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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
悪夢の開演
37/126

祭りでの再会 前編

 部屋に静寂が戻り、イエットルスの話が一段落したらしかった。

重い空気が漂い、オーガは無言で佇んでいた。

この静寂を破り、アーネベルアがイエットルスに、話し掛けた。

「そういう事だから、イエットもオーガ君の事は、気にしなくて良いよ。

あ…でも、彼等に何か動きがあったら、教えて欲しい。」

「判りました。ですがオーガ殿は、彼等の動きを知った方が良いでしょうね。

後々の対策も出来るでしょうし…。」

「御願いします。…私は、もう、あの…逃亡生活には、戻りたくないのです。」

安定を望むオーガの言葉に、店主もアーネベルアも頷いた。

今の生活が大切だという少年に、何の疑いも無い。

オーガも、あの国の王族という事を、肯定した言葉を告げていない。匂わす言葉を言っているが、完全な否定はしている。

偽っているのは、あの国の騎士の血筋と言うだけであり、王族とは偽っていない。

勝手に相手が、そう取っているだけ。

今はそれでいい、この事は後々使えると、オーガは確信した。


 話が終わり、店主が料理を取分けだす。

奢りだという彼に、アーネベルア=アルデナルは、良いのかと尋ねる。

すると彼は、

「祭りの時に、こんな辛気臭い話をしたお詫びですよ。

特に、オーガ殿…いえ、オルディ君には、食べて貰いたい。」

そう言ってオーガ=オルデファナの前に、大量の利用理が盛られる。

目の前の料理の多さに、横にいる二人をちら見する。彼が食べ切れない量だと、気が付いた二人は、頷き、店主に告げる。

「申し訳ないのですが、オルディには、量が多過ぎるみたいです。」

「なので、俺達が手伝います!…で、良いのか?オルディ。」

二人の援護に頷き、暗かった表情を、困惑のそれに変えた。

「お願い~!!エニア、ファム。僕、こんなに食べらんない。

こんなに食べたら、この後の屋台の食べ物、楽しめない~!!」

「…あ、珍しいもんもあるから、否定は出来ないな。

だけど、本当に食べられないのか?」

オーガの言い訳に、店主も難癖を付けられなかったらしく、仕方無いという表情をした。彼等の遣り取りに、アルデナルが理由を述べる。

「精霊の血筋だから、元々食べる量は少ないんだ。

それに、ここに来るまで、いろんな屋台でオマケされた様だし…。」

「成程、この顔じゃあ、オマケしたくなるな。」

「そうなの?でも、殆どエニアにあげたけど…エニア、お腹、大丈夫?」

オルディの言葉に頷く店主と、急に振られたエニアバルグは、へ?と返事をして、自分のお腹に手を当てた。彼は少し考えて、返事を返した。

「全然、大丈夫だぜ。朝抜いたから…って、ファム、お前…。」

エニアバルグの頭を叩き、ファムトリアが注意をする。

「朝食を抜くなんて…身体に悪いでしょう。」

「仕方ねぇじゃん。珍しいもんが、多く出るって判ってるんだから、

楽しむ為には朝抜きが一番!」

自慢げに告げるエニアバルグへ、ファムトリアの鉄拳が再び飛ぶ…が、躱されてしまっていた。彼等の遣り取りに、オルデファナの笑いが漏れ、場が(なご)む。

意として遣った訳では無い、エニアバルグは嬉しそうに彼の頭を叩く。

「今日は祭り、笑顔が一番。で、どの位多い?」

「…半分以上…兄さんも食べる?」

術を酷使しているとは言え、目の前の量は無理過ぎた。策として、兄と設定のアルデナルへ、助けを求める。彼はイエットの方を向き、

「俺が手伝っても構わないか?俺も朝から忙しくて、食事を摂れなかったんだ。」

「ま…残されるよりは、良いだろう。これ位の量なら、お前なら楽勝だしな。」

