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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
番外編・闇と光の竪琴の主達
117/126

前編

ここからは、番外編となります。

「ジェスク様。訊きたい、事が、あります。」

闇の神・アークリダに仕える、闇の精霊騎士であるアレストが、久し振りに、光の神の住居へ赴いていた。その第一声が、これであった。

傍には、好奇心旺盛な風の精霊騎士・エアレアがいて、瞳を輝かせている。

「…アレィ、私に訊きたい事とは、何だ?」

私的な遣り取りであった為、愛称で呼ぶジェスクは、眼の前の騎士を見やった。

あまり表情を出さない彼が、真剣な眼差しで、自分を見る…余程の事と思いきや、帰って来たのがこれだった。

「光の竪琴、ジェスリム・ハーヴァナム、主、見つけた。

その主、誰か、教えて、下さい。」

アレストに訊かれ、ジェスクは脱力し、頭を抱えた。民に下賜(かし)した筈のあれが、次の主に選んだ者が…問題だったのだ。

右手で頭を抱えたまま、苦悩した顔で無言になったジェスクを、アレストとエアレアは、不思議そうな顔をして見つめた後、光の竪琴が選んだ主が、かなり問題がある人物だと、思い当たったのだ。

神々の中でも竪琴の名手と呼ばれる、知の神であるカーシェイクが、(たわむ)れに触れた時も、他の腕自慢が触れた時も、主としなかった。

仮の主すら認めない、あの気難しい光の竪琴が、今回、黒き王の騒動の最中に自ら主を決めたのだ。


アレストは、(アークレィア)竪琴(・ハーヴァナム)(・ウェル)

彼の闇の竪琴は、対である(ジェスリム)竪琴(・ハーヴァナム)が、遂に主を選んだ事を彼に教えた。今まで主が無く、只、存在しているだけの光の竪琴が主を得て、その音を響かせた。

