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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
番外編・神殿の守護精霊
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第八話

その遣り取りを見て、リシェアオーガは、考え込んだ。

アンタレスが新しい家族を得た事は、喜ばしい事だが、今の彼は神殿の守護精霊。ここを離れられない彼は、新しい家族のいる場所へ会いに行けない。

そんな事を考えていると、カーシェイクから声が掛った。

「リシェア、君の心配は要らないよ。

アンタレスは今日限り、神殿の守護精霊の任を解かれる。」

カーシェイクの声に、当の本人が驚き、振り向いた。

「カーシェイク様。それは、私が無礼を働いたからですか?」

「いいや、違うよ。

君は、私の修業を受けるのだろう?守護精霊では、それは出来無い。だから、君は、今日限り、守護精霊では無くなる。

元木々の精霊だから、大地の精霊になって貰うよ。ああ、母上には私達から言っておくから、ランシェ共々、一緒に帰ろうね♪」

嬉しそうに告げるカーシェイクに、アンタレスは脱力した。ランナの方は、父親に言っておくよ~と嬉しそうに告げていた。

家族が増える事は、ランナにとっても嬉しい事だった。

例え、大叔父が増えるとしても…だった。

「ランナ、レスが身内になると言っても、お前は迷惑を掛け過ぎるな。」

何時もながら、辛辣な指摘をされ、ランナは苦笑していた。大丈夫と声を上げるが、やはり甥っ子の域を超えない扱いだった。


不意にアンタレスの傍へ、ファンアとレナムがやって来た。そしてその肩を叩き、

「良かったな、レス。念願の家族が出来て。」

「ほんと、レスに家族が出来て、良かったよ。

オーガ…リシェアオーガ様だけだと、お前が寂しがって、困るからな。」

レナムの純粋な労いの言葉と、ファンアの冗談交じりの様なそれに、アンタレスは微笑みながら頷いた。弟を失いたくない、一人になりなくないと思っていた彼に、新たな家族が出来た。