口調が、店主としての物となったイエットルスに、アルデナルは頷き、弟役のオルデファナの皿から料理を取る。

流石に朝食を摂っていないだけあって、(またた)く間に無くなってゆく。

ついでとばかりに、オーガは、屋台で貰った料理を兄の前に持っていく。食べる?と声を掛け、その口元へ運ぶと、遠慮無しにそのまま(かじ)り付く。

本当の兄弟の様な遣り取りに、周りは安心し、各々が食事を続ける。外から持って来た料理と、この店の料理が無くなると、彼等も店を出た。



店の外は未だ喧騒の中にあり、祭りの真っただ中だという事を彼等は、嫌というほど知らされる。先程の重苦しい遣り取りを払う様に、少年達はその中へ、保護者を伴い溶け込んでゆく。楽しそうな彼等を見て、目下の保護者であるアルデナルこと、アーネベルアは自分の想いを再確認した。

彼等の様な年若い者達が、笑い合える国…微笑の絶えない国として存続して行くのなら、己はこの国の王を護る。

しかし、今の状況は、変化しつつある。

もしこの先、彼等の微笑が消える事になれば、紅の騎士は本来の主の許へ、馳せ参じる事になるだろ。かの主ならば、この国を良き状態へ戻す力を持ち得ている。

そう、彼は確信していた。

自分が最も信頼し、友人…いや、親友として扱う彼も、既に主の許へいる。

だが、今の彼は、王宮の情報を得る為に、残っているに過ぎない。このまま王が、国を悪しき方向へ導いて行くなら、あの子達を連れてでも、主の許へ行こう。

彼等の後ろ姿を見ながら、アーネベルアは己が決心を固めた。




 彼の心の動きを知って、オーガはちらりと彼を見た。

義理の兄との離別と共に、この紅の騎士との離別も近付いている事を感じた。

この事は、彼との対峙に直結する出来事。

敵として気付かれ、剣を交える時が近付く事。

判り切っている事故(ことゆえ)に、特に気にしていないのは、義理の兄の時とは違い、彼には肉親の情が湧いて来なかったからだ。

今、兄と扱っていても、ここにいるのは上司であり、敵となる炎の騎士としか見えない。懐いているように振る舞うだけで、本当に傍にいたい義理の兄達とは違う。

恐らくは、彼の内に見えるオーガに対する感情。

常に真偽を疑っているそれは、騎士として当たり前で、家族とは違う物。

逆にラングレート家の兄弟は、疑わずに家族として、受け入れてくれている。

この違いが、オーガの本心から来る、行動の違いに繋がっていた。

失った兄と同じく生まれながらにして、神の祝福をその身に受けているが、オーガを信用していない故に、兄として扱わず、何れ敵となる者として扱う者。

あの兄とは全く違う(たぐい)の人間なのに、オーガを血の繋がった兄弟同然に扱う故に、兄として慕う者。

この二者がお互い戦う事となれば、オーガは間違い無く、後者を援護する者として選ぶ。だが…実際は、そうならない事を彼は自覚している。

彼等が信頼し合っている事を知っている為、仲違いする可能性は極めて少ない。オーガも自分の真の目的を達成しようとすれば、彼等が纏まっている方が都合が良かった。

アーネベルアなら、バルバートアを護ってくれる。

彼なら義理の兄を安全な所へ向かわせ、自分との戦いには彼自身か、彼の知っている精霊あるいは、最悪神々が出てくるだろう。

そうなれば、オーガの手で、義理の兄を死なせる事は無い。

他の者の手に掛った場合は、オーガ自身が手に掛けた者を許さないだけ。

今はもう会えない義理の兄を思い、彼の微笑は表面だけの物となった。




 屋台を巡り一通り堪能した頃には、辺りは夕暮れになっていた。

彼等王宮騎士達は宿舎に帰らず、今晩は宿を取っているらしかった。アルデナルは彼等に付き添い、その宿へと向かう。

木製の建物で暖かさのあるその宿は、下がちょっとした食堂兼飲み屋になっており、既に客で賑わっている。客の中にはアルデナルの顔見知りがおり、彼等から連れの子供達の事を聞いていた。

