表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
番外編・闇と光の竪琴の主達
118/126

後編

そんな話をしている時、不意に、扉を叩く音がして、声が掛った。

「カーシェ様、リシェアオーガ様は、いらっしゃいますか?」

「ランシェ…いや、ラン、如何した?」

聞き覚えのある声に、思わずリシェアオーガは声を出す。これに続いて、部屋の主も声を出した。

「ラン、リシェアなら居るよ。入っておいで。」

掛けられた声に扉が開き、見知った木々の精霊が入って来る。彼は、部屋にいる他の精霊騎士に気付き、驚いていた。

「アレスト、エアレアまで…如何したのですか?」

「野暮用だよ。それより、ランは、如何してここに?」

訊ねられたランシェは、リシェアオーガに近付き、手にしていた物を両手を添えて、差し出した。それは竪琴だった。

シェンナの森にいた頃、ランシェから譲られた、薄緑の物。それをランシェは、リシェアオーガに渡しに来たのだ。

「リシェアオーガ様、忘れ物をお渡しします。」

だが、差し出された物を、リシェアオーガは受け取らなかった。代わりに謝罪の言葉を、彼に掛ける。

「ラン…御免。今の私に、それは必要無いんだ。」

「…リシェアオーガ様?それは、如何いう意味ですか?」

厳しい声で言う、ランシェの質問に、リシェアオーガは態度で示した。

虚空に手を伸ばし、言霊を紡ぐ。

『我が竪琴よ。我が前に、その姿を現わせ。』

その言霊に反応して、伸ばされたリシェアオーガの手の中に、竪琴が現れる。

白く輝く輝石で出来た、竪琴。

本体にある太陽と月の装飾には、金色の輝石が填まり、それが何であるか、見ている者達には、はっきりと判った。

「ジェスリム・ハーヴァナム…、リシェア様、まさか…。」

「光の竪琴の、主…、リシェア様?」

「そうだよ、ラン、アレィ。(ジェスリム)竪琴(・ハーヴァナム)は、リシェアを主と認めたんだ。」

ランシェとアレストの驚きに、カーシェイクは、嬉しそうに告げた。

自慢の妹が、自分の成し遂げなかった事を成し遂げた…と言うより、光の竪琴に対して、見る目があると感心している。

美しく可愛い妹を、竪琴が選んだ。

良く遣ったと、竪琴を褒めて遣りたい気分であったのは、言うまでも無い。

所詮はあの神々の長男、我が子達を溺愛する彼等の息子は、妹達を溺愛し、妻を溺愛する者であった。



 唯一の担い手を求める、竪琴の主…その事実に、ランシェは苦笑した。

確かにこれでは、この竪琴は必要無い。手に残った竪琴を如何しようか、思案していると、リルナリーナから声が掛った。

「ラン、それ、私に譲って欲しいの。…駄目かしら?」

「リーナ様が、ですか?何故?」

「オーガも、お兄様も、エアも、アリエとルーニァも竪琴を持っているのに、私だけ持っていないの。ランの大事な物だと、判っているのだけど…それ、凄く綺麗だし…。

オーガが一時(いっとき)でも、使っていた物だから……駄目?」

ランシェの持っている竪琴が、綺麗な物故に相当気に入ったらしく、仲間外れや、双子の兄弟が使っていた物だからと、何かと理由を付けて欲しがるリルナリーナに、ランシェは(なご)んだ。