前世の家族とは言え、彼等はアンタレスを受け入れてくれている。

その想いのまま、リシェアオーガへ、彼は言葉を掛けた。

「オーガ…いえ、リシェアオーガ様。貴方の兄だった事に、私は誇りに思います。

貴方も…新しい家族許で、幸せになって下さい。」

決別とも取れる言葉に、リシェアオーガは、一瞬悲しそうな顔をしたが、何かを決心して微笑み返す。

「レス、今、私は幸せだ。カーシェイク兄上もいるし、ファース義姉上もいる。リーナも、母上、父上もいる。家族に囲まれ、精霊達に愛され、幸せだ。

…それに、護りたい者達もいる。ルシフの人々、そして、慕ってくれる精霊達だ。」

微笑みながら告げる彼の後ろに、優しい気配が近付いてくる。

その気配に気付き、振り向いて走り出すリシェアオーガ。

緑の髪と紫の瞳の女性と、金髪と青き瞳の男性…大地の女神と光の神の許へ、リシェアオーガは赴いた。その後をゆっくりと、カーシェイクも付いて行く。

リシェアオーガは、母と父の許へ着くと、両親に向かって子供らしく微笑み、振り返る。家族の許で、神子の、極上の笑顔を浮かべ、アンタレスに言葉を掛けた。

「レス兄さん、心配は要らないよ。

私…いや、僕は家族の許へ戻れて、幸せだよ。

だから、レス兄さん…アンタレスも新しい家族の許で、幸せになってね。」

昔の口調に戻しながら告げるリシェアオーガに、アンタレスも頷き、微笑む。

リシェアオーガの言葉を聞いた父親は、我が子を抱き上げ、彼等に微笑んだ。

「ルシェに伝言を頼んだが、やはり、自分で言いたくなってな。

元リューレライの森の精霊で、今は我が妻の神殿の守護精霊達よ。我が子を慈しんでくれて、有難う。感謝する。」

「私からも感謝します。リシェアを育ててくれて、有難う。」

「オーガの事を、構ってくれて有難う。」

光の神と大地の神の言葉の後に、少女の声が聞こえた。その声がした空の方へ、リシェアオーガは手を伸ばし、隠れていた少女を引っ張り出した。

「リーナ、一言余計だ。」

空中に現れたのは、リシェアオーガと瓜二つの少女。

リーナと呼ばれた少女は、父親に捕まり、リシェアオーガと向かい合わせで、父の腕に捕われる。

不服そうな顔の少女は、父親の腕から抜け出た途端、走り出し、彼女を捕えようと今度は、少年も父の腕から離れ、自分そっくりな少女を追い駆け出した。


「リーナ!!」

直ぐに捕えられた少女は、リシェアオーガの腕の中で、未だ不服そうな顔をしていたが、彼の抱き締める力が強まると、満足そうに微笑んだ。

「大丈夫よ。私は大丈夫…「じゃないだろう。危ないかもしれないから、付いて来ちゃあ駄目だって、言ったのに…。」」

少女の声に、少年の声が被る。失いたくない、もう一人の自分…大切な兄弟だからこそ、両親の許に置いて来た。それなのに…。

リシェアオーガの心を読み取った少女、リーナは意外な言葉を告げた。

「オーガ、私は大丈夫。誰も、私を傷付ける事は出来ないの。私が間違った事をしない限り、私の体を傷付ける事の出来る者は…貴方しかいないの。」

「え…?リーナ?それ、如何いう事?」

「貴方は私の半身だから、私に傷を付けられる。でもね、他の人は無理。

私が、愛の神の役目を持ってるから…なの。」

慈愛に満ちた気に触れると、戦意喪失する事を告げるリーナに、リシェアオーガは納得し掛けた…が、

「それでも、駄目。リーナの心が傷付くのは…耐えられない。」

本音を言う、リシェアオーガの抱き締めた手に、リーナは、そっと自分の手を置く。

そして、大切な言葉を紡ぐ。

「私の心が一番傷付くのは、オーガがいない事。

こうやって、オーガと触れ合う事が出来ない事。

ずっと傍にいて欲しいとは言えないけど、心はずっと一緒よ。」

愛の告白の様な言葉に、両親は元より、精霊達まで頭を抱えた。確かに両性体の者は、伴侶を選ぶ事は稀だ。

だが、性別は違う双神が、お互いを伴侶として認め、結婚した事実もある。神子達の遣り取りは、そう見えたが、現実は違った。

「…リーナ、何だか、婚姻を申し込む様な言葉に、聞こえるんだけど…違うよね。

リーナとは、兄弟だし…。」

「え?そう、聞こえるの?私は姉妹として、言ったのに~~~。今まで、ずっ~と別々で、心だけは繋がっていたから、正直に言ったまでよ。

…でも、オーガがいれば、他の相手は欲しくないわ。だって、伴侶って、お互いが必要だからでしょ。私には、オーガしかいらない…あ…れ?」

自分の言葉に、不思議がるリーナへ、カーシェイクが尋ねた。

「リーナ、如何したのかい?」

「……お兄様、私って、変なの。オーガは、恋愛対象ではないのに、必要なの。

でも、他の人が、そうなるかと聞かれたら、無理なの。」

半身の言葉を受けたリシェアオーガも、自分の事を正直に告げる。

「…そう言えば、私も恋愛感情は、不必要だと本能が告げているし、返す物が無いと感じる。」

二人の意見に、カーシェイクは無言になった。

確かに、一代限りの神龍王には、血の繋がりを作る伴侶の必要が無い。その影響が、リーナに出ているのか…と思った。

考え事をしている彼に、ジェスクが正論を言って述べた。

「両性体の神々には、恋愛感情を持たない者が多い。

一人で子を生せるから、必要が無い。双神として生まれた事は珍しいが、お互いがもう一人の自分として、必要なのだろう。

…二人が親元から離れない事は、良い事なのだが…面倒事が起きそうだな。」

本音を漏らす光の神に、周りの者は苦笑した。

娘達を嫁にやる事をしなくて良いと思う父親と、娘達の美しさに(うつつ)を抜かし、彼女等を攫おうとする輩が出る事を、危惧する姿勢。


昔の事があるからこその彼の言動に、精霊達は進言をする。

「大丈夫ですよ、我が主。そんな輩は、我等が阻止します。

そうでしょう、ラン、ランナ、アンタレス。」

光の騎士の言葉に、名指しされた精霊は頷く。ランシェ、アンタレスは判るが、何故、ランナまで…と思ったリシェアオーガは、その事を問った。

「ルシェ、ランとレスは、判るが、何故、ランナまで巻き込む?