己の竪琴を通じて知った、光の竪琴の喜び。

主と共に詩を綴れる喜びに、打ち震えている様子を、アレストは感じ取っていた。そして、そこまで、竪琴に好かれている主と会いたい、共に演奏してみたい。

そう思ったアレストは、傍仕えしているアークリダに尋ねたが、彼女は頭を抱え、ジェスクに尋ねる事を進められた。

だが、眼の前の光の神も、彼女と同じ反応をし、頭を抱えている。


無駄に終わると思いきや、彼から言葉を掛けられた。

(ジェスリム)竪琴(・ハーヴァナム)(・ウェル)なら、カーシェの許のいる筈だ。

今、あの子に、詩を教わっている。…誰か、いるか?」

ジェスクの言葉に、光の精霊騎士が入って来た。長い金髪の、細身の騎士…アレストとエアレアの見知っている騎士だった。

「御呼びですか?ジェスク様。」

光の騎士は、自分の主の傍に、知り合いの騎士達がいる事に気付き、彼等に微笑んでから、主の許へ向かう。

「ルシェか…。済まんが、二人をカーシェの所へ、案内してくれ。」

「承知しました。」

簡素な遣り取りの後、光の騎士・ルシナリスは、彼等と共に部屋を退出した。そして、改めて二人を見た彼は、彼等に尋ねる。

「アレィにレア…2人揃って、如何したのですか?」

「ルシェ、光の、竪琴が、主、選んだ。…会いたくて、来た。」

「私は、アレィのお供だよ。

アレィを、ここまで運んだついでに、新しい光の竪琴の主に興味があったから、このまま留まったんだよ。」

二人の返事に、ルシナリスは、そうですかと言って、微笑む。

「二人の様子だと、ジェスク様は誰か、御教えにならなかったんですね。」

光の騎士の推測に、二人の騎士が頷き、残念そうな顔で言葉を綴る。

「そうなんだ。ジェスク様は、只、頭を抱えて、困惑していらしただけなんだよ。それでね、カーシェイク様の所に行くよう、言われたんだ。」

「レアの、言う通り。…カーシェ様の、所に、行けと、言われた。」

二人の反応に、ルシナリスは、クスクスと笑いだした。事情を知っている彼は、自分の神が取った行動に、思い出し笑いをしたのだ。

彼の態度に、エアレアが不思議に思い、尋ねた。

「ルシェ、如何したの?」

「いえね、(ジェスリム)竪琴(・ハーヴァナム)(・ウェル)が決まった時に、ジェスク様は、同じ事をされていたので…ね。つい。」

未だに、笑いが止まらないルシナリスに、納得した彼等は、やはり、問題があるのかと、改めて思った。

…確かに、問題有々ではあったが………。


 カーシェイクの部屋に着いた彼等は、扉を叩き、部屋の主の返答を待った。

部屋からは、既に竪琴の音が聞こえていたが、カーシェイクの物だった。

光の竪琴の奏者が弾いていないという事は、カーシェイクが手本に弾いているという状況であると、二人の騎士達は判断した。

流れていた音色が止まり、扉に向かう足音がした。足音が止むと、扉が開かれ、そこには、カーシェイクが立っていた。

リュース神と同じ、緑の髪と紫の瞳の男神…知を司る神であるカーシェイクは、装飾の全く無い無地の、深緑の長衣を着ている。

普段着のままでいる彼に、精霊騎士達は一礼をする。

「やっぱり来たね、アレィ。あれ?レアも?そっか、アレィを送って来たついでに、興味津々で見に来た訳だね。」

微笑みながらも、的確な指摘をする彼へ、精霊騎士達は、簡素に返事をした。

「はい、流石、カーシェイク様ですね。」

「カーシェ様、光の、竪琴の、主、会いに、来た。

ここに、いると、ジェスク様、教えて、くれた。」

二人を案内し終わると、ルシナリスが、その場から離れようとした。が、カーシェイクは、それを止めた。

「これから、演奏させるんだよ。

ルシェも折角だから、聞いててくれないかな?観客は、多い方が良いし…ね。」

引き留められたルシナリスは、素直に頷き、アレストとエアレアと共に、カーシェイクの部屋に入って行った。

そこには、カーシェイクの妹達──両性体なので、弟でもあるのだが、彼は妹扱いをしている──が揃っていた。今は金色の光髪と、青い空の瞳の双子…新しい神々が窓際の、座る為に周りより高くなっている、緑の絨毯の上にいた。