可愛らしく、愛らしい大地の神子(みこ)のおねだりに、如何しようかと思った矢先に、その片割れである神子からも声が掛る。

「ラン、良かったら、リーナに、譲ってあげて欲しいんだ…。リーナが、それをかなり気に入っているし、私が詩を習っている時に、一人だけ仲間外れは可哀そうだし…。

それに………私も……リーナと一緒に習いたい………。

でも、無理なら、いいんだ、別のを捜すから……。」

同じ様に可愛らしく、微笑ましくも思える、リシェアオーガの言葉で頷いたランシェは、手にしていた竪琴を、リルナリーナに渡した。

「リーナ様、弟の形見、宜しくお願いします。」

「有難う、ラン、私、大切にするわ。」

極上の笑顔と共に、宣言するリーナに、ランシェは見惚(みと)れた。流石は、リュース神の神子、木々の精霊を魅了するなど、御手物だった。

まあ、本人に自覚はなく、素直に反応しただけだったが。



渡された竪琴を強く抱き締め、嬉しそうにしているリルナリーナに、リシェアオーガは突込みを入れる。

「リーナ、あまり強く抱き締めると、弦が狂るって、綺麗な音が出なくなるぞ。」

「えっ、本当?」

「本当だよ、リーナ。君には、手入れから教える必要が、あるみたいだね。

その点リシェアは、必要ないみたいだけど…。」

残念そうに言うカーシェイクに、精霊でしたからと、告げるリシェアオーガ。

竪琴の手入れは、身近にいたファンアという、精霊の遣っていた事を何気に覚えた為、手入れは自分で出来る。

只、弦が特殊な為、その弦を創る事を父親から、教えて貰う事になった。

まあ、嬉々としてジェスクが教えた事は、言うまでも無い。




「ランも来た事だし、リシェア、弾いてみるかい?」

言われたリシェアオーガは、アレストを見る。闇の竪琴の主である彼を前に、遠慮しているのかと思ったが、違っていた。

「アレィ、一緒に、演奏して欲しいんだけど…駄目?この竪琴とアレィので共演したら、如何なるか、試してみたいんだ。」

自分の来た目的を言われ、アレストは驚いたが、すぐに頷いた。

「自分、その為に、来た。リシェア様、曲目、何に、する?」

即答されたのは、リシェアオーガが初めて引いた曲…アレストの演奏を聞き、一番最初に覚えた、光の神の旅立ちの曲だった。

片割れであるリルナリーナも、実兄であるカーシェイクも好きな(うた)らしく、嬉しそうな言葉が聞こえる。

「オーガ、あの詩を詠うの?嬉しい♪前は、繋がっている状態で、オーガの耳を通してだったから、どうしても、自分の耳で聞きたかったの。

しかも、アレィとオーガの詩を、同時に聞けるなんて…凄く嬉しい♥」

「リーナ、そんなにリシェアの詩は、良かったのかい?」

「勿論、アレィのも良かったけど、オーガのあの詩は、凄く良かった♪」

「それは是非、聞きたいね。」

燥ぎ過ぎ加減のリルナリーナの声と、ご機嫌なカーシェイクの声に、あの詩を聞いた事のある精霊達は頷いた。

初めて詠った物なのに、感心する程上手かったのだ。


 あの時、この幼子(おさなご)に、ジェスクの姿を思い浮かべたエアレアは、眼の前の子が、本当に神子・リシェアだった事実に納得した。

剣の腕と言い、竪琴の腕と言い、この幼子とジェスク神の面影が重なる。血筋故の才能、神に愛されし人間では無く、神の愛し子である神子。

今、本当の家族に囲まれ、幸せそうに微笑む幼子に、彼は和み、喜んでいた。

とある国の改革の最中、再会した幼子は、その身を邪悪に染め、心の中では泣いている様だった。愛する者を全て失い、嘆き悲しんでいた幼子…。

その子は今、愛し愛される者達に囲まれ、幸せそうに微笑んでいる。その事実が、エアレアは心底嬉しかった。


 それは他の精霊、ランシェも同じだった。あの国の改革の際に再会した幼子は、心を押し隠し、無表情か、邪気を含んだ微笑であった。

敵として出会った彼に、精霊騎士達は戸惑い、剣を向ける事を躊躇した。

だか、その幼子は神と戦い、そして敗れた。

父と知らず、光の神・ジェスクに剣を向けたが、もう一人の自分…今傍にいる、双子の兄弟の片方によって、命を長らえ、家族と会えた。

自身の姿の違いに戸惑い、一時はその身を隠したが、本来の姿に戻った今は、家族…両親であるジェスク神とリュース神の許にいる。