昼間の店主に話したのと同じ事を言い、自分の部屋が狭いから弟達には宿を取っていると、尤もらしい言い訳を話している。

納得した彼等は、アルデナルと子供達を見送った。

宿は事前にアルデナルが手配していた様で、エニアバルグとファムトリアの泊まる部屋は、オーガが泊まる様に、ハルトべルアから指定されていた部屋の隣だった。

周りには心配だからと、弟の部屋まで付いて行くアルデナルを、不信がる者はいなかった。まあ、オルデファナが、綺麗で頼り無い子供と映っていた所為でもあった。

「ここが、オルディの部屋だ。」

そう言って、アルデナルことアーネベルアが、部屋の鍵を開け弟を中へ入れる。素直にその部屋へ入って行く、オルデファナことオーガは、その部屋の中央で、誰かが立っている事に気が付く。

「バート…義兄上…。」

見知った顔に驚き、立ち(すく)む。

会えるとは思っていない相手だけに、幻を見ているのかと目を擦る。しかし、目の前には確かに、バルバートアの姿がある。

彼の様子にバルバートアは微笑み、声を掛ける。

「久し振りだね、オーガ。元気だったかい?」

優しい兄の声でオーガは思わず走り寄り、無意識に抱き付いていた。

「バート義兄上…本当に、バード義兄上なのですね。御無事だったんですね。」

泣きそうな顔のオーガを受け止めたバルバートアは、オーガの言葉に頷き、

「オーガに何も告げず、家を去って、心配させて済まないね。寂しい思いもした様だね。

…本当に、済まないね。」

と、謝罪の言葉を掛ける。腕の中で首を横に振り、会えた嬉しさを告げる彼へ、部屋に入ったアーネベルアが話しかける。

「オーガ君が随分気落ちしていたから、ハルト達と相談して、何とかバートと連絡を付けたんだよ。そうしたら、祭りの時位に会えそうだという事になって、ハルト達とこの事を仕組んだんだ。」

「べルアから連絡があって、私もオーガの事が気になっていたんだよ。

祭りの日なら仕事が一段落していると思って、ハルトにも協力して貰ったんだ。

オーガが寂しがっていると判ってたから、祭りの日位は一緒にいようと考えたんだけど…迷惑だったかな?」

迷惑と聞かれて、首を思いっ切り横に振ったオーガは、再会した義理の兄・バルバートアへ言葉を返した。

「迷惑だなんて…そんな事無いよ。僕はずっと、バート義兄上と会いたいと思ってた。義兄上が怪我してないか、心配だったんだから…。

義兄上、少し体か痩せてるけど、大丈夫?」

早速、義理の兄の健康を心配するオーガへ、大丈夫だと告げたバルバトーアは、紅の騎士に礼を言う。

「べルア、協力してくれて有難う。

この子が悲しんでるのが判ってたけど、今の私には会う術がないんだ。今日からの祭りの日を逃すと…連絡も取れなくなりそうだったから、本当に有難いよ。」

「別に、お礼を言われる事をしていないよ。

部下の落ち込みを解消するには、この方法が一番と、判ってただけだしね。」

オーガが極度に落ち込んでいると、他の者にも知られていて、その解消方法も判り易かったらしいだ。

彼に取って、一番悲しく苦しいのは、身近にいる兄という存在を失う事。

事前に判っていれば対処法もあったが、突然の出来事だった為、自らが思っていた以上に衝撃が大きかったのだ。

そう、本当の兄と慕っていた、アンタレスを喪った時の様に。

それが無意識に出ていて、アーネベルア達に知られ、今に至る。

だが、それは、嬉しい誤算であった。

例え、完全な離別が、この先にある事が判っていても、目の前の義理の兄の存在は、オーガの自我を保っていられる唯一のもの。

もし、彼を喪う事になれば、彼の心は完全に邪悪に支配され、この国を手始めとして世界の全てを破壊尽くすだろう。

それ程、彼の存在が、オーガの中で大きくなっていた。

無意識で抱き付き、昔の口調に戻る程に…。 

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