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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
邪気の織り成す夢
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炎の屋敷 前編

神殿内の、炎の屋敷に近付くにつれ、オーガの体調に異変が起きた。

大きな炎の気を感じ、息苦しくなり、眩暈がしてきたのだ。

邪悪なモノを葬る力のある炎…それがオーガの身に潜む、邪悪な闇に影響を与えていた。不調に俯きながら、目の前のバルバートアに気付かれてはいけない、何とかしなければと思い、一時的に封じる手を考えた。

その直後、不思議な事に体調は戻り、邪悪な気配も心の奥底で眠っていた。

纏う人間の気で隠れているのは、精霊の気のみ。

邪悪な闇の気配が、全く無くなっていたのだ。

変だと感じながらも、闇の方が、(なり)を潜めたのだと考えた。

しかし、事実は、無意識の力の発動であったが、オーガに全く自覚はなく、その力すら理解して出来ない状態であった。


未だ、自分の持つ力を把握していない彼は後に、無意識による未知なる力の発動で、翻弄(ほんろう)される事となる。



 自分が無意識で封じたとは、気が付かないオーガは、一先ず安心だと思っていた。

精霊と知れたところで、神に祝福された者から、警戒される事は無い。そう考えて、ほっとしたのも束の間、バルバートアから声が掛る。

「オーガ、疲れたのかい?」

俯いていた事で、心配したらしい義兄へ顔を上げ、微笑みながら答える。

「はい。こんなに長く、馬車に乗ったのは、久し振りなので…少し疲れました。」

気取られてはいけないと思い、大丈夫とは言わず、疲れたと返す。

オーガの言葉に、そうかと、短く返事をし、バルバートアは彼の隣に移動した。その行動に驚いた彼だったが、直ぐに理由を知った。

「疲れたなら、少し私に寄りかかりなさい。屋敷に着くまで、そうしてると良いよ。

眠ったのなら、起こしてあげるよ。」

そう言って、オーガの頭を自分の方に寄せる。

されるがままのオーガは、その心地良さに、目を閉じた。

兄として接してくれるバルバートア…。

失いたくない気持ちと、騙している後ろめたさ……。

あの闇を封じた所為か、オーガの感情が、精霊の頃に戻っているようだった。

だが、所詮、まやかし。

偽りでしかない事をオーガは、心の底で自覚している。

そんな彼が大人しく、バルバートアの横で休んでいると、馬車は漸く、炎の屋敷に到着した。


 アーネベルアの住む屋敷には炎の結界があり、邪悪なモノを寄せ付けない場所でもある。その為、相談事や悪意の無い内緒話には最適であり、今の主は良く、友人と語らいの場所として使っている。

実家より狭いが、アーネベルア一人で住むには広い屋敷では、客人を迎える為、使用人がいそいそと、駆け回っている真っ最中であった。

午前のお茶の時間に間に合う様、調度品をそろえ、快く客人を迎える準備が出来上がる頃、屋敷の呼び鈴が鳴る。門前に馬車が到着した事を知らせる音で、彼等は足早に主へ知らせ、客人の到着を待っていた。



暫くして、ラングレート侯爵家の馬車が玄関前で止まり、中から嫡子のバルバートアと噂の義理の弟が出て来た。

優しそうな顔立ちの嫡子と、美しいと評判の義弟…。

その姿を確認すると、彼等の筆頭である執事が挨拶をして、二人を主の許へ案内した。普通の屋敷の、使用人服を着た彼等のお蔭で、ここが神殿内である事を忘れそうになる。

しかし、オーガは炎の強い気配を感じ、その圧力をひしひしと受けていた。

馬車の中の様に、気分が悪くなる事はなかったが、本来の…木々の精霊として受ける炎の気配で、力が失われて行く様に感じ、足取りが徐々に重い物となる。

そんな彼に気付いた、バルバートアが彼の手を握り、微笑んでくれた。

「ここは、炎の神の気が満ちているらしいから、初めてだと辛い人もいるって、聞いているよ。オーガも、その影響を受ける体質なんだろうね。

私は、影響を受けないらしいから、平気だけど、辛かったら言うんだよ。」

優しい言葉を掛けられ、辛いながらも、何とか微笑だけを返すオーガは、繋がれた手を嬉しく思っていた。

暖かなそれは、今より幼い頃、兄と慕った者に良くされていた。

抱っこも多かったが、歩かせると言う意味で、手を繋ぐ事も多かった。

比較的体温の低い木々の精霊の中で、アンタレスという存在は、珍しく暖かな体温を持っていた。リュース神の恩恵であるそれは、人間に比べると、幾らか低いそれであったが、オーガにとって掛替えの無い物であった。

