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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
夢の始まり
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束の間の幸せ 前編

 ここは精霊の集う、リューレライの森。

この森に、大音量で響く声がする。気が付いた木々の精霊は、長老を伴ってその場に赴く。

その場にいたのは、人間の赤子。

金色の髪の、生まれて間も無い嬰児。

目も開かないその子は、母を求めて泣いている。

周りに人間がいる気配も無く、捨てられたのだと精霊達は判断した。

親に捨てられた子を憐れに想い、自分達の集落に連れて行き、何故かその子に精霊としての本体の若木を与えて精霊として育て出したのだ。

そして、何時の間にかその子の髪と瞳の色は、普通の精霊と同じ緑色に闇を混ぜた色・暗緑色になった。ここの精霊でもこの配色の者はいたので、何の問題も無かった。

只、成長こそは人間と同じだったが、姿は精霊と同じ。

何時しか育てられた子は、自分が精霊の子だと自覚するようになっていた。

たまに見かける人間の親子に、何故か(うらや)ましと思う感情を抱く事があったが、自分の両親である精霊は、既に亡くなっていると教えられている。

それ故の感情とその子も納得していた。

両親が居なくても長が祖父代わり、周りの精霊が親代わりとして、その子に愛情を注いでいたので別段寂しいと感じていなかった。

ふと、夢で見る両親の姿を思い浮かべる。

自分とは違う姿の両親…、夢故に前世の記憶だと思っていた。その夢も年を重ねると段々見る機会が少なくなり、その子は幼子から少年に姿を変えた…。



「オーガ、また剣の訓練かい?」

顔馴染の精霊フォンアが少年に声を掛けた。

肩までの長さで直毛の、木々の精霊特有の緑の髪を後ろで丁寧に整え一つにしている、人懐っこい笑顔の青年。

人間でいう所の20歳前後の姿であるが、精霊なだけあって厳密には聞いていないとはいえ、200歳以上になっていると少年は教えられている。その彼に微笑みながら、同じ直毛の腰より下の長さで、後ろで一つの三つ編みに纏めている暗緑色の髪の少年・オーガは答えた。

「そうだよ。レナム師匠が明日、寄合に出ないといけないから、今からその分、訓練をするって。」

「…オーガ、お前…またレナムを負かしに行くのか…。」

「…フォン、人聞きの悪い事を言わないでよ。まだ3本勝負で2本しか勝っていないんだから…。」

「おい、それで十分じゃあないか!」

「全勝するまで、()めないよ。」

オーガの言葉で苦笑するフォンアに時間が無いから行くと告げた彼は、師匠の待つ集落の広場に急いだ。その姿を見送りながらフォンアは呟く。

「あれから13年か…、人型の成長が早過ぎるが、あいつ、精霊としてちゃんと生きていけるんだろうか。本体の若木の方は成長が遅いし、未だに人型は無性別のまま…長は如何するのかな?」