一人は白地で、装飾の無い騎士服、もう一人は、こちらも装飾の無い白地だが、ドレスだった。

男女、別々の服を着ていた二人が、共に結っていない長い髪を絨毯の上に広げ、部屋に入って来た精霊騎士へ、目を向けていた。


「オーガく…いえ、リシェアオーガ様とリーナ様?」

「オーガ…リシェアオーガ様?リーナ様?如何して、ここに?」

精霊騎士に問われ、先にリルナリーナが答え、それにリシェアオーガが続いた。

「?お兄様に、(うた)を習っていたのよ。アレィとレアは、どうしてここに?」

「アレィにレア?…あ、そうか、アレィは、闇の竪琴の主だったな。

アレィ、レア…呼び方は、リシェアでもオーガでも良い。」

思い当たった事を口にした、リシェアオーガは、彼等の驚いた様子を見て更に、言葉を続ける。

「父上に言われて、来たのだろ。

その様子だと、何も知らされていない様だな。」

姿も、口調も、昔と違う幼子に、アレストとエアレアの表情が曇った。

目の前の子供が初めて会った時と、すっかり変わってしまった事を実感している騎士達を、当の本人は、キョトンとした顔で見つめる。

「アレィ、レア、如何した?私は…何か、変な事を言ったか?」

「リシェア、彼等は、君が変わった事に戸惑っているんだよ。可愛かった口調と素直な態度が、全く違う、固い口調と態度になってるから…。

リーナみたいに、もう少し、子供らしくしても良いんだからね。」

兄であるカーシェイクに指摘され、リシェアオーガは考え込んだ。子供らしくと言われても、この2年で培われた口調と態度を、元に戻す事は難しかった。

「…無理、今…直せない。………二人とも、すま…いや、御免。」

胡坐(あぐら)を掻き、右足を両腕で掴んで肩を落とし、彼等を上目遣いでみるリシェアオーガに、エアレアが苦笑した。

それはオーガの、昔と変わらない行動だったのだ。


一方、アレストは、リシェアオーガに近付き、そっと、頬に手を伸ばす。

見上げる幼子の瞳の色は、変わっていても、触れて感じるのは同じ気配。

大地と光の気配。

それと共に感じる、心の中の人間と精霊の気配は、この子が神子(みこ)と生まれた為、(いつわ)りとして纏えるもの。

危険なモノは無くなり、それに包まれていた、得体のしれないモノの正体が、はっきりと判る。全ての属性を持つ龍王の気配…それがこの子の本質と、アレストは感じる。

「リシェアオーガ様の、心の本質、変わって、いない。

ちゃんと、リシェア様、ここに、いる。」

微笑みを添えて言うアレストに、リシェアオーガは、安心した微笑を向けていた。向けられた闇の騎士は、触れていた手を離し、彼を抱き締める。

幼い頃のカーシェイクと同じ微笑み、泣きそうな幼子が安心して向けた微笑と、同じ物を向けられ、反射的に抱き締めてしまったのだ。           

呆気に取られる、エアレアとルシナリスだったが、カーシェイクは、跋悪(ばつわる)く感じたのか、上を向き、瞳を(おお)う様に右手を添えている。

自分が幼い頃、経験したアレストの行動、それが目の前で起こっていたのだ。

「アレィ…私に似ているからって、リシェアまで、子供扱いするのかい?

…あ…まあ…そう言えば…まだ、リシェアも子供だったね。」

カーシェイクに言われ、アレストは微笑み、

「リシェア様、カーシェ様と、似ている。

小さな、カーシェ様、リシェア様と、同じ、笑い方、してた。」

懐かしそうに告げる彼に、精霊騎士達は納得した。

何かに付け、幼いカーシェイクの世話を焼いていたアレストを、何度か見た事のあるルシナリスは、彼の今の行動が同じという事に気付く。

エアレアは、その事実を聞いた事はあったが、実際に目にした事はなかった。だが、確かに、今のアレストの態度は、恋愛対象では無く、保護者の態度。

ジェスク神とリュース神に、通じるものがあった。 



そんな中、腕の中に納まったままの、リシェアオーガが、アレストに声を掛けた。

「アレィ、良い加減、離して、欲しいのだ…、いや、欲しいんだけど…。

でないと、練習が出来ないんだ。」

なるべく、口調を戻そうと努力している幼子に、無理しなくて()いと、闇の騎士が告げる。そして、ゆっくりと腕から解放すると、リシェアオーガは溜息を()く。

彼の傍らでは、半身であるリルナリーナが、楽しそうに笑っている。

「アレィの過保護には、お兄様とエア、アリエとルーニァ、そして、私も、慣れちゃったから、オーガも慣れてね。」

「リーナ…慣れったって…えっ?兄上も?」

意外な事実を知った幼い光の神子の一人は、驚いた眼で兄を見つめる。妹の反応で兄は、微笑みと返答を返した。

「今でも、たまにされるよ。アレィは、父上達と同じで、過保護だからね。」

神子達の言葉を受けて、今度は騎士達が口を開く。

「…神子の心配をしない精霊はいませんよ。カーシェ様、リーナ様、リシェア様は勿論、他の神子様の事も、私達精霊は心配しますよ。」

光の騎士の言葉を皮切りに、風の騎士と闇の騎士の言葉も続く。

「確かに、リシェア様は一番、心配だね。カーシェイク様は、大丈夫だと思うけど…リーナ様は、如何かな?」

「リーナ様、リシェア様と、エア様と、同じ。良く、無茶を、する。だから、心配。」

精霊達の過保護振りを目の当りにした、リシェアオーガから、苦笑が漏れる。精霊として生きていた頃にされた、過保護な対応の理由を、改めて認識したのだ。 

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