彼はギルド騎士だろう。」

「リシェアオーガ様、俺…いえ、私は、貴方に仕えたいと思っています。」

言われた言葉に、リシェアオーガは考え込んだ。

既に神龍を従えている身である彼に、これ以上騎士が必要か?

神々に仕える多くの者の中から、選んだ神龍達の他にも、仕えたかったと言っていた精霊を無視して、彼を騎士として召し抱えて良いのか…と。

考えた挙句に出た答えが、

「ランナ、神龍達と会ってくれるか?彼等と相談して決めたい。」

だった。納得したランナが頷こうとした時、姿なき声が聞こえる。

「我が君、ランナ殿なら、我が君の騎士に相応しいですよ。」

「そうですよ、私からも推薦します。

…まあ、ちょっと、落ち着きがないのが、玉に傷ですけど。」

「…皚龍(がいりゅう)翆龍(すいりゅう)…お前達…。」

リシェアオーガの声で、姿を現したのは一組の神龍。

白い髪の風の龍と、緑の髪の大地の龍。

二人は笑いながら、リシェアオーガの傍に寄り、ランナと向き合った。

「ランナ殿は、ギルド騎士でしたね。

ならば、その人脈を利用して、この世界の情報を得るのも手だと思いますよ。」

翆龍の提案で、リシェアオーガは頷き、ランナに向き直った。

真剣な目で彼を見つめるランナは、精霊騎士になる為の言葉を口にする。

『我、木々の精霊ランナは、ここに不変の忠誠を、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ様へ誓います。その証に、この剣を捧げます。』

精霊が神に仕える誓いの言葉と、両手で剣を頭上に持ち上げ、仕える神に捧げる行動へ、リシェアオーガは答える。

『木々の精霊・ランナよ。我、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガは、そなたの剣と志、しかと受け止めた。

我が精霊騎士として、永遠に我が傍で仕えよ。』

利き腕をランナの精霊剣に置き、告げられた言葉に、ランナは歓喜した。主との繋がりが出来たと判る態度に、アンタレスも動いた。

『我、大地の精霊アンタレスは、ここに不変の忠誠を、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ様へ誓います。その証に、この剣を捧げます。』

まさかの出来事に、リシェアオーガは驚いたが、先程を同じ事を繰り返す。

『大地の精霊・アンタレスよ。我、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガは、そなたの剣と志、しかと受け止めた。

我が精霊騎士として、永遠に我が傍で仕えよ。』

告げられた誓いの言葉の返答を再び口にし、アンタレスに視線を移したリシェアオーガは、困惑顔で彼に尋ねた。

「アンタレス…いや、レス…本当に()いのか?

我に仕える事に決めて…良いの?」

語尾がつい、昔の口調に戻るリシェアオーガに、アンタレスは微笑んだ。

「いいんですよ、俺が決めたのですから。

オーガ…いえ、リシェアオーガ様。これでずっと一緒ですよ。」

言われた言葉に、嬉しそうに微笑むリシェアオーガへ、カーシェイクの言葉が飛んだ。

「リシェア、アンタレス…レスは修業が終わるまで、精霊騎士として仕えるのは、御預けだよ。判ってると思うけど。」

「はい、十~分承知ですよ、カーシェイク様。

修行が終わるまで、リシェア様の許へは戻りません。」

敢えて戻るというアンタレスに、ランナも頑張れよ~と声を掛ける。その様子に、神龍達も微笑み、御待ちしていますと声を掛ける。

彼等の遣り取りに、精霊騎士は元より、神々までもが微笑ましく見ていた。


(かく)して、新しい神…戦の神・リシェアオーガの、新たな精霊騎士が決まった。

後に龍神の騎士または、龍の騎士と呼ばれる彼等が、正式に揃うのは、後何十年か掛る事となる。

彼等がリシェアオーガの許へ集い、新たな運命を受け入れる事は、件の神にとって喜ばしい事であったが、彼の保護者が増えるだけ、という事を判っているのは、周りの者達のみであった。

一応、この話で【緑の夢、光の目覚め】は終わります。

が、この後もリシェアオーガの冒険(?暴走??)は、まだまだ続きますよ~。


では、続編でお会いしましょうね~♪

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