剣士で無い木々の精霊特有の、薄緑の長衣が風に吹かれて揺れている。

それはまるで、彼の心情を表すかの様に……。


 木々の精霊の剣士の服、細く長い袖で膝までの短い上着と茶色の長靴(ちょうか)に身を包んだ少年は、師匠の許に着いた。

そこには既に訓練を始めている仲間がいて、彼等がオーガを迎える。見た目がオーガと同じ位の年齢の者もいれば、年上の者も、年下の者もいる。

何時もの風景に、何故か師匠の姿だけが無かった。同じ剣士の服を着ていても、他の精霊より背の高い師匠を見つけられない筈が無い。

オーガは、近くにいた同じ年頃に見える精霊へ声を掛けた。

「デエィラ、レナム師匠は?」

「気配で…オーガが来ると分かって…トンズラした。」

帰って来た言葉に脱力したオーガは、その場で肩を落とす。 

「…人が折角、急いだのに…あの人は…。ええぃ、探し出してやる!」

そう言ってオーガは、辺りの気配を探り出した。何故か生まれ持っているこの力は、精霊や人間、動物の気配を知る事が出来る。

他の精霊でも持っている者がいるが、オーガの様に正確且つ、確実に探せる者は皆無に等しい。

今は便利な物と使っているが、発覚した当初は制御に苦労した。長の協力の甲斐があって自由に使えるようになっているが、訳あって使用禁止の忠告がされていた。

その力でオーガはレナムを探し出し、生まれながらにして持っているもう一つの力を使って彼の傍へと飛んだ。

一瞬で移動出来る力…その力で師匠のいる場所へと赴いたのだ。

「…師匠…。」

オーガから逃げた筈だったレナムは、追手が目の前に来た事に驚くが次の瞬間、怒鳴り声を上げる。

「オーガ、その力は使ってはならぬと、あれ程言った筈だぞ。

何処に出るかも判らん力など、危険極まるからな。」

「師匠…目標があれば、大丈夫ですよ。只、無闇に飛ぶと危険なだけで…。

って、師匠、話を誤魔化してませんか?」

気が付かれたというような表情を浮かべたレナムは、肩で切り揃えた緑の髪を整えながら咳払いをする。

「で、不肖の弟子が師匠に何用かな?」

平静を装いながら告げるレナムに、オーガはにっこり微笑んで言った。

「師匠、今度こそは全勝して見せますよ。」

「…オーガ、それは…また今度な。」

「お断りします。今度、今度と何回、後回しにしたら気が済むんですか?」

「お前…師匠を苛めて楽しいのか?」

言われた言葉に苦笑して、オーガは返答をする。

「楽しいですよ。

僕の目標は、剣で師匠に全勝をする事です。だから…お相手、願います。」

そう言ってオーガは、愛用の剣を右手で抜き、レナムに対峙した。レナムの方は一瞬、怪訝な顔をしたが、直ぐに何時もの微笑に戻った。

「オーガ、その目標が無くなったら、如何するつもりだ。」

「長に許しを得て、剣の修行の旅に出ます。

…世の中には、もっと強い者がいる筈ですから。」

オーガの言う旅は、剣の道に進む者にとって大切な事だが、オーガには修行の許可が長から降りない。

恐らくレナムに全勝しても、出る可能性が無い事を彼は知っていた。

オーガは、この森に捨てられた赤子故に、ここから出てると本当の両親に会う可能性がある。真実を知ってオーガが傷付く事を長は、一番(おそ)れていた。

我が孫同然に可愛がっている長だからこそオーガに真実を伝えられず、手放す事すら躊躇(ためら)っていたのだ。しかし、オーガの成長振りが精霊のそれで無い事は、長もレナムも承知していた。

遅かれ、早かれ、この地から離さなければならない。

その時期は今では無い、とレナムは思っていた。


「オーガ、まだお前は幼い。

だから長が許さないのであって、わしとの勝負には関係ない。」

まだ20代後半と言っても大丈夫な外見で、【わし】という一人称を使う師匠にオーガは未だ違和感を拭えない。精霊だから外見年齢よりも長く生きていると頭では理解しているのだが、如何(いかん)せん自分の成長振りで見てしまう。他とは違う成長の仕方にオーガも、自ら違和感を覚えていた。

その為、自分は精霊とは違うのかと悩む時もある。

だが、姿は精霊そのものなだけに、他と違うだけなのだと納得していた。

13歳…彼等から見れば、かなり幼い部類に入る。だから長も師匠も、他の仲間も心配するのだ。

「…師匠…僕の我儘だった。御免なさい。

でも…どうしても、剣の腕だけは何とかしたいんだ。何故か、判らないけど…。」

剣を収めながら、オーガは素直に謝った。そんな彼へレナムは、優しく頭を撫でながら告げる。

「オーガ、もうすぐアンタレスが帰ってくる。

彼奴(あやつ)も強くなっているだろうから、お前の稽古を頼んでおくぞ。」

レナムの言葉にオーガは、大いに喜んだ。 

兄として慕っていたアンタレスが、更に強くなって帰ってくる。嬉しさのあまり、師匠の腕を振り回し、

「ねェねぇ師匠、レス兄さんは、何時に帰ってくるの?」

とオーガは尋ねた。はっきりとしないが近々だとオーガに振り回され、苦笑を浮かべながらもレナムは答える。

この元気の塊のような弟子にレナムは甘い。

長の事は言えないなと思いながら、嬉しそうに去って行くオーガを見送っていた。


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