言う所まで、気が回るんだね。そっか、吟遊詩人か…

各地の色々な話を聞けるんだったら、いい気分転換になるね。

祭りも楽しんだ事だし、後は面倒な事ばかりだけど、彼の風邪が治ったら、色々聞けそうだな…楽しみだ♪

風の精霊の竪琴の音も、聞いてみたいし…ね。」

気分転換に招いたと聞いて、途端に機嫌が良くなる主に、バルバートアは苦笑した。

仕事だけで、机に縛り付ける事の出来無い、目の前の御仁は、適度な息抜きが必用であった。その為に今日、偶然出会った吟遊詩人に来て貰ったのだ。

精霊の竪琴の主であれば、警戒が必要な人物では無い。邪な心の者が、神の輝石を持つ、精霊の竪琴の主にはなれない。

精霊剣は、その技量だけでも主を選ぶが、竪琴は主の心を映す詩で選ぶ。

澄んだ心の持ち主で無ければ、詩に邪気や雑念が(こも)り、綺麗な声の響きを竪琴の意思に伝えない。

故に、選ばれた者の心は、穢れていない事となる為、バルバートアは、この吟遊詩人を静養するように説得し、屋敷に招いたのだ。

主の了承は、後でも取り付けれると確信して。

だが、静養する当の詩人は、医者代とかを心配する事が想像出来たが、その代金代わりにエーベルライアムの話し相手と、詩を聞かせて欲しいと提案すれば、説得出来るであろう。

自分としても、彼の話を聞きたいと思っているので、尚更であった。

彼の負った傷を思ったようで、エーベルライアムの話は、これで打ち切りとなった。早く怪我を治す様に言われ、大人しく寝台の上で瞳を閉じた。

瞼の裏に映ったのは、別れ間際のオーガの微笑。

再び会う約束をしている筈なのに、悲しみの籠ったそれで、バルバートアは、何か引っ掛かりを覚える。

もう、会えないと思っている様な表情に、不安が募る。

「暇が出来たら、ハルトやべルアに連絡して、オーガと会えるように手配しないと…ね。また…寂しがるだろうから…。」

まだ成人前の、子供の弟の温もりが無い事に、バルバートアは残念に思う。

甘えるように身を寄せ、まるで幼子の様に眠っていた弟。

その幸せを願う彼は、紛れも無く溺愛する兄の姿であった。


それぞれの想いを飲み込み、祭りの終わった夜は闇を纏い、人々を静けさの中へ誘っていた。

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