失った筈の物が、今、手を伸ばせば、ここにある。

偽りと判っていても、それに(すが)りたい。

全てを失ったオーガにとって、眼の前の存在は、無くしたものを、埋める事の出来る存在になりつつある。

再び失うと判っていても、この手を離したくない。

決別の時までは、弟としてこの人の傍らにいたい。

そんな想いを抱えつつ、オーガはバルバートアと共に、アーネベルアの部屋に向かって行った。


 彼等が通された部屋では、アーネベルアが待っていた。

紅い地のゆったりした服に身を包み、寛いだ様子で、彼等を迎えてくれた。

「アーネベルア様、お久し振りです。

この度は、差し上げた手紙に書いた通り、義理の妹と義理の弟の事で、御相談に参りました。」

「アーネベルア様…、御久し振りです。

この度は、私事の手紙の返事頂き、有難うございました。態々、御屋敷に…御招きして頂いた上、相談に乗って頂けるとは…光栄です。」

「良く来たね。…あれ?オーガ君は、顔色が悪いけど…ああ、そうか…ここの気に当てられたのか。気配に敏感な人だと、気分が悪くなるからね。

二人とも遠慮なく座ってくれ。それとバート、公務じゃあないから、気楽な口調で構わないよ。」

「有難う、べルア。そうして貰えると助かるよ。」

砕けた口調に戻ったバルバートアに、アーネベルアは微笑を浮かべる。

親しい知人の一人である彼を、この屋敷に招き、話をするのは久し振りであった為だ。お互い公務で忙しく、城で会う事もあるが、個人で会う事は滅多に出来なくなっていた。

まだ、アーネベルアが幼く、神殿に来る同じ位の子供達と遊んでいた頃、偶然出会ったバルバートアという優しい瞳の子供。

他の子供達の様に、アーネベルアを特別視しなく、普通に接してくれた珍しい人物。

今でも、それは変わらない。

あの一件で、更に彼の立場に重みが加わった事で、彼の心配をしていても態度は変わらず、何かあったら駆けつけると言ってくれた。だが、野心家の宰相の嫡子故、アーネベアルは敢えて、彼と距離を置いている。

これさえなければ、彼等は親友という立場になっていたであろう、関係である。

そんなバルバートアからの相談を、彼が無下にする事はない。

故に、今の現状となっているのだが……。



「オーガ君、相当、当てられてるみたいだね。」

ふいに掛った声に、反応しようとしたオーガは、体が傾くのを感じた。

しまったと思ったが、隣に座っていたバルバートアが、彼の体を受け止めていた。

受け止められた彼は、それ以上動けなかった。

「アーネベルア…様…。御見苦しい…処を晒して…申し訳・・・ありません。」

途切れ途切れに紡がれる言葉で、アーネベルアとバルバートアは、オーガの事を心配する。これ程まで、影響が大きい人間は、今までにいなかったのだ。

ここまで至った原因に、思い当たったアーネベルアは、オーガに問った。

「オーガ君、若しかして、君の御両親のどちらかが、木々の精霊の血筋じゃあないのかい?」

言われた言葉に、頷き、

「実の…父が…木々の…精霊の血を…引いていました。

…只…かなり…薄いと…は…聞いて…いましたが……。」

と、絶え絶えに答えていた。燃える様な感覚を受ける体に、オーガの息も上がって行く。

すると、アーネベルアは、控えている者に何かを告げ、彼の傍へやって来た。

「そうか、木々の精霊の血筋だったのか…。

だったら、少し、我慢してくれないか?今、熱を冷ます物を、持って来させるから。」

「熱…ですか?」

「ああ、木々の精霊は、強い炎の気配の中では体調を崩し、熱を出すんだ。

多分、君の状態も同じだろう。」

言われて、納得したオーガだったが、自分の体質の事を思いだした。

「アーネ…ベルア様…その…私は…薬の類が…効き難い…体質なのです。」

「大丈夫だよ。木々の精霊なら、薬より冷たい物の方が良いだろう。ほら、来たよ。」

丁度持って来られたグラスを、オーガに渡すアーネベルア。

その中には、氷の入った冷たい水が、並々と注がれている。

ゆっくり飲む様に言われ、素直に従うオーガ。

その水が喉を通る度に、自分の体が冷えていく感覚に襲われた。

蛇足ですが、ある一件とは、アーネベルアが、炎の剣に選ばれた事を示しています。

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