終焉~穏やかな日々の訪れ
自慢の娘の姿が現れた事で、ジェスクは満足げな顔をしていた。その後ろから、クリフラールとリュースの声がした。
「…ジェス、鼻の下、伸びてるぞ。それとリシェ、何故、リーナを呼べるんだ?」
「貴方…自重して下さいね。リシェア、リーナ…無茶はしないで。
繋がっているとは言え、まだ不完全でしょう?」
「伯父様、それは、私達が繋がっているからよ。それと、お母様、私は大丈夫。
生まれてから、ず~っと私は、オーガと繋がっていたの。でも…こうやって、行き来するのは、私がオーガを呼ぶ事の方が、多かったから…オーガ、大丈夫?」
「…?大丈夫だけど…。ああ、この姿に戻ったから、繋がり易いのか……。
リーナの考えや、先程まで何をやっていたのか、全部判るよ。」
クリフラール神に尋ねられ、リュース神に注意される、リシェアオーガとリルナリーナは、改めて、自分達が繋がっている事を自覚した。特にリシェアオーガは、今まで感じなかった、半身の見聞きした事を知る事が出来た。
双子の兄弟であり、お互いが繋がっているからこそ、半身の傍へ一瞬で行くという、特殊な技が使えるのだ。
一番初めは、リルナリーナがリシェアオーガを護る為、父親を止める為に、彼等の前に現れた。その結果、彼女は彼を護り、自らの半身…両親の前から姿を消した、半身と知らしめた。
後は、彼女が彼を心配して、その傍に赴くか、彼女が彼を呼んでいたのだったが、今回は初めてリシェアオーガが、リルナリーナを呼んだのだ。
今まで繋がりを制限され、リシェアオーガの周辺の事を把握出来無くなっていた為、リルナリーナは寂しい想いをしていた。
そんな折、リシェアオーガから、初めての呼び掛けがあった。
嬉しくて飛び込んだのは、そんな理由だった。
だが、嬉しさのあまり、周りを確認しなかった事は問題であった。まあ、安全な場所だからこそ、リシェアオーガは、リルナリーナを呼んだのだが……。
双神が揃った所で、ルシフにいる人々と、精霊達、神龍達は、改めて、ジェスク神の神子である彼等を、見比べていた。少年と少女の姿の違いはあったが、両性体である為、双方が片方の性別になってしまえば、見分けは付かない。
身長、背格好はほゞ同じ、髪型は前髪が有るか、無いかの違いだけで、有る方がリルナリーナで、無い方がリシェアオーガの違いのみ。これでは後ろ姿になると、全く見分けが付かない。
特徴の方も同じ直毛の、同色の髪、瞳の色も同じであったが、リルナリーナの方が、やや暖かく見える色だった。
それに、逸早く気が付いた、ルシフの大神官・ガリアスが、未だ見惚れている王の代わりに、彼等に言葉を掛けた。
「我が王を差し置いて、挨拶するのは礼を欠きますが…、未だ、王は、貴方様方に見惚れている御様子なので、私から、御挨拶をさせて頂きます。
リルナリーナ様、御初に、御目に掛ります。ルシフの大神官を務めさせて頂いている、ルシフ・ラル・ルシアラム・ガリアスと申します。新しい神であるリルナリーナ様の、御美しい御姿を拝見出来て、真に光栄に存じます。
こうして、御二方が並んでおられると、本当に良く似ておいでなのが良く判ります。
無理矢理違いを見つけるならば、御二方の瞳でしょうな。
リルナリーナ様は、晴れ渡る空の色、リシェアオーガ様は、それを映し包み込む、澄んだ水の色…と見受けられます。」
「…晴れ渡る空と、それを映し、包み込む澄んだ水の色…確かに言えている。
アスよ、何時もながら、そなた、良く思い付くな…。」
ガリアスの表現に感心するジェスクに、彼は微笑みながら、返した。
「ジェスク様。このガリアス、年は喰いましたが、美しいものを見極める眼力は、未だ衰えを見せておりません。しかも、ジェスク様の神子なら、尚更です。
精霊の姿のリシェアオーガ様も、御美しかったですが、今の御姿の方が数段に御美しいです。我が王が、未だ正気に戻れぬ様に…は…。」
語尾を濁しながらガリアスは、自分の真横で、リシェアオーガとリルナリーナを見て惚け(ほう)ている、サニフラールに視線を映した。
仕方無くガリアスが、態と大きく、咳払いをすると、漸くサニフラールも正気に戻った。自分が今、如何なっていたかに気付くと、跋悪そうに俯く。
その様子に、ジェスク神は、静かに笑い出した。
「サニフよ。済まぬな、我が子達が、魅力的過ぎた様だ。
これ程までに二人とも、美しく育ったからな。」
ジェスクの、我が子の自慢が始まりそうになるが、逸早く、その娘の一人であるリルナリーナが口を挟む。
「お父様、それは後で、やって下さいな。
今は、ルシフの人達の労いの方が先でしょう?
皆様、ご苦労様でした。もう、リシェアオーガのお蔭で、脅威は無くなりました。
安心して、暮らして下さい。私達は、貴方々の平穏を約束します。」
「リーナ、それは七神の方々が、言う事ではないの?」
「だって、お父様が言われないのだから、代わりに言ったのよ。」
可愛らしい双神の遣り取りに、ジェスクの後ろにいた他の七神は元より、ルシフの人々からも、笑いが漏れる。
「ジェス、お前より娘達の方が、しっかりしているんじゃあないか。」
「ラールの言う通りですね。
リーナ達の方が、きちんと、神の自覚がありますね。」
「ラール…リダ…。」
クリフラールとアークリダの言葉に、絶句したジェスクに、止めとばかりに、リュースの言葉も掛けられた。
「貴方、我が子が可愛いのは判りますが、公私を混同させないで下さいね。
我が子自慢は、後でも出来ます。まずは、彼等に祝福を。」
彼女の言葉で七神は頷き、ルシフにいる人々へ祝福の言葉を掛けた。
そこの言葉は風に乗り、世界の隅々まで響き、行き届いた。
劃して、この世から、黒き髪の王の脅威は去り、神龍王として、この世界に新しい神・戦の神が誕生した。
その神は、人々を邪悪なるモノから護り、時には、人間の狂気から護る事となる。
かの神の傍らには、様々な属性の神龍が存在し、彼を助け、共に戦い、友として語らう姿が見受けられるようになる。
神話…神々の叙事詩は語る。
嘗て、邪悪に染まり、破壊の限りを尽くした精霊剣士は、双子の半身の働きにより、自らの心を取り戻し、その身の邪悪を浄化した。
そして、元の家族の許に帰り、神となり、本来の姿と役目を取り戻す。
身を以て、邪悪なる敵を知る事…それが、本来の役目に戻る為の試練。
それを克服した神こそ、神龍の王である。
かの王は、慈悲深き神であり、また冷酷な神である。
そして、守護神であり、破壊神でもある。
その事を忘るるなかれ。
一応今回で、本編は終わります。
次回から、この後に番外編が続きますので、宜しかったら、付き合って下さいませ。