傍らには常に、双子の兄弟のリルナリーナと、兄であるカーシェイクが(つど)っている。

この微笑ましい光景に、彼等精霊は嬉しく思い、自然に微笑んでいた。


 リシェアオーガの傍へ座る様、カーシェイクとリルナリーナに促されたアレストは、リシェアオーガの空いている左側に座った。

そして、自分の竪琴を呼ぶ。

呼ばれた竪琴は、主の腕に収まり、ポロンと嬉しそうな音を鳴らす。

その音に応じたのか、リシェアオーガの竪琴も、同じ様な音を響かせる。意思を持つ、対なる竪琴同士が、話している様であった。

闇の竪琴は光の竪琴に、主に出会えた事への祝いの言葉を掛け、それに光の竪琴が返事をした。そう、リシェアオーガとアレストは感じる。

「何だか、闇の竪琴も…喜んでいるみたい…。」

リルナリーナの言葉に、カーシェイクも頷き、

「光の竪琴は、永い間、主を選ばなかったからね。

…まあ、父上から離されて、不貞腐れ、拗ねていた所為だろうけど。」

と、身も蓋もない言葉を掛けていた。それ程、父であるジェスクを慕っていた物が今度は、その実子であるリシェアオーガを慕う。

同じ光の血筋だからで無く、その腕に魅かれた…と思えるのだが、それを披露したのは、闇の竪琴を弾いた時のみ。

若しかして…とリシェアオーガは、アレストに問った。

「アレィ、闇の竪琴と光の竪琴って、対だったよね?

若しかして、繋がっているの?」

子供らしい言葉使いになっている彼に微笑み、アレストは簡素に答えた。

「繋がって、いる。リシェア様と、リーナ様…、御二方と、同じ。」

「じゃあ、闇の竪琴を弾いた者の事を、光の竪琴へ、伝えたって事もあるの?」

「ある。…光の竪琴、リシェア様、選んだの、それが、起因、かも。」

あの時の事を思うと、可能性は有り得る。

初めての演奏で、あれ程上手く竪琴を弾き、詠った詠い手。

主無しの対なるそれに、闇のそれが伝え、件の物が、主としてリシェアオーガを認め、出会う事を願った。そう考えると、あの一件は、不思議では無かった。

対なる者から、伝えられた詠い手を気に入り、その手で奏でられる事を切に望んだ。だからこそ、自身が収められているルシフで、リシェアオーガを呼んだ。

主となって貰いたいから………。


 アレストとの会話で、自然に出てくる昔の言葉使い…精霊騎士を相手にしている物で無く、家族である精霊を相手にしていた時の物。

その遣り取りにカーシェイクは苦笑し、そっと、リシェアオーガに話し掛けた。

「リシェア、私にも、その言葉使いで良いんだよ。」

ふと漏れた望みに、リシェアオーガは驚いたが、無理と返事が返って来た。理由はというと、無礼過ぎるだった。

そんな事はない、兄弟なのだしと言うと、じっと見つめ、

「尊敬している兄上に、丁寧な言葉使いをしては、いけないのですか?

それに今は、師匠でもあるんですよ。」

「…尊敬?ああ、そういう事か。

う~ん、私としては、先程の言葉使いの方が、嬉しいんだけどね。」

嬉しいと言われ、一応、努力しますと、返したリシェアオーガ。

それで満足したらしいカーシェイクは、そんな妹の頭を撫でる。

目の前で起こる、神子達の可愛らしい遣り取りに、精霊達も微笑んでいた。


 そんな遣り取りが一段落した頃、リシェアオーガとアレストが竪琴を弾き出した。

光と闇の共演…その澄み切った音は、見事なまでに重なり合い、詠い手の声も美しいまでに響き渡る。

以前の担い手である、光の神と闇の神の共演の様に、紡がれる音は、神々の住まいを巡り、詩声は神々の心に沁み渡った。それは、光の神の私室に届き、詩に誘われた空の神が、彼の部屋へ訪れて来る程であった。

「ジェス、この詩は、リシェとアレィか?」

「その様だな。」

「ねぇ、ジェス、ラール、提案があるのだけど…。

あの子達に、今度の生誕祭の詩を頼めないかしら。」

何時の間にか来ていた、闇の女神の声に、光の神と空の神は頷いた。

「リダ、良い考えだな。

早速、他の七神に話して、決まり次第、彼奴等をルシフへ向かわせよう。」


神々の思惑を余所に、光と闇の竪琴の共演は続いた。

それを神々と神子達、そして精霊達は、何時までも聞き入っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